中編4
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開かずの教室

閑静な住宅街の中心部に位置する都内T区のS小学校。戦前からある伝統校で地域とのつながりも深い。

しかしこの小学校には開かずの教室があった。常時施錠され誰も入ることができない。あの教室は絶対開けるな、とだけ語り継がれ、歴代の校長ですらその理由を知らない。

北校舎1階の一番奥隅の教室。かつては1年生の教室だったということだけが古い卒業生の証言で分かっている。学校の正面玄関の直ぐ脇にある校舎間取図を見てもそこだけ空白で何も記されてない。

ある日事件が起きた。

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「開かずの教室ってあるだろ?あそこ行ってみようぜ」5年2組の高橋昌宏が突然提案した。当然だが誰も賛同しなかった。

「ちぇっ、何だよみんなビビりだな。じゃ俺一人で行くよ」

「おい高橋、やめとけよ」

人の忠告を聞く高橋ではない。何せ高橋は担任教師が手を焼くほどの悪童だ。

「俺が開かずの教室とやらの秘密を暴いてやるよ」

高橋はすっかりヒーロー気分だ。

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その日の放課後。

皆が下校した後、高橋は一人で開かずの教室に向かった。周囲は誰もいない。そっと戸に手をかけた。

「あれ?」

開かずの教室のはずが施錠されておらず、戸がわずかながら開いた。

驚きのあまり急いで戸を閉めたその時だ。

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「高橋君、こっち来て遊ぼう」

中から男の子の声が聞こえた。

「えっ?誰かいるの?」

高橋は戸を開けて誰もいない教室へと入って行った。

この日を最後に高橋は突然姿を消した。

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「聞いたか、2組の高橋が蒸発したってな」

そう愉快そうに言ったのは5年4組の渡辺裕和だ。

「あいつ勉強が嫌いだったそうだし、どうせ家出だろ」

渡辺は人が突然姿を消したのに不謹慎にも楽しそうだ。

「違うよ、高橋はあの開かずの教室に行ったらしいんだよ」

「そっか、じゃ俺があの教室に行こうか?高橋のヤツ、まさか開かずの教室をいいことに隠れてるんじゃないか」

そう言う渡辺も教師たちの間では札付きの問題児童だった。

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やはり放課後のことだ。渡辺が教室に近づき戸を開けようとした。

何故かまた、教室の戸が開いた。開かずの教室がまたも無施錠だ。

渡辺が驚いていると、また教室の奥から声が聞こえた。

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「渡辺君、こっちだよ。おいで」

またも中から男の子の声が聞こえた。

「あれっ、高橋じゃないのか?」

渡辺も声が気になり教室に入って行った。

そして渡辺もまた忽然と姿を消した。

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高橋と渡辺もいなくなった。騒然とした学校は緊急父兄会を開くと同時に警察に捜索願を出した。教師の間でもさすがに騒ぎになった。

しかし第三の事件が起こる。

次に消えたのは5年5組の鈴木茂樹だ。

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鈴木の担任は学級会であの教室には絶対近寄るなと固く釘を刺した。しかし鈴木も先生の言うことを聞かない問題児だ。

二人が消えたってことは何かあったんだろ、俺が暴くよ、と放課後一人で開かずの教室に向かった。

やはり戸はカギが掛かってなかった。夕暮れで照明もなく薄暗い教室。誰もいない。戸を閉めて帰ろうとしたその時。

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「鈴木君、みんないるよ、君も遊ばない?」

あの男の子の声がした。

「えっ?みんないるって?高橋と渡辺もか」

鈴木は声がする教室の奥の方にと歩いて行った。そして鈴木もいなくなった。

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三人が突然消える。

あまりにも奇怪な出来事に地元のマスコミまでもが騒ぎ出し大騒動となった。

「あの教室に何か原因があるんです。カギを壊しても中を見分しましょう。警察も中を見たいと言ってます」

副校長が校長に提言した。しかし校長は頑なに拒否した。

「ダメだ、あそこを開けることはできないよ」

「何故ですか、あの開かずの教室を見て見ぬふりをするんですか」

「君にだけ言うが、これは私が赴任したばかりのときに地域の町会長から聞いた話なんだ」

校長は重い口を開いた。

「戦時中、空襲があって当時この学校の在籍児童が4人犠牲になっている。会長の同級生らしいが犠牲になったのが高橋、渡辺、鈴木、東という人らしい。

高橋、渡辺、鈴木の3氏は校庭で倒れているのが発見された。

しかし東という一人だけ、何故か遺体がみつかっていないそうだ。学校内に逃げ込む姿を見た人もいるらしいんだが。

その東という人が通っていたのが、あの開かずの教室なんだ」

「ええっ!高橋、渡辺、鈴木って今回失踪した3人と同姓ですよ」

「まさかと思うが」

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結局、3人が消えた事件はそのまま迷宮に入り、何の証言も得られないまま、ただ時が過ぎた。

そして何年も経ち、誰の脳裏からも消えかかっていた。

事件から10年ほど経った。

学校改築のため既存校舎の解体が始まった。

北校舎が解体され、あの開かずの教室も工事のため中が開けられることになった。

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shake

そこには信じ難い光景が広がっていた。

4体の白骨化した遺体が教室の奥から発見された。

遺体はどれも衣服を身につけておらず、周囲には遺留品さえなかった。

しかし一体だけボロボロの衣服を着て、古ぼけた布の名札が付いているのが微かに読み取れた。

名札には薄い墨でこう書かれていた。

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