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中編4
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カラスがいなくなった

六年前の話になるかな。

ある地方の山の上に住んでいた、ある人の話だ。

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私はそのころ、中学生だった。

試験や勉強、同級生とのトラブルや学校の先生のことで酷く悩み、精神的に不安定な時期を過ごしていた。

あまりの辛さから何度も自分で死のうとしたことがある。

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それでも生きていた私は、

唯一安心して居られる祖母の家へよく一人で行っていた。

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玄関から入ってすぐそばの部屋が私のよくいる部屋だった。

大きな窓があり、窓辺にはソファがある。

そのソファに座り、私はよくスマホを弄っていた。

そんな時だろうか。

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ふと窓の外へ視線を向けると、敷地内に見知らぬ年配の女性が立っていた。

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一瞬驚いてすぐ祖母を呼びに行くも、その時祖母はすぐに来ることができなかった。

たぶん、料理をしてたんだと思う。

それで私は祖母が来るまでの、女性の相手をするよう頼まれて外へ出た。

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外では先ほどの女性が私を待ち構えていた。

「あら、こんにちはあ、Sさん」

「あ、こんにちはぁ」

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当たり障りない挨拶をして、用件はなんだろうとそれとなく聞いた。

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でも女性はなぜか答えず、天気がいいだとか、私は叔父の嫁かと聞かれたり、女性は上の空な状態で同じ話を繰り返す。

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そこで私は思った。

そういう病気の人なのだろうと。

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私は内心気まずくなった。

同じ話をされてますよとは言えず、祖母が来るまでずっと女性の話し相手をするしかなかったのだ。

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これ以上話を聞き続けるのはキツい、と感じ始めたころにやっと祖母が来てくれた。

祖母は女性のことを知っていたのか、女性を見るなり「ああこの人か」というような態度を見せた。

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私はほっとして祖母と代わり、部屋の窓から二人の様子を窺う。

すぐに話は終わったようで、数分で祖母は帰ってきた。

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「あのね、あの人は病気されてるからたまに上から下りてくるのよ。普段は息子夫婦がいるはずなんだけどね」

「そうなの?」

「そう。もし見かけたら家に戻るよう言ってあげてね」

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上から──というのは山の上、という意味だ。

とはいえ祖母の家も山の上にあるため、祖母の家よりも更に上の方に住んでいるということになる。

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その時の私はたいして気にせず、そっかと返事をしてまたスマホに手を伸ばした。

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それから一二ヶ月くらい経った頃か。

その日はめずらしく町内放送が流れた。

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「先日、○○さんが行方不明になりました。お心当たりのある方は、~~~までご連絡ください」

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聞き終わる前に私の中にはある予感が芽生えた。

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次の日、

祖母の家へ行くと祖母から女性が居なくなったと伝えられた。

母も一緒にいたので二人して驚いたのを覚えてる。

やっぱりあの時の放送は女性のことだったかと、心の中で確信を得た。

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ここで話は逸れるが、

地方の山にはカラスが沢山いる。

これは冒頭の「ある地方の山」についての部分を差しており、

一概にすべての地方にカラスが沢山いるとは限らないのであしからず。

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祖母の家は山深いところにあり、カラスも多いが猪、タヌキも多かった。

おそらく初めは敷地内に植えてあるイチジク、トマト、柿、その他もろもろの食べられるものを狙っていたのだろう。

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それがあまりに多すぎたため、よく祖母は空き缶にロケット花火を差して打ち上げていた。

それに驚いたカラスたちが木から一斉に飛び立ち、大合唱と共に空を黒く覆っていたのを私は不気味に思っていた。

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たぶん、それを根に持たれたのだと思う。

カラスはよく祖母の車を落とし物で汚し、わざわざ家のすぐ近くまで来て様子を窺うようになったのだ。

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私が中学校から出ると、東の方角には祖母が住む山が見える。

その上空には大量の黒い影──カラスが竜巻のように群れを成している。

ちょうど屋台で売ってる、トルネードホテトのような感じだ。

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なので、

トグロを巻くカラスたちの姿を見るたび、私は祖母がロケット花火を打ち上げたのだなと思っていた。

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それがある日突然、いなくなった。

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例の女性がいなくなってから、

祖母の家の前には警察車両が何台か停まるようになった。

警察犬が地面の匂いを嗅いでいた。

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祖母が言うには家にも何人か警察が来たらしく、女性のことについて聞かれたそうだ。

その際、祖母も進捗を聞いたという。

話によると、女性は山を下りようとしたようで、途中までの足取りは掴めたそうだ。

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ただ、そこからは匂いが途切れてしまい、捜索が難航しているのだとか。

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結局、

女性がどこに行ってしまったのか分からず仕舞いのまま、捜索は打ち切られた。

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なんでも山は費用が掛かるそうだ。

親族から(捜索は)もういいと話があったらしい。

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それにしても、

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これだけは不思議に思うことがある。

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女性が居なくなってから数週間、

嘘のようにあれだけ沢山いたカラスが居なくなったのだ。

いつも聞こえていた鳴き声が聞こえなくなり、

ちょっと不気味だった。

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しかし、また数週間後には何事もなかったかのように戻ってきていた。

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きっとあの女性は──

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なんて、恐ろしい考えが今でも頭を過ることがある。

Concrete
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