友人から観葉植物をもらった。
小ぶりのバケツくらいの鉢に入ってて、けっこう大きい。
私はそれを言われたとおり、日当たりのいいところに置いた。
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一日目
土の表面が乾いてきたら、水を鉢底から溢れるくらい与えるといいらしい。
丁度乾いてたのでたっぷりとあげてみた。なんだか昨日より元気そうだ。
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二日目
観葉植物が来てから、部屋の空気が変わったような気がする。
森林浴してるときみたいな、空気の美味しさっていうのかな。これは、友人サマサマだな。
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三日目
昨日は大丈夫だったのに、今朝見たら萎れていた。
土が乾いてたから、水をあげると少しして元気になった。次から気をつけなきゃ。
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四日目
今日は土が湿ってたので水はやってない。
仕事も休みだし、ぼーっとしてると、
ふと植物のことが気になった。
見ると切れ込みの入った葉っぱが、どっかの国の民族仮面に思えて面白かった。
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五日目
今朝見たら、また土が乾いていた。
今度は多めに水をあげたのだが、寝るときにはすっかり乾いていた。
そういえば、このごろ喉が渇くな。
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六日目
明日、会社の先輩が遊びに来ることになった。
部屋の掃除をするが、手が当たった拍子に植物の茎が一本折れてしまった。
水をあげて様子を見ることにした。
夜には元気になったので、ほっとした。
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七日目
部屋に上げた途端、先輩が変なことを言い始めた。くさいらしい。
家庭ゴミの臭いではないらしいけど、自分じゃ分からないな。
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先輩に悪いことしたなあ。
とりあえず換気しようとしたら、先輩が植物を指差す。どうやら臭いの元はそこらしい。
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「これ、なんか埋めてんじゃないの」
「えっ?」
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私は、いやそんな事はないと思うのですが。
と続けたが、結局先輩に言われるがままベランダに鉢を移した。
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新聞紙を敷いた上に中身を出し、スコップはなかったので代わりに割り箸を使うことにした。
根を傷つけないよう慎重に土を崩していき、半ばあたりで変なものを見つける。
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歪な形のウィンナー。
ところどころ、土の付着してないところは白っぽくて、ぶよぶよしてるように見える。
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「ウッ」
先輩の呻き声が聞こえた。
振り替えると口元を手で押さえ、顔を背けていた。臭うのだろうか。
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私は正体を知りたくなり、如雨露に水を汲んで戻ってきた。
おそるおそる、割り箸で排水溝の中へウィンナーを転がしていく。
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しかしなんの抵抗もなく、触れたところから箸先が沈んだ。
ウィンナーなんかじゃない。まるで、
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ナメクジがぎっしり詰まった箱の中に、
手を突っ込んでいるかのようだ。
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私はウィンナーに水をかけた。
水にさらわれ、落ちた汚れの分だけ見えてくる全貌は、それだけで驚愕の事実だった。
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心臓をギュッと鷲掴みにされたような、
怖い目に遭ったときのようなドクドクと強く、
嫌な脈打ち方をする拍動が全身に伝わる。
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これは、
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赤ちゃんだ。
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生まれたてでもない。まだ、
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はらの中にいないといけない子どもだ。
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八日目
あのあと、私はすぐ警察に通報した。
駆けつけた警察官らによって観葉植物と死体は押収され、私と先輩は事情聴取という形で連行された。
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解放されたころには、すでに日は暮れていた。
この日は疲労のあまりお風呂に入ることも、
食事を作ることもままならず、家に着くなりベッドで泥のように眠った。
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次の日のニュースで、友人が捕まったことを知った。
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「子どもが生まれてくるのを楽しみにしてくれたのは、友人だけだった。
料理を作ってたら急にお腹が痛くなって、そのままトイレに駆け込んだら生まれた。
生まれた子は観葉植物の土と一緒に埋めて、友人に贈った」
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容疑者はこのように供述しており、
また容疑者の夫は、
「妻の身に起きたことをもっと早く知っていればよかった。皆様に申し訳ない」
とコメントを出しています。
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警察はより詳しい情報を得るため、
今後も捜査を進めていくとのことです。
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ニュースらしい、
淡々とした声が延々と聞こえる。
頭の中を一周、二周、三週。
ずっと聞こえる。
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ごめんね。
私が気づいてあげるべきだった。
作者わもて
水子はこう言います。水を頂戴。おなかの水が無いなら。