Fさんが、大学生の頃の話だ。
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当時、家から一番近いバス停に行くだけで化粧が取れて悲しい顔になってしまうFさんは、よくアルバイト先の近くにある公衆トイレでよくお色直しをしていた。
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そんなある日のことだ。
Fさんは、その日お腹が急に痛くなってきたので、初めてそのトイレで用を足した。
3つ個室があり右から2番めの個室に入ったそうだ。
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「あぁ、トイレ綺麗で良かった…」
そう思いながら、スライド式の鍵を閉めた。
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用を済ませた後、便器に座って左側のところに5センチほどの黒いガムテープが貼ってあるのに、Fさんは気づいた。
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こんな綺麗なトイレになんでこんなものがあるのだろう、と思いながらも、それを捨てる為に手を伸ばした。
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するっと一回貼り直したかのように簡単にそれは取れた。
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その瞬間、Fさんの目に黒い物が目に飛び込んできた。
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それは、ボールペンで「死ね」とか書かれた文字だった。
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「もし、そんなもん見ちゃったら、気持ち悪いとか、怖いとか思うのかもしれませんが…」
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Fさんが、その字を見た感想は、「綺麗」と感じたという。
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「怖さや、気持ち悪さよりも、すげーって言う感動が勝っちゃったんですよ。」
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「死ね」って言う言葉のマイナスイメージを全く感じさせない、
そんな字でした。
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Fさんは、黒いガムテープを貼り直した。
こんな綺麗な字が、価値がわからない人に消されてしまう可能性を危惧したのだ。
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あのガムテープも、あの字を守るためのものであったと確信しながら、いつものように、手洗い場へ向う。
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そして、化粧ポーチから、化粧道具を取り出そうとすると、裏側にいつもとは違う感触がある。
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ふと、気になって裏返してみると、
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黒いガムテープが貼ってあった。
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流石に、剥がす気にはなれなかったという。
作者レッドカーペット
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