霊感って本当にあるんだと思った実話。
高校の時に付き合っていた彼女がいわゆる霊感体質だった。
何も見えない方向に向かって悲鳴をあげて、首の無い人が見えるとか、この部屋は嫌な感じがするとか、聞いてもないのによく言っていたのを覚えている。
自分はまったくそういう事を信じていなかったので、いつもまた何か言ってるな、くらいにしか思っていなかった。
というかそもそも霊感以前に相当な天然で、高校生なのにサンタも若干信じていたくらい。子作りも妊娠かコウノトリの2パターンから選べると言っていた。
よくイラッとしていたが顔はめちゃくちゃ可愛いかったので、これも愛嬌だと思って全てを許していた。
これはそんな彼女が当時あったうちの実家に初めて遊びに来た時の話しです。
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当時の実家は古いアパートで、その横に木造の長屋が一緒にくっついてる変な作りをしていた。
子供の頃は、既にその長屋には誰も住んでおらず、実家の倉庫として使われていた。
ただ1番奥の一世帯だけ特殊で、外から木の杭を打ち付けて、誰も入れられないような開かずの間になっていた。
子供ながらに不思議に思って外の隙間から中を覗くと、荒れ果てた部屋に昔住んでいた人の家具がまるまる残っていて、動物園の象の匂いがしたのを覚えている。
そして彼女が来た時にその長屋の1番奥の部屋を見て、嫌な感じがすると言い始めた。
たしかにお化け屋敷のような長屋だったが、親父はそのアパートと長屋両方の大家だったので、いつもなら聞きながしていたが、さすがに実家の事を悪く言われてカチンときて、どう嫌な感じがするの?とつっかかった。
すると、長屋の開かずの間の部屋から紫色のオーラが見えると言い始めた。
その紫のオーラは怒りや悲しみが強い時に出るとの事。
人の家に向かって嫌な事言うなと思いながら、家に招こうとすると、案の定彼女が入りたくないと言い始めた。
見えちゃうから紫のオーラに触りたくないと、わけわからない事を言い始めた。
触ると見たくなくても無意識に見えちゃうらしい。
さすがにいい加減にしろよと喧嘩になった。
いい加減うんざりしていたのと、実家を悪く言われた事から、その問題の部屋の前まで彼女の手を引き、何が見えるかハッキリ言ってみろと責めると、言いたくなさそうに少し間を置いて彼女が目をつぶった。
...この部屋でね、おばあさんがおじいさんにご飯を食べさせてるのが見える。と答えた。
当時アパートの大家である父親から、奥の部屋は元々老夫婦が住んでいて、事故があった部屋だという事だけは聞いていた。
だから他に借り手もつかないし、また掃除も大変だから取り壊すまであのまんまにするんだと。
彼女から言われてその事を思い出しゾッとした。
合ってる?と聞かれたが、知らない、とはぐらかした。老夫婦が住んでいた事を当てるくらいなら出来るだろう。
...おじいさんね、ボケてると思う。
彼女が続けた。
...なんで?
...目も虚ろで口もうまく動かせないから。
全然ご飯食べてくれなくて、おばあさんがすごく困ってる。
彼女いわくその紫のオーラを頭の中に取り込むと、ストロボのようにパッパッパと当時のイメージが見えるらしい。
...ご飯を食べさせてるけど全然食べない。
食べても吐いちゃう。
食べこぼしとゲ⚪︎で居間が汚れている。
その吐いたゲ⚪︎を食べようとしておばあさんが止めているのが見える。
夜中に冷蔵庫に排泄物を詰めている。
お醤油さしを押入れに投げ込んでる。
そのたびにおばあさんが泣きそうな顔で後片付けをしているのが見える...と続けた。
象の匂いを思いだした。浮浪者みたいな生き物の匂い。彼女がここまで話して、子供の頃に隙間から覗いたあの部屋が頭に浮かんだ。
...ガスコンロでコートを燃やしている。
おばあさんが必死に消し止めてる。
もう何をするか分からない。このままじゃ気を抜いたらいつ火事になっちゃうか分からないし他の人に迷惑もかかっちゃう。
そこでおばあさんの顔つきが変わった。
...怒りと悲しみと諦めが混ざったような、泣きそうな顔でゆっくりとおじいさんの首をしめてる。
お互い一言もしゃべらないで、見つめあってる。おじいさんの動きが止まる。
おばあさんが立ち上がって、椅子を引きずってる。
そのおじいさんの真上でね、首つっちゃった。
そこまで話してうーうー泣き始めた。
彼女が帰った後に親父に聞くと、そのまんま。なんで知ってる?と心底びっくりしていた。介護疲れによる無理心中で部屋を潰したらしい。
それ以来、象の匂いを嗅ぐとあの長屋の部屋を思い出す。
作者純情超特急