稲荷新田物語:3深く耕さず井戸を掘るな ※日本史・神社ネタ

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稲荷新田物語:3深く耕さず井戸を掘るな ※日本史・神社ネタ

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やや大きな地方の町であるから、稲荷以外の神社やお寺もあることにはある。

一例を挙げれば、今では駅に近く商店街になっているあたりに天神がある。大昔から定期的に市が立っていたこともあって、明治以後にも商店が集まりやすかったらしい(交通の立地条件でも、鉄道や道路を引くのに有利だったのか)。

一般に天神というと菅原道真なのだけれど、ここの場合には普通の天満宮に限られず、より古い形式や習合・混淆があらわれているようだ。菅原道真は死後に天神になったとされるわけだが、「不遇の忠臣・賢臣」という日本人好みのキャラクターでもあることなどで、親しみやすく普及しやすかったのか。「天の神々」というタイプの信仰や神社では、神宮の内宮(皇大神宮)の天照大神も天の神(の代表的な一つ)だから、おそらく有史以前からの宗教イメージが(天満宮という形態で)結実して現代まで残ったのだろう。

ここの天神様は、しばしば菅原道真とも同一視されているようだが、どうも元は雷神や祖先神を祭っていたようである。縁起・伝承によれば「村の怪物退治のために、雷が落ちて天下って」とされている。それが菅原道真の英霊だったというのは後世の解釈だが、大元は祖先神たちが子孫の窮地を助けるために、という話だったようである。

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その近くに「深く耕さず井戸を掘るな」とされている土地があって、こんな逸話が残っている。

あるときに不作であったため、翌春に播くための雑穀の種子すらあまり残っていなかった。そこで学のある僧侶に「どうしたものか」と訊ねたり、占いなどもして荒れ地になっていたその場所に畑を作ることにした。すると豊作で救われたのだという。

そこで翌年からも、より本格的に畑作して大勢が定住しようとすると、その相談した僧侶がたしなめて言うには「深く掘ってはいけない」「井戸を掘るのは止めた方が良い」などと言う。

ところが大勢で住もうと思えば、やはり井戸があった方が良い。止めるのも聞かず、わけがわからないまま掘ってみた。

すると。

大量の人骨。獣の骨。

仰天した村人たちはそれ以後に妖怪に苛まれ、そこで「雷神が天下って」という経緯だった。

大昔の天神様周辺の町の果て・境界の土地であるために、おそらくは墓地であったのだろう。雷神事件が記憶に残ったために「発祥の縁起」とされているようだが、より古い時代から何かしら宗教的な社や聖地だった可能性が高いのでないか。

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