僕の人生、どこで選択を間違えたんだろう…?
:
その場その場で、最善の出来うる
最善の選択をしてきた…つもりだったのに。
:
頑張って頑張って、頑張り抜いたのに
仕事で躓き、ストレスを抱え身体がおかしくなり、
休む日が増え、昼夜逆転で夜に寝れない日が続き
精神科に通うと簡単に鬱病の診断がなされ、
睡眠薬と精神安定剤が処方された。
:
「病休」と「数日の復帰」を繰り返した。
精神科の医師は「退職すべき」そう言った。
有休まで全てなくなり、
いよいよ休めなくなって、
医師の言う通り退職した。
:
退職したからといって、
何かが変わる訳ではなかった。
休むことに慣れすぎて、
引きこもるのは快適で、
でもお金はなくて、
転職してスタートする気力は…継続できなくて…
どうせ…僕なんて……どこにも居場所は……
:
これからの人生に悲観し、自死した。
:
自死した…つもりだった。
実際、目の前では“僕の葬儀“が行なわれている。
僕の身体は、ドライアイスでカチコチに固められ
死に化粧という似合わない化粧までされて
棺桶に納められている。
:
なぜ、僕は………まだ、いる?霊魂?
あぁ!そうか。
死後49日までは現世を彷徨うのが…仏教だっけ。
皆、僕のこと見えてないみたいだけど…
こんなにリアルなのか。
こんな僕のこと、泣いてくれているのか。
職場の皆まで来てくれて……。
:
皆の“心の気持ち“が伝わってくる。
死んだら、こんな感じなんだ……
ごめん。ごめんね。
こんな僕のこと……。
ありがとう。ありがとうね。
死んだことを早くも後悔している自分がいた。
:
通夜・葬式を、俯瞰の状態でただただ見ていた。
お坊さんの読経、何の意味があるんだろう。
読経、長いなぁ〜〜〜僕は何も変わらないのに!
そんなことまで考える余裕もあった。
:
僕は火葬場まで
最期の別れに来てくれた皆の側にいた。
身体は火葬され始める頃だろう。
:
……!!!?
:
ふいに、衝撃が走った。
もう霊魂の状態だ…肉体なんてないのに…
何と表現していいのか分からないけれど…
凄まじく苦しい。息苦しい。息…どうして!?
…熱い。熱い…!!!顔が…!!顔!!!熱い!
ぁあ!足が腕が…熱い!!
誰か!助けて!!助けて!!!
:
……はッ?
苦しさのあまり叫び続け
どれくらいの時間が経ったのか分からなかったけど
正気を取り戻した時には苦しさから解放されていた。
永遠とも思える地獄の時間は終わったようだ…
:
遺骨拾いの準備ができたと呼び出しがあり、
遺族が移動し始めた。
:
そうか、僕の肉体が火葬されて…
霊魂の僕とも…まだ…繋がっていたのか……?
それとも、ただの…想像??
死んでもこんな苦痛があるなんて…!!
死んだ意味がないじゃないか!早く消えたい!!!
:
その後、骨壺に納められた“僕“は
祭壇に飾られた。
正直、この恐ろしい体験から
いつ訪れるか分からない苦痛が怖くて怖くて
怯えながらで、葬儀どころではなかった。
:
線香が焚かれる。明るくて浄化される…気分だった。
白米の煙、好物だったお供え物は…食べれた。
:
1日1日がとても長い。寝ることもないし。
最初の数日は縁があった人たちへの
御礼参りに夜な夜な行っていたが、それも終えた。
あとは、早く49日が過ぎ、成仏することを
ただただ祈り続けていた。
:
49日、坊さんの読経。
あぁ、これで、やっと……成仏…できる…
:
成仏……できなかった。
高いお布施を懐にしまった坊さんは…帰っていった。
49日…を過ぎるまでは……だったっけね?
明日…かな。ご先祖さんも迎えに来てないし!
明日だ、明日!迎えが来て、成仏……明日………。
:
よく死んだことに気付かず自死を繰り返す地縛霊…
には、ならずに済んだようだ。
幼い頃に飼っていた犬が、寿命で死んだ犬が、
迎えに来てくれた。再会できて嬉しい!!
……犬…だけど…迎えに来てくれただけでも!
犬……だけ…だけど…。
死んだ爺ーちゃん婆ーちゃん…来ないな……
自死で怒ってるの…かなぁ。
でも、お迎えくらい来てくれたって……。ブツブツ…
:
僕は犬に導かれるまま、
“生きたこの世“にお別れの言葉も未練も感じず
後ろめたい気持ちを引きづりながら、
霊界への道を進んだ。
:
犬についていくと、辿り着いた先は…
長い長い龍や蛇で出来た道でも
三途の川でもなく、
閻魔様の前なんかでももちろんなく、
周りを溢れんばかりの
紫色やオレンジ色の花々が咲き誇る
小綺麗なコテージだった。
ラベンダーの香りなど、花の香りで溢れていた。
:
「えっ?ここ……天国?ここ?」「ワン!」
早くこっち来いよ、そう言わんばかりに
犬がコテージのドア前にいた。
:
半信半疑のままドアを開けると、
そこには輪っか付き天使と、
羽付きの妖精らしき生物までも。
「マジ天国?あれっ??」
犬は、いつの間にかいなくなっていた。
:
天使と妖精は、会話は出来ないらしいけど
身の回りの世話をしてくれた。
まぁ、肉体はない訳だけど…
なぜか腹が減るし、風呂にも入れるし、
念じれば何でも出てきたから出来たので
生きている時と同様の生活をしていた。
:
時々、遺族や友人の声が聞こえた。
それは声に出した会話だったり、
心の中で思っているだけの想いだったり。
一喜一憂し、思い出しては涙を流す僕のことを
天使と妖精はいつも慰めてくれた。
:
コテージの外に出てお花畑をランニングしてみたが、
他のコテージに辿り着くことはなく
延々とお花畑が続いていた。
元の世界への道も無かった。まぁ戻れないよね……。
そうして何日経ったのか自分でも分からなかったが
とても快適な日々を送っていた。
:
そう、あの時までは…。
:
ふいに、天使と妖精がコテージのどこにもいないことに気付いた。
そういえば最近、どんどん居ない時間が増えて…?
コテージの…外……??
:
久しぶりだったけど、天使と妖精を探すために
コテージを出てドアが締まった瞬間
景色が一変した。
:
真っ暗だ。四方どこを見ても、闇。
1筋の明かりも見当たらなかった。
もちろんコテージも花も消えている。
:
「えっ?」
僕は…闇に1人取り残された。
:
犬を呼んでみても、いくら待ってみても
もう現れることはなかった。
望めば何でも出てきたコテージでの能力も、
もう使えなくなっていた。
:
コテージがあったその場所から離れたくはなかったけど、どこかに道があるんじゃないか?と、あてもなく彷徨い歩いてみたが、闇は、どこまでも続いていた。
闇だから、自分がどこからどこに行っているのか
それさえ分からなかったけれど。
:
ただ、時折、コテージで聞こえていた
“あちら側の声“は、聞こえた。
:
淋しくて怖くて、どうしてか分からなくて
何にどう謝れば許して貰えるのか分からないまま
ただただ1人泣いて過ごす日々が続いた。
:
何日経ったのか…
ふいに、僕に問いかける声が聞こえた。
:
「私は、現世を生きる霊能者です。聞こえますか?」
“あちら側の声“にしては、
耳元で囁くように リアルでクリアに聞こえて
何より、会ったことはないけれど
1人ぼっちの闇の中でまるで仏様のように思えた。
:
「聞こえる」
:
「お友だちが、聞きたいことがあるとのことで
わざわざ私の能力を探し出して、訪ねて下さいましたよ。なので、コンタクトを取らせて頂きました」
:
「そんなことが出来るんだ…」
:
「はい、恐山のイタコのようには出来ませんが、私を仲介しての会話はできます。質問、よろしいでしょうか?」
:
「どうぞ」
:
「“何か、して欲しいことは、無い?“だそうです」
:
「……多分お供え物とかも、もう届かないだろうし
何も出来ないだろうから…
“して欲しいこと“とは違うけど、
幸せになって欲しい…」
:
「そうですか。お友だちに伝えますね」
:
「あなたに、幸せになって欲しいんだそうですよ」
「えっ!そんなことをのぞんで…
俺は何もしてやれなかったのに……うぅっ」
…あ、そうか。
僕へのことだから、これも聞こえるんだ。
:
「先生、あの…彼は…今…どこに……?」
あ!それ、僕も聞きたい!!ここどこ?
:
「納骨はお済みとの事で、お墓にいらっしゃいます」
え、ここ墓の中なの?
どっかに爺ちゃん婆ちゃんいるの?
あ、もう成仏して墓にいないのかな?
だから犬もいないのか。犬は墓に納骨してないし…
:
「……とお伝えして、
美談にして差し上げたいところですが
真実と嘘の美談、どちらを選択なさいますか?
私も仕事ですので…ね」
え、えぇ?なにそれ?墓じゃないの?
:
「……真実でお願いします」
うん、ありがとう。僕も知りたいよ…
:
「…49日が過ぎ、あの世に旅立ってから暫くは、誰もがあの世の一時的な休憩所で霊魂の状態で療養します。その後は様々ですね。彼は……一時的な休憩所を出られ……今は、
:
地獄にいます。真っ暗闇で1人ぼっちです。
本当は同罪の自死者、殺人鬼などの方々が居ますが
彼らは互いに認識できません。
:
自死は重罪です。
本来の寿命まで罪を償う必要があります。
彼にとっては、永遠とも思える時間でしょうね。
:
彼を思い出すことも、地獄にいる彼にとっては
後悔に苛まれるだけですよ。
:
悪いことは言いません。
彼のことは、忘れて差し上げなさい」
:
「じゃ、じゃあ、寿命まで過ごしたら
罰を償ったことになるんだから、
彼は、成仏できるの?」
:
「輪廻転生の輪から逃れることは出来ません。
今世で達成できなかったのですから
同じカルマを背負ったまま、
より困難な人生に生まれ変わるだけです」
:
「彼のことは、忘れなさい。
彼も生まれ変われば今世のことは忘れますから。
彼にとっては、貴方が彼を忘れて幸せになることが、
一番の供養と言えるでしょう。
:
お時間、余ってしまいましたね。
良かったら、あなたが
これから幸せになれる方法をお教えしましょうか?」
:
:
:
:
「伝えました。
お友だち、毎年、命日にお墓参りに行くそうですよ。
今さらではございますが、
よい友だちを持ちましたね」
「…………。」
:
現状とこれから先のことまで知り
絶望に打ちひしがれた僕の頭の中は
繰り返し繰り返し
この霊能者の言葉が響いていた。
:
“忘れなさい“
作者わたみん