佐藤まゆみは、都心にある高層ビルで働くごく普通のOL。
30歳という年齢にしては若々しい容姿を持ち、仕事も順調にこなしている。
しかし、最近の彼女の生活には、誰にも言えない秘密があった。
それは、自宅で起こる怪奇現象である。
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1つ目はポルターガイスト現象。
リビングのテーブルの上に置いてあるテレビのリモコンが突然床に落ちたり、風も入ってきていないのにドアが突然勢いよく閉まったりするのである。
これらはまだ良いほうで、最近はカレーを煮込んでいる鍋に目線を移した途端、まな板の上にあった包丁がカタカタと音を立てながらまな板の上を移動、落下し、まゆみの足から数センチしか離れていない床に刺さるということもあり命の危険を感じつつある。
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2つ目は黒い影との遭遇。
ある日まゆみは仕事で帰宅が遅くなった。
深夜11時頃に帰宅し、電気をつけるためにスイッチを探っていると、背後に人の気配を感じた。振り返ると、そこには黒い影が立っており、影であるにも関わらずまゆみを見つめる両目だけはくっきりと確認することができた。
まゆみが慌てて電気を点けると同時にその影は消えた。
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3つ目は毎晩かかってくる無言電話。
番号は非通知でかかってきており「もしもし?毎晩迷惑です。いい加減にしてください。」と伝えたこともあるが、相手が声を発することはない。
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まゆみは、これらの現象に恐怖を感じながらも、誰にも相談できずにいた。
そんなある休日、まゆみは父親から電話を受けた。
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「母さんの墓参り、最近行ってないだろう?そろそろ行ってきたらどうだ?」
まゆみは、ハッと息を呑んだ。母は、まゆみが17歳の時に乳癌が全身に転移し亡くなった。
それ以来、まゆみは毎年欠かさず墓参りをしていた。
しかし、今年は仕事が忙しくて、まだ一度も墓参りに行けていなかった。
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「気が付かなかった。このあと行くね。」
まゆみは、電話を切った後、すぐに母親の墓がある霊園に向かった。
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霊園に到着すると、まゆみはまず母親の墓前に花を供えた。
そして、静かに手を合わせて祈った。
「お母さん、ごめんね。最近、色々あって、墓参りにも来られなかった。でも、今日はちゃんと来たよ。」
祈りを終えると、まゆみは墓石の周りを掃除し始めた。
すると、ふと地面に何かが落ちているのに気がついた。
それは、古い写真だった。写真には、幼い頃のまゆみと母親が写っていた。
二人はとても仲良く、幸せそうな笑顔を浮かべている。
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まゆみは、写真を手に取り、じっと見つめた。そして、涙が溢れてきた。
「私、ようやく分かった。私に会いに来て欲しくて色々な方法で知らせてくれてたんだね。お母さん、大好きだよ。」
まゆみは、写真を胸に抱きしめながら、墓地を後にした。
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その帰り道、住宅街にある横断歩道で信号が青になったことを確認し、まゆみはゆっくりと歩みを進めた。
仕事の疲れと霊園での感慨が重なり、彼女の歩みはどこか鈍かった。
(早く家に帰って休みたいな…)
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そう思いながら、ふと横を見ると、赤信号を無視した車が猛スピードで突っ込んできた。
回避しようとするも、恐怖で足がすくんで動かない。
(お母さん...!)
心の中で叫んだ瞬間、何者かがまゆみの服の背中を掴んで強引に歩道側へと引っ張り、まゆみは尻餅をついた。
目の前を猛スピードで通り過ぎる車の風圧が、彼女の髪を乱した。
車の運転手も驚いたのか、路肩に停止して窓を開け、中年の女性が「大丈夫?!」と声をかけてきた。
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まゆみは動揺しながらも「はい...大丈夫です...」と答えたが、心臓はまだ激しく鼓動していた。
引っ張ってくれた手の主を確認しようと振り向いたが、そこにはだれもいなかった。
(今のは…お母さん?)
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不思議な感覚に包まれながら、まゆみは家路を急いだ。
自宅に戻り、一息ついてソファに腰を降ろすと、心の中で今日の出来事を整理しようとした。
その時、いつものように非通知の無言電話がかかってきた。驚きと共に、まゆみは電話を手に取り出た。
「お母さん?お母さんなんでしょ?さっきは助けてくれてありがとう!あのね…」
まゆみの声は震えていたが、感謝の気持ちを伝えたかった。しかし、その瞬間、全く知らない男の声が電話越しに響き渡った。
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「勝手に死ぬな!!!!!!」
作者非メモリ