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中編4
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戻らないトンネル

夏の夜、私は大学時代の友人たちと久しぶりに集まり、山奥の貸別荘に泊まることになった。メンバーは私を含めて5人。学生時代にはよく肝試しをしたものだが、今回はただの同窓会のつもりだった。だが、その晩に起きた出来事は、今でも思い出すだけで寒気が走る。

私たちは午後に集合し、買い出しをして山奥の別荘に向かった。道中、古びたトンネルを通ったが、車の中では友人たちが昔の話に盛り上がっていて、私は特に気に留めなかった。トンネルを抜けると、山の中にぽつんと別荘が現れた。木々に囲まれたその建物は、昼間でも薄暗く、なんとなく湿った空気が漂っていた。玄関に立ったとき、背中に一瞬冷たい風が吹いたような気がしたが、仲間たちといる安心感からか、すぐに気にしなくなった。

夜になると、バーベキューをしながらお酒を飲み、懐かしい話に花を咲かせた。やがて話題は肝試しや心霊体験に移り、私は一つの噂を思い出した。

「そういえば、この近くに『戻らないトンネル』っていうのがあるんだよ」と私が話し始めると、みんなが興味を示した。その噂によれば、ある古いトンネルを通ると、戻ってくるはずの人々が次々と消えてしまうという。実際に何度か行方不明者が出たらしく、今では廃墟となり、人々は寄り付かなくなったという話だ。

「お前、怖がらせるなよ。そんなトンネル、ただの作り話だろ?」友人の一人が笑いながら言ったが、みんながそれに乗じて「ちょっと行ってみようぜ」と盛り上がった。少し飲みすぎていたこともあり、私たちはすぐに車に乗り込み、噂のトンネルに向かった。

夜の山道を走るうちに、車内の雰囲気が次第に変わっていった。普段なら賑やかに話す友人たちも、やけに静かだった。そして、トンネルが見えた瞬間、車内は完全に無言になった。古びた石造りのトンネルは、闇の中にぽっかりと口を開けていた。私たちは車を降り、恐る恐るトンネルの中を歩き始めた。

「なんだ、ただの古いトンネルじゃん」と誰かが言ったが、その声はどこか浮ついていた。中はひんやりしていて、足音がこだまする。トンネルの出口が見え始めた頃、突然背後から「おい」という声が聞こえた。振り向くと、仲間の一人が立ち止まっていた。

「どうした?」と聞くと、彼は顔を真っ青にしていた。「いや、今、誰か俺の名前を呼んだ気がしたんだ」

しかし、周囲には誰もいない。みんなが彼をからかって笑い始めたが、その笑いもどこかぎこちなかった。なんとなくその場の空気に違和感を覚えた私は、早くここを出ようと急かした。

トンネルを抜けた瞬間、再び背後から「おい」という声が聞こえた。今度は全員がその声を聞いた。「誰だ!」と叫んで振り向いたが、そこには誰もいなかった。ただ、暗闇が広がっているだけだった。

嫌な予感がした私は、「もう帰ろう」とみんなに告げた。誰も反論せず、私たちは車に戻った。帰り道、皆無言だった。先ほどの出来事が信じられず、全員が気まずい沈黙に包まれていた。

別荘に戻ると、全員が一斉に酒を飲み始めた。怖さを忘れたかったのだろう。しばらくすると、みんな酔いつぶれて寝てしまったが、私はなぜか眠れず、外の景色をぼんやりと眺めていた。窓の外には暗い森が広がり、時折風が木々を揺らしているのが見えた。

その時、不意にドアがノックされた。時計を見ると、夜中の2時を過ぎていた。こんな時間に誰が来るのか?驚いて玄関に向かうと、そこには誰もいなかった。しかし、ドアの外には確かに人の気配があった。

「誰かいるのか?」と声をかけたが、返事はなかった。気味が悪くなって急いでドアを閉め、鍵をかけた。心臓がドキドキして、耳まで聞こえるほどだった。

その夜はそれ以上の出来事はなかったが、翌朝、別荘を出る時、何かがおかしいことに気づいた。車に乗り込もうとした瞬間、仲間の一人がいないことに気づいたのだ。部屋を探したが、彼はどこにもいなかった。電話をかけても繋がらない。

警察に連絡し、捜索が始まったが、彼の行方はついにわからなかった。ただ、一つだけ奇妙なことがあった。警察が見つけた彼の携帯には、深夜2時過ぎに私たち全員に発信された未送信のメッセージが残っていた。内容はただ一言。

「戻らないで。」

私はそのメッセージを見た瞬間、あのトンネルで聞いた「おい」という声が頭の中で蘇った。そして、それが彼の声だったことに気づいた瞬間、全身が凍りついた。

その後、彼は見つかることなく、私たちの間でその夜の出来事を話すこともなくなった。しかし、私だけはあの「おい」という声が頭から離れない。それが彼からの最後の警告だったのかもしれないが、もう遅すぎたのだ。

彼はもう、戻ってこない。

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