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中編4
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霧に消える村

1. 序章:謎めいた手紙

夏の終わり、涼しい風が吹き始めたある日、私は一通の手紙を受け取った。差出人は、長い間連絡を取っていなかった幼馴染の翔太だった。彼とは大学を卒業してから疎遠になっていたが、手紙には驚くべき内容が書かれていた。

「久しぶりだな。突然手紙を送って驚かせてすまない。どうしても伝えたいことがある。今、俺はとある村にいるんだ。地図には載っていない、霧に包まれた村だ。ここで奇妙なことが起こっている。お前にもこの目で確かめてほしい。お願いだから、助けてくれ。」

手紙には詳しい住所は書かれておらず、「この手紙が届けば、必ず辿り着ける」という不思議な一文だけがあった。翔太は冗談を言うような性格ではない。彼の焦りが伝わる文面に、私はただならぬものを感じた。そして好奇心と、何か悪いことが起きているのではないかという不安に突き動かされ、私は彼のもとへ向かうことを決めた。

2. 霧の中の村

私は手紙に記された方向へ車を走らせた。街を離れ、山道を進むと、次第に濃い霧が立ち込め始めた。霧はどんどん濃くなり、視界はほとんどなくなった。前方には、かすかに古びた木製の標識が見える。「行方村」と書かれていた。

地図には載っていないはずのこの村の名を目にした瞬間、全身に鳥肌が立った。私はハンドルを握り直し、慎重に進んだ。やがて霧が少し晴れ、古い木造の家が並ぶ小さな村が姿を現した。人の気配はまったくなく、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。

「翔太、どこにいるんだ?」私は村の中を歩き回りながら、彼の名を呼んだ。しかし、応える声はなかった。辺りは薄暗くなり始め、霧が再び村全体を包み込んでいた。心の中に不安が広がり、私は村を出ようと決意した。

3. 翔太の足跡

しかし、村を出る道が見つからない。来た道を戻ろうとしたが、霧がますます濃くなり、すべての道が同じように見えた。焦り始めたその時、足元に何かが落ちているのに気づいた。それは、翔太がいつも身につけていたお守りだった。

「ここにいる…!」私は彼の足跡をたどるように、さらに村の奥へ進んだ。道の先に、一軒の古びた民家が見えた。明かりはついておらず、窓は全て閉じられていたが、何かがその中に潜んでいるような気配があった。

恐る恐る扉を押すと、ギシギシと不気味な音を立てて開いた。中はほこりっぽく、古い家具が乱雑に置かれていた。まるで誰かが急いで逃げ出したかのような雰囲気だった。そして、家の奥の部屋に進むと、そこには翔太がいた。

しかし、彼はまるで別人のようだった。目は虚ろで、頬はこけており、何かに取り憑かれたかのような表情をしていた。私は彼に駆け寄り、声をかけた。

「翔太、どうしたんだ?ここで何があったんだ?」

だが、彼は返事をしなかった。代わりに、震える手で一冊の古びた日記を差し出した。私はその日記を受け取り、震える手でページをめくった。

4. 日記に記された真実

日記には、この村で起きた恐ろしい出来事が詳細に記されていた。かつて、この村では豊作を祈るために、定期的に「祭り」が行われていたという。その祭りの中心には「生け贄」があり、村の若者が定期的に選ばれていた。

ある時、選ばれた若者が村の掟に逆らい、逃げ出そうとした。しかし、彼は逃げ切れずに捕らえられ、最も残酷な方法で処刑された。その瞬間、村には呪いがかけられ、以来、村のすべての者が一人また一人と姿を消していった。

村はまるで何事もなかったかのように存在し続けているが、霧が立ち込めるたびに、そこに足を踏み入れた者もまた「消える」運命にあるのだという。

「俺も…消えるのか?」私は日記を閉じ、震えた声で翔太に尋ねた。しかし、彼はもうすでに返事をすることさえできない状態だった。彼の瞳は焦点が合っておらず、まるで彼の意識はすでに別の場所に連れ去られているようだった。

5. 消えゆく村

恐怖に駆られた私は、翔太を助けるためにどうにかしようとしたが、彼の体は次第に薄くなっていくように見えた。まるで霧に溶け込むかのように、彼はゆっくりと消えていった。

「翔太!」私は叫んだが、その声は虚しく響き、彼の姿は完全に消えてしまった。

それと同時に、村全体が揺れ始めた。家々が軋み、地面が震え、霧がさらに濃くなった。私はその場から逃げ出そうとしたが、足元がふらつき、思うように動けなかった。まるで何かに引き寄せられるように、村の中心へと引き込まれていく。

「ここにいたら、俺も消える…!」私は必死に足を引きずりながら、村から逃げ出そうとした。しかし、どこを見ても同じ景色が広がり、出口は見つからなかった。

息が切れ、もうどうすることもできないと思ったその瞬間、目の前に一筋の光が差し込んできた。それは、翔太が最初に消えた場所から発せられているようだった。私は最後の力を振り絞り、その光に向かって歩き出した。

6. 終章:戻らない道

気がつくと、私は元の山道に立っていた。霧はすっかり晴れ、辺りは静まり返っていた。村の跡はどこにも見当たらず、まるで最初から存在しなかったかのようだった。

翔太が消えたことを誰に話しても、誰も信じてくれないだろう。彼の存在そのものが、霧と共に消えてしまったかのようだった。手元には、翔太が最後に渡してくれた日記だけが残っていた。しかし、その日記を見返しても、そこには何も書かれていなかった。

「夢だったのか…?」

しかし、夢にしてはあまりにも現実的だった。そして何より、翔太は今も行方不明のままだ。私はあの日の記憶を振り払うことができないまま、村へ続く道を振り返った。

その先には、もう一度霧が立ち込め始めていた。

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