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中編5
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「こっくりさん」    

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「あいうお怪談」

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「か行・こ 」

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第22話「こっくりさん」

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信じられないでしょうが、大筋は、実話である。

ただし、個人が特定されることがらや、差し障りのある部分につきましては、一部曖昧にしている。その点については、ご了承願いたい。

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「ちょっと、ちょっと。あれ、N子先輩じゃない。」

高校1年の昼休み。お弁当を食べ終わり、開け放たれた窓から流れてくる心地よい秋風にまどろんでいた時だった。

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教室内がざわつき始めた。

廊下側に目をやると、我が校の「お蝶夫人」(※解説あり)ことN子女史が、数人の先輩たちと教室の入口に立ち、チラチラと横目で見ながら何やら話し込んでいる。

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視線の先は、どうやら私のようだ。

「1年2組の皆さん。お休み中のところ、大変申し訳無いのですが、お邪魔しますね。」

あっけにとられる私達を尻目に、N子女史は、取り巻きのお仲間たちを引き連れ、つかつかと教室の中へと入ってきては、私の眼の前に立った。

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私は、眼の前にいるお蝶夫人を見上げた。

才色兼備とはこのような人のことを言うのだろう。

憧れの人を目の当たりにして、緊張で身体が硬直し、身動き出来ない。心臓は、今にも張り裂けんばかりに拍動した。

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「向かって右窓側から1列目の前から3番目。確かにここなの?」

「そうね。こっくりさんは、そう言ってるわ。」

「・・・そうなんだ。ふぅん。」

N女史は、隣りにいるお仲間のひとりに尋ねると、落胆とも取れる溜息をついた。

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「あなたのお名前は?」

N子女史は、事情がわからず、うろたえ、怖気づいている私に顔を近づけた。

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白磁のような肌。

桜色に濡れた唇。

星が点在しているごとく澄んだ瞳。

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噂に違(たが)わない美貌の持ち主の思わぬ言動に、ゾクリと鳥肌が立った。

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その眼は、悪意と憎悪に満ちていたからである。

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「T◯ゆかりです。あのう、なにか・・・。」

声を発するだけで精一杯だった。

「本人で間違いないようね。」

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お仲間と思しき先輩たちは、何かの間違いじゃないかとばかり不平不満を述べ始めた。

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「こっくりさん。どうかしてるんじゃない。」

「きっと、何かの間違いですよ。」

「でも、1学年に同姓同名の人いる?」

「いませんねぇ。」

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「この際だから、もういっぺん、やってみましょうよ。」

「じゃぁ、ここでしない?ご本人がいらっしゃることでもあるし。」

「いいわね。やりましょう。休み時間は、まだ30分以上あるから。」

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―な、何をしようというのだ。―

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「ちょっと、どいてくれないかな。」

先輩たちは、相前後する二つの机を合わせると椅子を置き、N子女史ともう一人の先輩は、向かい合うかたちでその椅子に腰を掛けた。

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ー私の席 私の机 私の椅子 勝手に動かさないでください。

「何?文句ある?」

背後から浴びせかけられた声に怯み、私は、沈黙を余儀なくされた。

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さっ、向かい合わせに置かれた机の上には、鳥居と50音と数字が書かれた紙が敷かれた。

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敷かれた紙の上に10円玉が置かれ、更に、N子女史ともう一人の先輩の指が、10円玉の上に添えられた。

「やめてください。勝手に何しているんですか。」

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学級委員で生徒会役員のH◯K代が、中に割って入いろうとしたが、取り巻きの仲間達によって阻止され、既に開けられて窓は、取り巻きの一人の手によって全開にされてしまった。

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その瞬間、清々しい秋風が、どんよりとした不快な空気に変化したように感じた。

おそらく、私だけではなかったと思う。

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「いいわね。始めるわよ。」

今まさに、「こっくりさん」が開始されようとしていた。

ーだめ!絶対にだめ!辞めたほうがいい。

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激しい胸騒ぎがした。

思い切って止めに入ろうと立ち上がった瞬間、

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ガガガガガガガガガが

きぃ~ん 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

スピーカーから爆音と金属音が響き渡った。

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「えー、突然ですが。緊急放送です。全員その場で聞くように。」

生活指導のY先生の声だった。

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「今すぐ、校内の開いている窓を締めてください。たった今、気象庁から光化学スモック警報が出されました。教室、玄関、特別教室、部室他、開いている窓を全て確認し、閉じた後は、必ず施錠してください。」

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バタン

ドン

パンパン

バーン

窓という窓が閉められる音が、校内全体に響き渡る。

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憮然とした表情を浮かべたH◯K代が、わざと大きな音を立てて私の席近くの窓を閉めた。

「あ“あ”あ“あ”」

「う“う”う“う”」

N子女史ともう一人の先輩が、奇妙な声を上げ、10円玉から指を離し、ブルブルと震えはじめた。

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「わ、わかりました。これが、こっくりさんの答えなんですね。」

ふたりは、顔を覆い嗚咽していた。

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「どいういうことなの。」

「これは、警告よ。」

「まだ、帰ってもらっていないじゃないですか。」

「でも、もう、窓が閉じられてしまったから。」

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「とにかく、一旦戻りましょう。これ以上するなってことなんでしょう。」

さっきまでの威圧的な態度が一変し、N子女史たちは、逃げるようにその場を後にした。

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その後、特に何事も起こってはいないが、N女史と数人のお仲間たちは、仲違いしたと聞いた。小さなトラブルは、あったのだろう。

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この日の出来事が、後に生徒会で問題になり、以来、「こっくりさん」だけでなく、オカルト関連は、書籍も含め全て禁止となった。

特に、「こっくりさん」に至っては、全国各地で問題になっている事例が保護者会でも取り上げられ懲罰規定が設けられた。

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校長や理事長をはじめとする同窓会会長、保護者会代表の連名で、かなり厳しい通達がなされた。緊急会議が催され、招集を掛けられた1学年の保護者たちは、よく事情が飲み込めぬまま、その場に列席したらしい。

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その日、保護者会で、N女史のご両親と相まみえた母は、丁重に謝罪の言葉を述べられたと話していた。

「あなた、何しでかしたのよ。」

「なんにもしてないよ。」

返答に困り果てた私は、何も言えなかった。

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数日後、クラス委員で生徒会役員のH◯K代から、この件に関することや、その後の顛末を聞いた。

「N子女史が、こっくりさんに聞いたことって何だったのかな?」

H◯K代は、

「なんだ。知らなかったの。」

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困惑した表情を浮かべながら、

「聞かないほうがいいと思うけど。聞きたい?」

と言った。

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私は、大きく二回首を縦に振った。

「この学校で一番の美人は誰?だったんだって。」

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あ“あ”あ“あ” 

う“う”う“う”

絶句し、硬直する私に対し、H◯K代は、薄笑いを浮かべながら言い放った。

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「あくまでも、こっくりさんにとってってことだから。ねっ。」

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「勘違いするんじゃないわよ。」

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良妻賢母・才色兼備 が謳い文句の♀校なんかに入るんじゃなかった。

その後、私のニックネームは、「白雪姫」になり、少しの間だけハブられた。

酷いいじめに発展しなかったのは、幸いだった。

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N子女史も、H◯K代も 「こっくりさん」よりずっとずっと怖ろしいと思った。

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以来、美に対する基準も評価も正直わからない。

もっとわからないのは、もう、十分美しいにも関わらず、更に美しさを求めようと藻掻き苦しむ人間の飽くなき心である。

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いっそ、お面でもつけてはどうだろうか。

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いすれにせよ、私には、ただただ、恐怖でしかない。

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