【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編5
  • 表示切替
  • 使い方

「こっくりさん」    

nextpage

wallpaper:7224

「あいうお怪談」

nextpage

wallpaper:6620

nextpage

「か行・こ 」

wallpaper:7577

nextpage

第22話「こっくりさん」

nextpage

wallpaper:7576

信じられないでしょうが、大筋は、実話である。

ただし、個人が特定されることがらや、差し障りのある部分につきましては、一部曖昧にしている。その点については、ご了承願いたい。

wallpaper:2853

「ちょっと、ちょっと。あれ、N子先輩じゃない。」

高校1年の昼休み。お弁当を食べ終わり、開け放たれた窓から流れてくる心地よい秋風にまどろんでいた時だった。

nextpage

教室内がざわつき始めた。

廊下側に目をやると、我が校の「お蝶夫人」(※解説あり)ことN子女史が、数人の先輩たちと教室の入口に立ち、チラチラと横目で見ながら何やら話し込んでいる。

nextpage

視線の先は、どうやら私のようだ。

「1年2組の皆さん。お休み中のところ、大変申し訳無いのですが、お邪魔しますね。」

あっけにとられる私達を尻目に、N子女史は、取り巻きのお仲間たちを引き連れ、つかつかと教室の中へと入ってきては、私の眼の前に立った。

nextpage

私は、眼の前にいるお蝶夫人を見上げた。

才色兼備とはこのような人のことを言うのだろう。

憧れの人を目の当たりにして、緊張で身体が硬直し、身動き出来ない。心臓は、今にも張り裂けんばかりに拍動した。

wallpaper:2710

nextpage

「向かって右窓側から1列目の前から3番目。確かにここなの?」

「そうね。こっくりさんは、そう言ってるわ。」

「・・・そうなんだ。ふぅん。」

N女史は、隣りにいるお仲間のひとりに尋ねると、落胆とも取れる溜息をついた。

nextpage

wallpaper:2710

「あなたのお名前は?」

N子女史は、事情がわからず、うろたえ、怖気づいている私に顔を近づけた。

nextpage

wallpaper:1235

白磁のような肌。

桜色に濡れた唇。

星が点在しているごとく澄んだ瞳。

nextpage

wallpaper:2711

噂に違(たが)わない美貌の持ち主の思わぬ言動に、ゾクリと鳥肌が立った。

wallpaper:6297

その眼は、悪意と憎悪に満ちていたからである。

nextpage

wallpaper:6673

「T◯ゆかりです。あのう、なにか・・・。」

声を発するだけで精一杯だった。

「本人で間違いないようね。」

nextpage

wallpaper:6308

お仲間と思しき先輩たちは、何かの間違いじゃないかとばかり不平不満を述べ始めた。

nextpage

wallpaper:7576

「こっくりさん。どうかしてるんじゃない。」

「きっと、何かの間違いですよ。」

「でも、1学年に同姓同名の人いる?」

「いませんねぇ。」

nextpage

wallpaper:7577

「この際だから、もういっぺん、やってみましょうよ。」

「じゃぁ、ここでしない?ご本人がいらっしゃることでもあるし。」

「いいわね。やりましょう。休み時間は、まだ30分以上あるから。」

nextpage

―な、何をしようというのだ。―

wallpaper:7581

「ちょっと、どいてくれないかな。」

先輩たちは、相前後する二つの机を合わせると椅子を置き、N子女史ともう一人の先輩は、向かい合うかたちでその椅子に腰を掛けた。

nextpage

ー私の席 私の机 私の椅子 勝手に動かさないでください。

「何?文句ある?」

背後から浴びせかけられた声に怯み、私は、沈黙を余儀なくされた。

nextpage

wallpaper:7577

さっ、向かい合わせに置かれた机の上には、鳥居と50音と数字が書かれた紙が敷かれた。

wallpaper:7578

敷かれた紙の上に10円玉が置かれ、更に、N子女史ともう一人の先輩の指が、10円玉の上に添えられた。

「やめてください。勝手に何しているんですか。」

nextpage

学級委員で生徒会役員のH◯K代が、中に割って入いろうとしたが、取り巻きの仲間達によって阻止され、既に開けられて窓は、取り巻きの一人の手によって全開にされてしまった。

nextpage

wallpaper:7200

その瞬間、清々しい秋風が、どんよりとした不快な空気に変化したように感じた。

おそらく、私だけではなかったと思う。

nextpage

wallpaper:7578

「いいわね。始めるわよ。」

今まさに、「こっくりさん」が開始されようとしていた。

ーだめ!絶対にだめ!辞めたほうがいい。

nextpage

激しい胸騒ぎがした。

思い切って止めに入ろうと立ち上がった瞬間、

nextpage

wallpaper:5607

ガガガガガガガガガが

きぃ~ん 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

スピーカーから爆音と金属音が響き渡った。

nextpage

「えー、突然ですが。緊急放送です。全員その場で聞くように。」

生活指導のY先生の声だった。

nextpage

「今すぐ、校内の開いている窓を締めてください。たった今、気象庁から光化学スモック警報が出されました。教室、玄関、特別教室、部室他、開いている窓を全て確認し、閉じた後は、必ず施錠してください。」

nextpage

wallpaper:7580

バタン

ドン

パンパン

バーン

窓という窓が閉められる音が、校内全体に響き渡る。

nextpage

wallpaper:5782

憮然とした表情を浮かべたH◯K代が、わざと大きな音を立てて私の席近くの窓を閉めた。

「あ“あ”あ“あ”」

「う“う”う“う”」

N子女史ともう一人の先輩が、奇妙な声を上げ、10円玉から指を離し、ブルブルと震えはじめた。

nextpage

「わ、わかりました。これが、こっくりさんの答えなんですね。」

ふたりは、顔を覆い嗚咽していた。

nextpage

wallpaper:3717

「どいういうことなの。」

「これは、警告よ。」

「まだ、帰ってもらっていないじゃないですか。」

「でも、もう、窓が閉じられてしまったから。」

nextpage

wallpaper:5811

「とにかく、一旦戻りましょう。これ以上するなってことなんでしょう。」

さっきまでの威圧的な態度が一変し、N子女史たちは、逃げるようにその場を後にした。

nextpage

wallpaper:3453

その後、特に何事も起こってはいないが、N女史と数人のお仲間たちは、仲違いしたと聞いた。小さなトラブルは、あったのだろう。

nextpage

wallpaper:7578

この日の出来事が、後に生徒会で問題になり、以来、「こっくりさん」だけでなく、オカルト関連は、書籍も含め全て禁止となった。

特に、「こっくりさん」に至っては、全国各地で問題になっている事例が保護者会でも取り上げられ懲罰規定が設けられた。

nextpage

wallpaper:5811

校長や理事長をはじめとする同窓会会長、保護者会代表の連名で、かなり厳しい通達がなされた。緊急会議が催され、招集を掛けられた1学年の保護者たちは、よく事情が飲み込めぬまま、その場に列席したらしい。

nextpage

その日、保護者会で、N女史のご両親と相まみえた母は、丁重に謝罪の言葉を述べられたと話していた。

「あなた、何しでかしたのよ。」

「なんにもしてないよ。」

返答に困り果てた私は、何も言えなかった。

nextpage

wallpaper:6421

数日後、クラス委員で生徒会役員のH◯K代から、この件に関することや、その後の顛末を聞いた。

「N子女史が、こっくりさんに聞いたことって何だったのかな?」

H◯K代は、

「なんだ。知らなかったの。」

wallpaper:3453

nextpage

wallpaper:6472

困惑した表情を浮かべながら、

「聞かないほうがいいと思うけど。聞きたい?」

と言った。

nextpage

私は、大きく二回首を縦に振った。

「この学校で一番の美人は誰?だったんだって。」

nextpage

あ“あ”あ“あ” 

う“う”う“う”

絶句し、硬直する私に対し、H◯K代は、薄笑いを浮かべながら言い放った。

nextpage

wallpaper:6542

「あくまでも、こっくりさんにとってってことだから。ねっ。」

nextpage

wallpaper:6297

「勘違いするんじゃないわよ。」

nextpage

wallpaper:7579

良妻賢母・才色兼備 が謳い文句の♀校なんかに入るんじゃなかった。

その後、私のニックネームは、「白雪姫」になり、少しの間だけハブられた。

酷いいじめに発展しなかったのは、幸いだった。

nextpage

wallpaper:6641

N子女史も、H◯K代も 「こっくりさん」よりずっとずっと怖ろしいと思った。

wallpaper:7579

以来、美に対する基準も評価も正直わからない。

もっとわからないのは、もう、十分美しいにも関わらず、更に美しさを求めようと藻掻き苦しむ人間の飽くなき心である。

nextpage

wallpaper:7576

いっそ、お面でもつけてはどうだろうか。

nextpage

wallpaper:5245

いすれにせよ、私には、ただただ、恐怖でしかない。

Normal
コメント怖い
4
9
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信