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長編12
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意味不明な女3連発

 これから挙げる3作は、わたくしの作品の中でもかなり意味不明な女が出てくる過去作です。

どうか皆様その意味不明さを心いくまで御堪能していただくとともに、三人の中で一番意味不明な女をコメントいただくと、嬉しいです。

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【意味不明な女その1】

━マッチングアプリの女━

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俺は今年で30になる独身の男だ。

これまで、お見合いパーティーだの、街コン、合コンだのに参加しては来ていたのだが、なかなか女性と知り合いになることは出来なかった。

それならということで成約率業界随一というキャッチフレーズのマッチングアプリに登録してみると、なんと登録後わずか3日で23歳の女とマッチングした。

加那というその女は、住んでるところは同じF市の中心辺りで、しかも卒業した高校も同じだった。

しばらくメールのやり取りをした後、写真交換をし合うことになった。

送られてきた写真は、

どこか広い草原みたいなところで撮ったスナップ写真でノースリーブの白のワンピースにつばの広い麦わら帽子をかぶるスラリとした背格好の女性が映っているんだけど、遠くから撮られているみたいで顔とか細かいところがはっきり見えない。

あと違う場所でもう1つ撮った写真があったのだが、それも被写体がぶれていて肝心の顔が分からない。

若干の不安はあったが、せっかくのチャンスだから日曜の昼間から会うことにした。

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場所は、市内の繁華街の中にある小さな稲荷神社。

彼女の指定だった。

おかしなところを指定するなあと思いながらも約束の時間の10分前に到着した俺は、境内にあるベンチに座りボンヤリと足元の辺りを忙しなく彷徨く数羽の鳩を見ていた。

暦の上ではもう秋なのだが、日射しはまだ強くて相変わらずジワワジワワという蝉の声が聞こえてくる。

すると突然鳩たちが逃げるように一斉に飛び立った。

ふと顔を上げると、2メートルほど前方にいつの間にか女が立っている。

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白いノースリーブのワンピースに、つばの広い麦わら帽子の姿は、以前送られた写真の女そのものだった。

帽子をかなり目深にかぶっているため、顔は見えない。

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「加那さんですか?」

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言いながら立ち上がると、彼女は微かに頷いた。

それではお参りでもしましょうか?と、俺たちは本殿に向かって歩き始める。

並んでみて分かったのだが、彼女は相当背が高かった。

170センチの俺よりも軽く10センチは高い。

ヒールの高い靴を履いているとしても、かなり高いと思う。

そして彼女は無口だった。

というか本殿に着いてお参りをするまで、一度も口を開くことはなかった。

それは、神社を出て一緒に入った近くの喫茶店でも同じだった。

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奥まったところのテーブルに向かい合わせで座ったのだが喋るのは俺だけで、彼女は時折静かに頷くだけなのだ。

しかも店に入ってからも麦わら帽子をかぶったままだから見えるのはドギツイ赤のルージュをひいた唇、その下にあるややしゃくれた顎そして異様に細く長い首だけだ。

それとこれは向かい合ってから気づいたんだけど、彼女の方からだろうか、何というか腐った生ゴミのような臭いが時折鼻を掠める。

とうとう我慢出来ずに俺はこう言った。

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「あの、俺と話すの、つまんないですか?」

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彼女はしばらく俯いていたが、やがて静かに首を横に振るとコーヒーカップを口元に近づける。

カップを握る手はまるで老婆のようにか細くて幾重も筋が走っていた。

喫茶店には30分ほどいたのだが、結局最後まで加那さんが口を開くことはなかった。

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マッチングアプリで知り合った女との初デートは、これで終了した。

約1時間だったが、疲れだけが残ったという感じだった。

帰りの地下鉄の座席に座り正面に映る自分の姿を見ながら俺は、あの女とはもうこれきりだなと思っていた。

翌日仕事が終わり、マンションに帰るとしばらくして携帯が鳴った。

マッチングアプリのスタッフからだ。

アプリの会員には必ず一人担当のスタッフが付くことになっていて、交際に至るまであれこれアドバイスをしてくれることになっているのだ。

昨日の初デートのことも既に伝えていた。

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「お疲れ様で~す、昨日は何か用事とかあったんですか?」

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若い女性スタッフが明るい声で尋ねる。

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「は?」

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意味が分からず聞き返す。

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「いえ、お相手の方から貴方が約束の時間になっても来なかったって、怒ってこちらに連絡あったのですが」

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「いやいや昨日はちゃんとお昼に約束の場所に行ったし、加那さんも来たよ」

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「ええ!本当ですか?

橋本加那さんですよね?23歳で、明るくてお喋りな」

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「明るくて?お喋り?全然違ったけど。

むしろ正反対だったけど。

それで申し訳ないけど、あの人はちょっと無理かな」

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俺は正直に言った。

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「そうですか、、、

もしよろしかったら、どういう理由でそう感じたか教えていただけませんか?」

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「理由も何も、俺と会ってる間中一言も喋らないし、しかもずっとデカイ麦わら帽子をかぶってたから顔さえも分からなかったし」

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「え~!本当ですか?

それ、本当に橋本さんなんですかね?

良かったら外見とか教えていただけませんか?」

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言われて俺は、加那という女の外見をスタッフに伝えた。

するとしばらくパソコンのキーボードをカタカタと叩く音がしたかと思うと、再びスタッフの声がする。

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「おかしいですねえ、、、

こちらの資料では、橋本加那さんというのは、23歳のOLさんで、スポーツ観戦が趣味の中肉中背の明るいタイプなんですけど。」

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「え?そんなバカな」

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─でも確かに加那というあの女は、約束の時間に約束の場所に現れた。

もしあれが本当の加那さんではないとしたら、いったいあの女は何者だったんだ?

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思いながら俺は、目の前のデスク上にあるパソコンのフォルダを開いて加那さんの写真を探す。

だが不思議なことに写真は見当たらなかった。

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「何かおかしいので、私の方でもう一度加那さんに事情を聞いて、また連絡しますね」

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そこでスタッフとの会話は終了した。

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俺は電話を切った後、軽くシャワーを浴びると、部屋着のままサンダルをひっかけ、近くのコンビニまで歩いた。

ビールでも飲まないと、その日は眠れないと思ったからだ。

500ミリリットルを一缶買うとレジ袋を片手に提げたまま、書籍コーナーで立ち読みをしていた。

しばらくしてふと顔を上げると、雨でも降りだしたのか、正面の暗いガラス面に水滴がポツポツと付いている。

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━ヤバイ、そろそろ戻らないと、、、

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と雑誌を棚に戻そうとした時だった。

生ゴミのような臭いがサッと鼻を掠めると、

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マタアイタイヨ、、、

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突然聞こえた女の声。

それは録音したものを低速再生したかのような声だった。

思わず正面に視線をやる。

一瞬でゾクリと背筋が凍りつき、一気に心拍数が上がるのを感じた。

ガラス面に映っている俺の上半身。

その少し後ろに、麦わら帽子をかぶった白いワンピースの女が立っていた。

【fin】

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【意味不明な女その2】

━フリマの女━

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とある日曜日の昼下がり。

三十路で独り者の俺は散歩がてら、近くの小学校グランドで開催しているフリマに立ち寄った。

鮮やかな秋晴れの空の下、広いグランドは青いビニールシートに埋め尽くされている。

古着、家電、食器類、家具等々、老若男女様々な人たちが思い思いに物品を販売していた。

商売熱心な人もいれば、ただ物品を並べているだけでゴロリと横になっている人もいる。

時間は間違いなくゆったりと進んでいた。

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何ヵ所か立ち止まり古着とかを手にとってみたが、なかなか気に入ったものは見つからずに歩き続け、結局グランド端の公衆トイレ辺りにまで行き着いてしまった。

そこでついでにと用を足した後再び外に出ると、タバコでも吸おうかとトイレの裏側の方へ歩く。

そして、ハッと息を飲んだ。

トイレ裏手の薄暗い陰鬱なスペースに青いビニールシートが敷かれており、人がいる。

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━こんなところでもやってるんだ!?

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と思いながらもタバコに火を点けると、立ったまま何気なく視線をやってみた。

茶色いベレー帽を被って茶色のエプロンをした女がトイレの壁の前に立ち、こちらを見ている。

短い茶髪の下にある横顔はマスクをしており、表情はうかがいしれない。

女の前に置かれたモノに視線を移してみた。

シートの上に小さな黒っぽいモノが数十個、きちんと並べられている。

最初はそれらが何か分からなかった。

好奇心に駆られた俺は、

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「こんにちは~

何を売られてるんですか?」

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と軽く挨拶をしながら、中腰でシートの上を覗き込む。

そして一瞬でたじろいだ。

それはゴキブリだった、、、

大小様々な死んだゴキブリがズラリと並んでいる。

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━嘘だろ、、、

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思いながらよく見ると、それらのゴキブリの下側には長方形の白い紙が添えられていて、こう書かれている。

昭和○年○月○日午前3時4分 台所にて確保

体長31ミリ クロGオス 特価50円

平成○年○月○日午後6時8分 玄関口にて確保

体長25ミリ 茶羽Gメス 値下げ品30円

令和3年8月○日 午後9時55分 洗面所にて確保

体長43ミリ ヤマトGオス 特価50円

………

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「お気に入りの子とか見つかりましたかあ?」

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突然女の明るい声がしたので見ると、壁の前の女が嬉しそうに目を細めてこちらを見ている。

俺はジリジリ後退りしながら、

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「い、いえ、、」

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と一言残して慌ててその場を立ち去った。

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自宅マンションに戻った後も気分が優れず、しばらくソファーで横になっていた。

その日は自炊する気が起こらず再び外に出て、すぐ近くのファミレスで晩飯を食べることにした。

生ビールを一杯飲んだ後ハンバーグセットをオーダーしたのだが全く食欲が湧かず、ご飯もおかずも半分以上残してしまった。

店を出た時、もう外は暗くなっていた。

歩道をしばらく歩きマンションの敷地に入ると入口から中に入り、右手にある集合ポストの前に立つと、郵便物をまとめて取り出す。

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するとポトリと白い封筒が床に落ちた。

なんだろう?と拾い上げると宛名も何も書かれていない。

ただ何か入っているようで封筒は全体に膨らんでいる。

首をかしげながら封を破ると、中には何やらテカテカと艶やかで黒いモノが納まっている。

何だろうと摘まんで引っ張り出した途端、「うわあ!」と小さく悲鳴をあげ思わずそれを床に落としてしまった。

改めてよく見ると、

それは死んだゴキブリだった。

しかも体長は優に5センチを越えている。

どう見ても、そこらへんで見掛けるヤツとは違っていた。

何とか気持ちを落ちつかせ改めて右手に持つ封筒を見ると、一枚の折り畳んだ便箋が入っているのに気付く。

取り出して開くと、そこには角張ったクセのある文字で、次のように書かれていた。

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本日は私の新しいお店にお越しいただき、誠にありがとうございます。

商品の方、気に入っていただけましたでしょうか?

あれはほんの序の口で、自宅にはまだまだ種類豊富に取り揃えております。

同封の商品は私からのほんのお礼の気持ちです。

気に入っていただくと幸いです。

明日も同じ場所で営業しておりますので、またのお越しを心待ちにしております。

寒くなってきましたので、お体には十分ご自愛くださいませ。

Gの部屋 

店主より

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━あれから数時間経っているはずなのに、、、

あの女、、、ずっと俺を尾行してたのか?

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便箋を持つ右手が小刻みに震えている。

しばらく便箋を片手に呆然としながら立っていたのだが、何気に背後に気配を感じ振り返った瞬間、ゾクリと背筋が凍りついた。

透明の入口ドア向こうの暗闇に、あの茶色いエプロンをした女が立っている。

ガラス面に両手をあて、嬉しそうに微笑みながらじっとこちらを見ていた。

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世界には4,600種類以上のゴキブリがいるとされ、そのうち日本では58種類が確認されており、日本の家屋内で発見できる種類はさらに絞られる。

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【意味不明な女その3】

━公衆トイレの女━

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その日俺は夕刻から、都内某ホテルが主催する婚活パーティーに参加した。

普段着なれないスーツ姿で、気合いを入れて出掛けた。

定刻より少し遅れて会場に入ると、既にパーティーは始まっていた。

20歳から40歳までの男女50名が、ホテル地下にある宴会場に一同に会している。 

ホール内のあちこちには丸テーブルが配置され、その上に様々な料理や飲み物が置かれており男性も女性も思い思いの場所に立ち、お互いに談笑しあっていた。

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前月40歳になってさすがに焦りを感じだした俺は、それまでも何度となく婚活フェスに参加してきた。

だが現実はそんなに甘くはなく連敗記録を更新中だった。

既に相手を選べるような年齢ではないことを悟っていたから、その日も片っ端に女性に声をかけていく。

だが元々コミュ障気味な俺が今更頑張って気の利いた会話をしようとしても無理な話で、やはり1回たりとも盛り上がることはなく時間だけが虚しく過ぎていき、とうとう閉会となった。

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ホテルを出た時は既に日が暮れていて、辺りは薄暗くなっていた。

俺はすぐに帰る気にはならず、何とはなしに近くにある広い公園に立ち寄る。

人気のない公園のブランコに座りしばらくゆらゆらと前後してみたが、ちっとも心が晴れないので止めた。

それから遊具たちを横目にグランドを抜け、その先にある林に進んでいく。

曲がりくねった薄暗い遊歩道を街灯を頼りに一人とぼとぼ歩いていると、情けないことに突然下っ腹が痛みだした。

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─普段食べ慣れない料理で、お腹が驚いたのかな?

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焦りながら辺りを見回すと、100メートルほど前方に街灯に照らされポツンと公衆トイレがある。

俺はダッシュすると、慌てて男性用に駆け込んだ。

そこはお世辞にも清潔とは言えないような、薄汚れた所だった。

タイル張りの床は変色しており天井の蛍光灯は切れかけていて、断続的に点いたり消えたりを繰り返している。

そこをめがけて一匹の蛾が愚かな衝突を繰り返していた。

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個室は右手に3つあった。

ただ奥の1つは閉まっており、【故障中】という貼紙がしてある。

あとの2つの扉は開いていた。

俺は真ん中の個室に入った。

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何とか用を足すことができ洋式便座に座ったままホッとして顔を上げると、扉に落書きがあることに気づく。

天井の蛍光灯が点灯と消灯を一定間隔で繰り返す状況で読みづらかったのだが、何とか頑張って読んでみた。

それは角張った癖のある字で、黒のボールペンで書かれていた。

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わたしは今年40になる女です。

去年の末、10年お付き合いをした彼氏に振られました。

それで今年に入ってから婚活を始めたのですか、なかなか良縁に恵まれません。

両親も既に亡くなっており、唯一の身内である兄も去年バイク事故で亡くなりました。

もしかしたらこのまま1人で歳をとり孤独なまま死んでいくのでは?とか考えると、ゾッとします。

最近はそんな惨めな最期を迎えるくらいならいっそのこと、、、

などという恐ろしいことまで思ったりします。

もし貴男様が独身で、こんな寂しい女に少しでも興味がおありならお電話ください。

090ー○○○○ー✕✕✕✕

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数年前ならこんな落書き一笑にふしただろうが、その日の俺は少々精神的におかしかったのだろう。

スーツの内ポケットから携帯を出すと、扉に書かれた電話番号をタッチしだした。

果たして、、、

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コール音が鳴り出した。

何故だろう心臓が次第に心拍数を上げていく。

携帯を持つ手のひらに、じんわりと汗を感じる。

1分ほど経ったくらいに突然コール音が途切れ、ぶつりと電話が繋がった。

緊張た面持ちで声を出す。

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「もしもし」

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「…………」

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返事が返ってこない。

再び声を出す。

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「もしもし」

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「…………」

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やはり返事はない。

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─なんだ、やっぱり悪戯だったのか。

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そう思って携帯を切ろうとした時だ。

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「、、、はい」

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女のか細い声が聞こえた。

俺は慌てて携帯を耳にあてると、吃りながらも必死に喋りだした。

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「あ、、あの、、ト、、トイレの扉を見て電話してるんですけど、も、、もしよろしかったら、い、一度お会いできませんか?」

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しばらくすると、また女の声がする。

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「ありがとうございます。こんな私で良ければ、、」

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━これはチャンスだ。神様が与えてくれたチャンスだ!

俺は頑張って続ける。

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「では明日の夕刻に、ここの公園でお会いしませんか?」

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すると、

女の返事は意外なものだった。

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「その必要はありません」

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俺は尋ねる。

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「どうしてですか?」

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「…………」

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急に女は無口になった。

そして沈黙がしばらく続いてからのことだ。

何だろう、頭頂部辺りにさわさわと何かが触れている!

何だろう?と見上げた瞬間、ゾッとした。

それは長い黒髪。

黒髪は上方から垂れてきており、訳が分からずその先を目でたどったとたん、一気に全身に冷たい戦慄が走る。

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「う、うわあああああ!、、、」

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それは天井にある通風口。

黒髪はそこから垂れてきていた。

そしてその隙間から、

白い顔の女が嬉しそうに目を細めて、じっとこちらを覗いていた。

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Presented by Nekojiro

Concrete
コメント怖い
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2人目の方の時点で怖いボタンを押し、3人目の方でまた押したため解除されてしまい、慌てて三度目の怖いボタンを押しました…
2人目の方の人怖が一番怖かったです!

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素晴らしい作品を読ませて頂きました。
個人的には2番目の女が一番意味不明だと思います。
いつもありがとうございます。

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