俺はおそらく物心ついた時分から親にも言えない秘密があった。
それは、人を食べてみたいという欲求だった。
幼い頃は、善悪などもわからず姉の腕に噛み付いた事もあった。
でもそれがいけない事だと親にこっぴどく叱られてからは、必死にその欲求を抑え込んできた。
が、今から十年前の俺が九歳の時、人を喰っている化け物に遭遇した。
そいつはうまそうに首元を噛みちぎり、腹を掻っ捌いて内臓を啜っていた。
俺に気づいた化け物はバツが悪そうに俺を殺そうと近付いてきたが、俺は思わず化け物にこうたずねた。
「それって、おいしい?」
化け物は答える。
「ああ、うまいぞ」
俺は嬉しさのあまりニヤついていただろう。
「僕も食べてみたい!」
化け物は、変なことを言うガキだなという目で俺の全身を舐め回すように見てから、「おまえ、共食いなんてしたらすぐに捕まっちまうぞ。でも面白いやつだな。よし、特別に人間の狩り方を教えてやろう」
それから俺は化け物を師匠とあおぎ、数々の人間を狩り、その肉を食い続けてきた。
食い残しの処分の仕方も師匠から教わっていたため、警察に追われることもなくここまでやってこれた。
だが、つい最近になって俺の中で別の欲求が湧いてきている事に気づいてしまった。
「化け物ってうまいのかな?」
俺はとっくに師匠の実力を超えていたし、人間の味をおぼえてしまった俺はなんら化け物と変わりなく、今さら後戻りなんてできない身だ。
本能のまま、師匠であるあの化け物を喰うしかない。
そう決めた俺は、師匠に斬りかかって、あっさりと虫の息にまで追い詰めた。
師匠はガタガタと震えながら「俺なんか非じゃねえ。おまえは正真正銘の化け物だ。ちくしょう、俺はとんでもないやつに狩りを教えちまったよ」と、俺をにらみつけた。
「狩りのしかたを教えてくれてありがとう。」
俺がそう言うと、師匠は観念したように「ああ、俺を喰いたいなら食えばいい。いずれは人間に復讐される日が来るとは思っていたからな。やられる相手がまさか教え子だとは思わなかったが。ただ一つ悔いが残るとしたら、おまえほどの化け物がさらにどこまでとんでもない化け物になるのか、もう少し見届けてから死にたかった」
俺は、とてつもない高揚感をおぼえつつ、これからゆっくりとこの目の前の化け物を味わう事にする。
了
作者ロビンⓂ︎
久しぶりすぎて投稿の仕方に戸惑いました…ひひ…