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「あいうえお怪談」
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第33話「零戦と天の川」
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「ざ行・ぜ」
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旧盆の8月15日。買い物を済ませ、街中でバス待ちをしていた時のこと。
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「あのー、すみません。」
背後から、声をかけられた。
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振り向くと、男子高校生が、スマホを片手にニヤついている。
「えーと、突然で悪いんですけど。これ?なにが写っているかわかります?写真の写しなんだけど。」
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男子高校生は、嫌悪感をあからさまにする私を意に介さず、スマホの画面を鼻先に突き出した。
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「どれどれ。」
真っ暗な背景に、うっすらと白い粉を吹いたような帯状の明かりが見える。その斜め上には、かすかに飛行する機体の一部と思われる翼が写っていた。
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「はっきりしないけど。天の川と小型飛行機かな。翼が見える。夜間飛行かしら。」
「すげぇ、正解!すげぇよ。おばさん、すげぇ。」
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男子高校生は、その場で小躍りしたかと思うと、誰かに電話をし始めた。
「あのさぁ、お前のじいちゃんの写真さぁ。視える人がいたよ。」
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スマホを耳に充てながら、その場で大声を挙げ、ぴょんぴょんと跳躍したかと思うと、くるりと身体を一回転させた。
ブレイキングダンスでも始めるかのごとき、尋常じゃない興奮状態である。
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「それがさぁ、フツーのおばさん。どこにでもいるパッとしない感じの。でもさ」
急に声を落とし、コソコソと小声で話している。
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(ちょっと、なんなのよ。)
バス待ちしている人たちも、半ば呆れたように凝視している。
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交差点から100メートルほど後方に、乗車するバスが姿を表した。
信号が青に変わり、バスを待つ人たちの列の前に停車した。
ほっと胸をなでおろす。
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今時の高校生に、これ以上絡まれたくないわ。
私は、バスに向かう列の流れに連なるように歩き始めた。
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と、その時
ピキッ バリッ ペリッ
うあぁぁぁぁぁぁ。何なんだよぉ。
ガラスが割れるような音と、例の高校生の悲鳴がほぼ同時に響き渡った。
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「怒ってる、怒ってるよ。ほら。」
男子高校生は、私に走り寄ると、今にも泣きそうな表情を浮かべながら、私の鼻先にスマホを突き出した。
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いやはや、私は、バスに乗る人たちの列から外れ、スマホの画面に目を移し、思わず息を呑んだ。
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スマホの真ん中には、大きな亀裂が走り、画面中央には、天の川を背景に、零戦が旋回するようすが、そこだけ、くりぬかれたように写し出されていた。
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あぁ・・・これは。上空で燃料が尽きて、墜落寸前だったのかな。
一瞬、零戦の機体に折り重なるように、戦闘服に身を包んだ男性の顔が大きく浮かび上がるのが見えた。
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憂いと悲しみと怒りがこめられたまなざし。
スマホの亀裂は、男性の眉間を貫く、鋭い刃物のようにも見え、言い知れぬ怒りと悲しみがこみあげて来た。
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「どうしよう。どうしよう。」
先程までの はっちゃけぶりが嘘のように、狼狽(うろた)え、怯える高校生に、
「今日は、何の日か、お友達のおじいさんに ちゃんと教えてもらいなさいね。」
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「はい。わかりました。」
こくりと頷く男子高校生に、スマホを返し、私は、大急ぎでバスに乗り込んだ。
作者あんみつ姫
第33話と第34話は、戦争にまつわるお話を投稿します。
都合上、「ざ行・ぜ」から始まるタイトルのお話の方を先にいたしました。
本作をアップするにあたり、零戦について少し調べてみました。
メカニックなことはよく解らないのですが、当時の、事情や戦局を鑑みても、低予算で製造された割には、軽量、洗練された有能な戦闘機だったようですね。「ゴジラ―1(マイナスワン)」にも登場した幻の零戦。
戦争は、絶対にしてはいけないと思います。
戦争体験を実体験として語れる人は、少なくなりました。
生まれていなかったから。といって、なかったことにはできないのです。
どのような形であれ、過去の悲劇を語り伝えていく使命があるように思えてなりません。