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 「地鎮祭」                 「あいうえお怪談」 第39話「だ行・ぢ」

中編6
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 「地鎮祭」                 「あいうえお怪談」 第39話「だ行・ぢ」

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「あいうえお怪談」

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「だ行・ぢ」

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第39話「地鎮祭にまつわる怖い話」

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「だから、確かに、この目で見たんです。嘘じゃないです。男の人が、4階に着いた途端、急に、狐に、それも白い毛がふさふたした狐になったんですよ。」

口角から泡を飛ばし、オーナーの坂本さんが、恐怖に怯えながら真顔で訴えている。

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着工以来トラブル続きだった新ビルが、やっと完成したのもつかの間、建築に携わった業者や新たに入居した客からのクレームが後を絶たない。

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①昼夜を問わず、突然エレベーターが動かなくなる。もしくは、途中で止まる。

②地下2階、または、屋上へ行ったきり戻ってこない。

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③深夜誰もいないはずのフロアから、子どもが駆け回る足音がする。

④深夜0時過ぎに、地下2階からエレベーターに乗ると、1階のボタンを押したのに、一気に4階まで行ってしまう。

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⑤更に、4階に着き、ドアが開いた先には、「黄泉」と大きく刻印された篆字が壁一面を覆い尽くし、その傍らには、白い着物を着た女の人が後ろ向きのまま立っている。

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ちなみに、地下2階は、かなりの台数を収容できる駐車場である。

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4階は、普段あまり使われない研修室や集会室といった貸室フロアなのだが、地下2階から乗り、4階で降りようとすると、急な頭痛、肩こり、腰痛といった体調不良が起きるようなのだ。

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また、これは、ごく一部の人の証言になるが、ビルの外で宴会や食事をして帰宅し、1階からエレベーターに乗り込むと、なぜか、地下2階から乗ってきたであろう老婆や中年男性が、怒りと憎しみをあらわにした形相で睨みつけてくるのだという。

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この時も、2階・3階に降りたくても、否応なしに4階まで運ばれてしまうのだそうだ。

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冒頭の坂本さんは、まさしく、④の現象に遭遇したことになる。

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更に怖ろしいことに、地下2階から一緒に乗り込んだはずの中年男性が、エレベーターのドアが空いた瞬間、坂本さんに向かい、「おまえ、タバコ吸うのか。この愚か者めが。」と唸り声をあげ、瞬く間に中年男性から白狐に変貌したのだという。

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この場所は、かつて、10階建ての団地が棟を連ねていた。

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また、過去、エレベーター事故で、子どもがふたり亡くなってもいる。

だが、廃墟同然になる前から、つまり、団地だった頃から、常に不穏な噂が絶えなかったらしい。

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エレベーターが急に動き出したり、誰もいないはずのトイレや台所、お風呂場や洗面所から水が流れる音がしたり、巫女の姿をした者たちが行き交う姿や、白髪の老婆の幽霊が度々目撃されていたらしい。

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ビルの管理を任されている身としては、悪い噂が立ち、SNSに流されでもしたら大変なことになる。とても放置しておける問題ではない。

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かといって、霊媒師やら霊能者に依頼するのも抵抗がある。

まずは、このビルの前身である公団住宅を兼ねた団地の由来と、元々、このあたりの土地について、何か手がかりはないか、詳細に調べてみることにした。

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当然、過去の建築資料や、図面、立地にかかった費用諸々。つまり財源に至るまで、会社総掛かりで調査にあたった。

その結果、驚くべきことが判明した。

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新入社員の工藤君が、このあたりの聞き込みをしていた時、このビルが団地だった頃、自分の父親が自治会の会長をしていたという人物(仮にNさんとしよう)と出会ったのである。

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Nさんは、ビル周辺、この土地にまつわる逸話を語ってくれたというのだ。

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この場所は、古来から「稲荷神社」を氏神として信仰している土地であった。

にもかかわらず、「地鎮祭」を行う際、場違いな神社、もしくは、土地の神様とは異なる神様に依頼してしまったのではないかというのである。

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また、このビルを新たに施工する前にも、「地鎮祭」が行われたとの話は聞かなかったし、行われている様子を見たという者もいなかったというのだ。

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このビルは、二度にわたり、「地鎮祭」を蔑ろにして建築が進められていたのではないかと。

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推測するに、過去「地鎮祭」は行われており、既に、儀式自体は終了しているから、同じ土地でもあるし、二度も必要はないと考えたのかもしれないとのこと。

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大工たちは、事故やケチがつくのを極端に嫌う。

つまり、縁起を担ぐ者たちが多い。

新たにビルを建築するに当たり、そんな重大なことを蔑ろに出来るものだろうか。

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だが、金絡み、もしくは、宗教がらみであれば、十分考えられなくもない。

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だとすれば、これら一連の怪異は、過去と現在の二度にわたり、氏神に対し、無礼かつ不謹慎な、あり得ない「罪」を犯したことになりはしないか。

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結果、今直面している不可解な現象や怪異は、当然の報いであり、「罰」に他ならない。

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私個人としては、特に信仰心があるわけでもない、どちらかといえば、無宗教に近い人間だが、建築に関わる人間として、あまりに非常識な行いに開いた口が塞がらなかった。

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ちなみに、

「場違いな神社。もしくは、神様とは?」

との問いに対しては、Nさんの答えは芳しいものではなかったらしい。

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「それは・・・答えられません。」と静かに首を横に振り、俯いてしまったそうだ。

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Nさんは、「私は、団地を出て、今住んでいる家に移り住んだ後に生まれたので。よくわからないのです。ただ、物心ついた頃から、両親には、あの場所には近づくなと言われていました。まぁ、私もこの眼で確かめたわけではないので。」と。

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推察するに、「地鎮祭」は、行われたものの、「稲荷神社」とは異なる神。もしくは、異なる宗教だったのではないかとのことだった。

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また、クライアントの坂本さんは、自他ともに認めるヘビースモーカーである。

おそらく、煙草を吸うために、ライターを常に持ち歩いていたのではないだろうか。

当然、あの日も身につけていたはずだ。

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稲荷神社に行く際は、肉や魚といった生ものに加え、火に関するものを持っていってはいけないという決まりがあるらしい。

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この業界は、前述したように「縁起」つまり験担ぎをとても気にするし、大事にしている。

にもかかわらず、なんてことをしてくれたのだと言う気持ちでいっぱいになった。

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時すでに遅しなのかもしれないが、この話を聞いて、居ても立っても居られなくなった私は、

上層部に直談判し、説得、早速、土地の神様であった「お稲荷様」と「稲荷神社」ゆかりの神主さんや神社に関わる神職の皆々様を呼んで、再度、大規模な「地鎮祭」を行った。

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以来、怪異について、話を聞くことはなくなった。

とはいえ、やはり、このビルを訪れるたびに、陰鬱な気持ちになってしまうのだ。

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特に、駐車場がある地下2階からエレベーターに乗り込む際、気のせいか、背後に人の気配がを感じ、思わず振り向いてしまう。

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自分以外誰もいない。

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なのに、背後から、頭上から、誰かの視線と、ゾクリと冷たい空気を感じるのだ。

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まだ、何かし忘れたことがあるのだろうか。

それとも、他に理由があるのだろうか。

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普段、何気なく過ごしている日常生活。だが、その背景には、古(いにしえ)より固く守られてきた「まつりごと」があることを忘れてはならない。

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黄泉に降(くだ)る前に、つまり、あの世に旅立つ前に後悔しないように。

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世の中には、過去。現在、未来にわたり、蔑ろにしてはならないことや大切にしなければならないこと、決してしてはならないタブーがあるということを忘れてはならないのだ。

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