中編3
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ブランコ

今日も電車の中は通勤ラッシュで満員だ。

その狭い鉄の箱の中で揺られながら、島田は思った。

(最近太ってきたな)

不意に下を見た時に、お腹がポッコリなっているのだ。

仕事が終わったら走りに行くか。

島田はそう決意した。

島田は30代で、サラリーマンとして日々汗を流している。

30代なんて気を抜けばすぐにおっさんに見えてしまう。

学生の頃は、ルックスも良くモテていた。

そんな彼の小さなプライドが許さなかったのだろう。

その日の晩、島田はジャージ姿になり、夜の街を滑走していた。

中学、高校と陸上部に入っていた島田は走るのが好きだった。

久しぶりに走ったせいか直ぐに息が上がってしまい、休憩がてら歩いていた。

その時、右手に公園が見えた。

夜なので暗かったが、ちょうど照明に照らされているブランコだけはよく見える。

よく見ると誰か座っている。

それも子供だ。

少し気になって、声をかけた。

『1人でどうしたん?お母さんかお父さんわ?』

子供は無言のまま、俯いている。

最近は物騒だ。

夜に子供1人で居るのを放っておけなかった。

隣のブランコに座り、様子を伺おうと思った。

もしかしたら、児童虐待の場合もある。

事によっては交番に連れて行こうと考えていた。

その時、島田は違和感を覚えた。

しかし、それが何なのかわからなかった。

『怒られたん?』

子供は横に首をふった。

『じゃあ早く帰らんとな、今頃お家の人が心配してると思うよ』

子供は俯いている。

(困ったなあ)

『…てくれる?』

ボソボソと呟いているのが聞こえた。

『ん?どうした?』

『じゃあ、一緒に来てくれる?』

不安げな顔でこちらを見ている。

『わかった。家は何処だ?』

ありがとう、子供は笑顔でそう言った。

やはり子供は笑顔が一番だ。

『どう致しまして、えーと…』

お互い名前を知らなかったので、おじさんの名前は島田、キミわ?と聞こうとした。

その時、前のほうから

『あのー…』

という声が聞こえて来た。

気配に全然気づかなかったので、思わず身体がビクッとなった。

声の主は、警察官だった。

『あの、1人で何を?』

そう言った。

1人?横に子供も座っているじゃないか。

ふっと子供のほうに目をやった。

そこにはブランコだけが明かりに照らされていた。

先程までいたはずなのに、何処に行ったんだろう。辺りを見渡してみたが見当たらない。

『あの、ここにいた子供どこ行きました?』

警察官は見ていないという。

そんな馬鹿な。

暗くて見えなかったのか?

いや、それはないだろう。

くっきりと影もできるほどに照らされている。

現に自分だって、子供が見えたからここに来たんじゃないか。

そこでハッと気がついた。

“影”だ。

先程まで感じていた違和感。

あの子供には“それ"がなかった。

その瞬間、鳥肌がたった。

『じゃあ、一緒に来てくれる?』

あの言葉の意味は、きっと…。

警察官に感謝した。

?マークを浮かべた警察官を後に、猛ダッシュで自宅へ帰った。

あれ以来、その公園には近寄らないようにしている。

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