中編4
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過去

俺はあの日、人を殺した。

今から七年前の夏のことだ。

彼の名前は思い出せないからF君とする。

俺達は道南小学校の同じクラスだった。

彼は問題児で、よく問題をおこした。

田畑を荒らしたり、貴重品を盗み出したりと、教師から見れば厄介な生徒だったに違いない。

だが、俺の中では彼は大切な友達だった。

当時、俺はクラスで孤立していた。

他人との接し方がわからなかったのが大きな原因だった。

他人が、なに考えているのかわからなかった。

考えれば考えるほど他人がわからなくなった。

だから意味もないのに笑ったり、他人の気を引くために泣く演技をしたりしていた。

当然のことだが、そんな面倒な人間は嫌われる。

離れていく人間をひきとめる知恵をもたない私が、孤立するのに時間はかからなかった。

そんな俺に、優しく接してくれたのがF君だった。

俺は最初戸惑った。

彼がなに考えているのかさっぱりわからなかった。

友達もいない。

人との接し方もわからない。

だからまともに会話が成立するようになるまで、かなりの時間がかかった。

彼から俺は、様々なことを教わった。

毎日、日が暮れるまで遊んだ。

F君との距離は日に日に近づいていった。

たが、そんな日々は長くは続かなかった。

ある日、突然彼は俺をさけはじめた。

理由を聞いても答えてくれなかった。

俺は焦った。

彼が、俺のもとからいなくなってしまうのではないかと

不安に苛まれた。

当時の俺にとっては彼が全てだった。

彼のことを考えると頭がジリジリ痛み吐き気を覚えた。

胸を針で刺されているような鈍い痛みに襲われた。

そして何より不安にさせたのは、彼の変わりようだ。

急激に短期間で痩せたのだ。

目には力がなく、なにも映っていないのではないかとおもうほどだった。

慌てて声をかけた俺だったが、思いがけない言葉を聞くことになる。

「俺に二度と面見せるなよ。目障りだ」

彼から聞いたはじめての拒絶の言葉だった。

俺は返す言葉もなくたちつくした。

次の日彼は学校に来なかった。

担任が、彼の欠席を告げる。

彼の言葉がよみがえる。

彼に逢いたい。

そう思う半面彼の言葉がおもりのようにのしかかる。

失いたくない。

失いたくない?あそこまではっきり拒絶されて失いたくないもへったくれもあったものじゃない。

彼に逢いにいかないといけない。

失うものなんてないんだと自分に言い聞かせ走り出した。

後ろから教師の怒鳴り声が聞こえてくるが無視した。

彼の家は学校から徒歩五分の距離だったので、すぐについた。

呼び鈴を鳴らしながら呼吸を整える。

彼はすぐに出てきた。

彼は呆れたように俺を見つめ、入れよと呟き奥の方へ消えていった。

俺は彼に事情を話すよう求めた。

彼は渋ったが、俺の気迫におされたのか彼ははなしはじめた。

影が自分を殺そうとしているというのだ。

影の正体も、何故こんなことになったか一切不明。

ある日、突然影があらわれ彼の体を蝕みはじめたそうだ。

医者にみてもらったが異常はないというのだ。

話終えた彼は、酷く衰弱していた。

彼の変わり果てた様子を眺めていると突然変化がおこった。

彼の体が突如痙攣し奇声をあげはじめた。

「ギョェグギュオェ」

瞬間目がガバッと見開き天井を睨み付けた。

そこには、影があった。

「来るなくるな来るなくるな来るな来るな」

影がゆっくり移動をはじめた。

逃げないといけない。

彼を守らないといけない。

俺は彼を抱き抱えた。

同じ小学生と思えないほど軽かった。

俺の胸の中で彼は激しく暴れた。

そのせいで、何度も落としそうになりながら必死に逃げる。

影は一定の速度を保ちこちらに向かってくる。

影との距離は離れるどころかドンドン近づいてくる。

額からは汗が零れる。

町の出口が見えてきた。

なんの根拠もないが、町の外に出たら助かるのではないかと淡い期待が脳裏によぎった。

裸足で家を出てきたため足が痛む。

あと、少しだ。

だが、そこまでだった。

俺はバランスを崩し転倒した。

終わった。

影が迫る。

起き上がろうにも力が入らない。

意識が遠くなっていく。

そんな中、いつのまにか彼は立ち上がっていた。

彼は笑っていた。

そして彼は言った。

「じゃあな。親友」

記憶はそこまでだ。

彼は七年たった今でも行方不明のままだ。

本当はもうひとつはなしておかなければならないことがあるが、それはまた今度にする。

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