長編24
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放火

二月も中旬に差し掛かる時期、東京都内では連続放火事件が相次いでいた。 いずれも放火は週に不定期で起こっていて、死傷者も五人出ている。

今週で遂に五件目になった為に六件目が起こるかもしれないとニュースで話題になっていたがそれは佐藤達の通う東高等学校でも同じだった。

勤「本当にひでぇ事する奴がいるよな!」

理子「ほんと!許せないわ!!」

部室で事件の新聞記事を読んでいた勤と理子が声を荒らげる。

そんな様子の二人とは別に佐藤はただ一人黙って一枚の写真を眺めていた。

何を見てるのか気になった勤が「何見てんだ?」と声を掛けると佐藤は驚いて立ち上がった。

佐藤「うっわ!」

勤「な、何変な声出してんだよ?そんな驚く様な事なんて言ってないぞ!? 」

佐藤「ごめん、集中して見てたから。

佐藤が持っていた写真を勤が「なに見てたんだよ?」と言いながら取った。 佐藤「お、おい!」

勤の行動が素早かった為に佐藤の反応は間に合わなかった。勤が佐藤から取った写真にはまるで戦後の町の光景を撮ったかの様な家が燃えて全壊した光景が写し出されていた。

勤「な、何だよこれ!?」

写真を見て驚いた勤が尋ねる。

佐藤「いや、これは…。」

理子「まさか、連続放火事件の現場写真!?」 理子の突然の発言に佐藤は驚いてしまう。

勤「そうなのか!?」

勤も理子の発言を聞いて佐藤に驚きながらも問いただす。 佐藤は仕方ないと言った顔で「ああ、 そうだよ。」と答える。 佐藤の返答を聞いて更に驚いた勤は 「どうしてお前がこんな物持ってるんだよ!?」と続けて質問する。

理子も勤の質問に同意するかのように首を数回縦に振る。 佐藤は二人の勢いに圧倒されて困りながらも理由を話し始めた。 佐藤が例の写真を持っている理由について話は三日前に戻る 。

ー三日前ー

新聞を読んでいた佐藤の母・由実は「これでもう五件目ね。」と言った。 佐藤も「うん、とうとう五件目になったね。」と相槌を打つ。 二人とも例の連続放火事件の話をしていたのだ。

不意にチャイムが鳴ったので由実が出るとそこには背広にネクタイをした一人の男が立っていた。 男は「お久しぶりです、石田です。」 と名乗った。 その名を聞いた由実は思い出した様ですぐに「まぁ、石田さん!?私の父の昔の相談者の…」と言った。

すると男は笑顔で「はい、佐藤礼二先生に昔相談した事のある石田です。」 と言い、頭を下げた。

由実「父はあいにく今、出張中で留守だけど上がってください。」

そう言うと石田は「ではお言葉に甘えて。」と言って上がった。

客間に通された石田が座ると同時に佐藤がお茶を出しに来た。 佐藤の姿を見た石田は「やぁ、渉君!久しぶりだね!!」と言った。 実は石田はかつて佐藤の祖父を訪ねた際、佐藤渉にも会っていたのだ。

石田は「あの時の君は六、七歳だったから覚えてないだろうね。当時の僕も今の君ぐらいだったんだよ」と言いながら佐藤の肩を叩いていた。

由実「所で何か相談でも?」

石田「実は私、今刑事をやっているんです。」

由実「まぁ、刑事さんに?凄いですねぇ~!」

石田「いやー、昔の自分を思うと恥ずかしいもんですよ。あの時の私はひ弱でしたからね。」

佐藤「じいちゃんに相談した事って何だったんですか?」

気になった佐藤が質問する。

由実「彼はね、昔から色んな物が見えて怖いんですって相談に来たのよ。」 石田「ええ、あの時が恥ずかしいですよ。」 石田は恥ずかしそうに言った。

石田「でも今では怖い所か仕事に役立ってますよ。私、殺人課所属何ですが被害者の気持ちが分かると言うか…。」

佐藤「そうか!それなら被害者の証言で犯人も分かりますから役立ちますね!」

佐藤も納得した様に言った。

石田「いえ、私は時に霊が視える程度でそこまでは…。まぁ、確かに役立ってはいますがね。」

そこまで言うと石田は本題に入った。 「そこで相談なんですが、この写真を見て何か感じられますか?」

そう言いながら一枚の写真を出してきた。

そこには焼けた家の残骸が写されていた。

佐藤「これ、もしかして連続放火事件の現場ですか?」

佐藤が驚きながらたずねる。

石田「ええ、そうです。これは五件目、つまり今週の火災現場です。」

佐藤(…………。)

由実(…………。)

二人とも写真をじっと黙って見ていた。

石田「どうですか?」

石田が問いかけると二人はようやく口を開いた。

佐藤「犯人は分かりません。」

由実「そうね。」

佐藤も答えたので石田は驚いてしまった。

石田「驚きました、彼にもこの様な力が?」

佐藤「ええ、まぁ。」

由実「ただ…この現場の残骸の下から嫌な空気を感じたわ。」

佐藤「あっ、母さんも?実は俺も。」

石田「嫌な空気?」

石田が不思議に思って質問した。

由実「ええ、空気と言うか何と言うか…。」

佐藤「まるでこの残骸の下に死体があるような感じ?」

由実「そうね、大体そんな感じだわ。 はっきりした事は分からないけど。」

佐藤「俺もまだはっきりした事は分からないけど。」

石田「となると、この下に死体が埋まっていると?」

由実「確証はないけどそんな感じだわ。」

石田「そうですか。ですがその可能性は高いかも知れません。」

石田の一言に佐藤も由実も一瞬驚いてしまう。

佐藤「どういうことですか?」

石田は考えたが「これはまだマスコミには伝わっていない情報なんですが。」と前置きして話し始めた。

「これまでの火災事件で死傷者が出ていると言うことはご存知ですか?」

由実「ええ、知ってるわ。」

石田「実は一件目から五件目までのいずれの火災現場で発見されたどの死体にも後頭部に殴打された痕があったんです。」

石田が言ったその情報は二人とも初耳だった。どうやらマスコミにはまだ伝わっていないと言う事は本当らしい。

佐藤「それって、殺人の可能性があるということですか?」

佐藤が驚きながらも尋ねる。

石田「ええ、だから我々殺人課も動いてるわけです。」

そう、本来なら放火は石田刑事が所属する殺人課ではなく火災班の担当なのだ。

だが今回の放火事件は殺人の可能性も浮上している為に石田刑事達殺人課も動いてるわけだ。 その事を聞いた佐藤は少し考えて「あの、この写真預かってもよろしいですか?もう少し詳しく霊査したいので。」と尋ねる。

石田は「もちろん!願ってもない。」 と了承してくれた。

ー 以上が放火事件の現場写真を佐藤が持っている理由だ。

話を聞き終えると二人とも驚いてしまっていた。

勤「すげー、そんな理由があったのかぁー。」

理子「ほんと!驚いちゃった!」

佐藤「正直俺も驚いてるよ。警察から捜査協力を依頼されるなんてな。」 勤「確かにすげーな、お前!」

理子「警察にも知り合いが出来るなんてね!」

佐藤「ほんと、その通りだよ。」 勤「ーで、何か分かったのか?」

勤が写真について話を戻す。

佐藤「いや、まだ何とも。」

理子「でも…まさか亡くなった人達が皆火事で亡くなったんじゃなくて殴られて死んだなんてね…。」

勤「ほんとに許せねぇよな、放火犯の奴!そいつを捕まえる為にも佐藤、絶対に何か手掛かりを掴んでくれよ!」 佐藤「あ、ああ…。」

勤が凄い勢いで言ってきたので佐藤は圧倒されて低い返事をするしかなかった。 その後下校時刻になったので佐藤達は帰路に着いた。

佐藤は帰りの道中、勤に言われた事をずっと考えていた。

「う~ん、手掛かりか…。」

佐藤が困りながら歩いていると青いビニールシートに覆われた家の敷地が見えた。「あれ?ここは…。」

そこは写真に写っていた五件目の火災現場だった。

佐藤は周りに誰も居ないのを確認してビニールシートをめくり、中を見た。 そこには写真に写っていたのと同じ火災による悲惨な光景が広がっていた。 「よし、何としてでも手掛かりを掴んでやる!」

現場の悲惨な光景を直に目の当たりにした佐藤は奮起して必ず犯人を捕まえる為の手掛かりを掴むと固く心に誓った。 そこで佐藤は荷物を下に置いて数珠を取り出し、霊査を始めた。

すると徐々に火災発生時の雰囲気を感じ取れていた。

「熱い…これが出火時の暑さか。」

佐藤は暑さを我慢しながら手掛かりを掴む為に意識を集中して視続けていた。しばらく視ていると出火前の風景が佐藤の目に見えてきた。その風景は現在の悲惨な光景が嘘の様に見えた。 「おや?」

霊査を続けていた佐藤の目に出火前の家の近くにやって来た一人の人物が飛び込んで来た。

その人物は厚いコートを着ている上にフードを被って顔を隠し、手には革手袋をしていた。

それを見た佐藤は恐らくこの人物こそが放火犯だろうと悟った。

それは前述の怪しい格好に加えて新聞紙とマッチ、灯油缶を持っていたからだ。

「手袋をしているのは指紋を残さない為で厚いコートにフードを被っているのは顔と性別を隠す為だな。」

そう考えていた佐藤が更に見続けるとその放火犯らしき人物は持っていた新聞紙を広げて地面に置き、その上に灯油を撒いてマッチの火を放った。

その一部始終を目撃した佐藤はやはりこの人物は連続放火犯だと確信した。

佐藤「後は顔さえ分かればな。」

そう期待したがその人物の顔が見える事はなかった。

佐藤「う~ん、ダメか。これ以上の霊査も疲れてできないし…。

仕方ない、帰るとするか…。」

佐藤は下に死体が埋まっているかどうかも確認しようとしたがこれ以上の霊査は不可能だと思い、帰る事にした。

しかし、現場を出た所で偶然通り掛かったパトロール中の警官に見つかってしまう。

警官「おい!そこで何してる!?」

佐藤「い、いえ…別に何も…」

警官「怪しい!ちょっと署まで来てもらおう!」

佐藤は必死に弁解したが無駄だった。 その後佐藤は警官に警視庁東警察署へ連行された。

そこの入口で偶然石田刑事と出会う。

石田「渉君じゃないか!一体どうしてここに!?」

佐藤「石田さん!石田さんこそどうしてここに!?」

石田「ここが私の職場なんだよ。」

そう、石田刑事の職場はこの警視庁東警察署の二階にある殺人課なのだ。

その後佐藤は石田刑事に事情を話し、

石田刑事のお蔭で何とか無事に帰される事になった。

ー会議室ー

佐藤「助かりました、石田さん本当にありがとうございました!ご迷惑御掛けしてすいません。」

石田「いや、渉君が何とか助かって良かったよ。それにもとはと言えばこうなったのも私が君に依頼したからだしね。」

佐藤「いえ、そんな。現場で直接霊査したのは自分の意志ですから石田さんのせいではないですよ。」

石田「取り敢えず家まではパトカーで送るよ。もちろんお母さんには気付かれない様にね。」

佐藤は申しなく思い、石田刑事に「ありがとうございます。」と礼を述べて頭を下げた。

そこで佐藤は石田刑事に現場を直接霊査した結果を話した。

石田「なるほど。では、放火犯は先程君が言った通りの服装で犯行に及んだと言う事なんだね?」

佐藤「ええ、流石に顔までは見る事が出来なかったですけど。」

石田「それから例の現場の地面に死体が埋まっているという方は?」

石田刑事が疑問に思っていた事を聞いてきた。

佐藤「それが霊査し損なって…。」

石田「フム…。よし、私の方でも出来る限りの事をしよう。また何か分かったらこの番号に電話してくれ。」

そう言いながら名刺を出してきた。

佐藤「はい、分かりました。」

佐藤は名刺を受け取った後、石田刑事にパトカーで家まで送ってもらった。

ー翌日ー

この日は休日だったので佐藤はゆっくり休んでいたかったが昨日の現場にもう一度行く為に早起きして向かう事にした。

途中で由実に「どこ行くの?」と呼び止められてしまうが適当に答えるとすぐに家を飛び出し、現場に向かった。

ー火災現場ー

程なくして佐藤は現場に到着したが、

入り口には警官がいて入れなかった。

佐藤「やっぱりダメか。」

入るのが無理だと悟った佐藤は現場から少し離れた所で遠隔霊視を試みた。

実行するとすぐに佐藤の幽体は現場へ向かった。

佐藤「よし、現場上空に到着。ここなら十分に視れる。」

そう思いながら視ると…。

佐藤「これは…。」

現場の地面の下を霊視した結果、そこには一体の死体が埋まっていた。

やはり佐藤と由実の霊視結果は当たっていたのだ。

「遺体は見たところ三十代前半の男で死因は頭を殴られた事による物か。」

死体を見ていると佐藤の頭に自然と被害者の亡くなった時の状況が伝わってくるのだ。

そこで佐藤の幽体は元に戻った。

佐藤「死体が埋まっているのは分かったけど、犯人はどうすれば…。」

佐藤はそれについて悩んでいた。

「とにかく石田さんに伝えるか。」

そう思った佐藤は携帯電話を出した。

そして携帯を開いて昨夜石田刑事から貰った名刺に書いてある番号にかけようとした。

すると不意に後ろから声を掛けられ、

振り返るとそこには一人の男が立っていた。

佐藤「何でしょうか?」

佐藤が尋ねると男は懐から手帳を出して佐藤に見せてきた。

そこには警視庁と書かれていた。

そう、この男は刑事なのだ。

刑事「私は警視庁東警察署火災班の者ですがここで何を?」

佐藤は急な質問に困りながらも「電話を掛けようと思って立ち止まっていただけです。」と答えた。

そう聞いた刑事は何か知っていれば情報を教える様にと言い、現場に向かっていった。

佐藤は刑事が現場に向かっていったのを確認するとすぐに石田刑事に連絡を取ろうとするが繋がらなかった。

佐藤「出ないな、電源切ってるのかな?」

そう思い、佐藤はやむ無くメールで分かった情報を伝える事にした。

メール送信完了を確認した佐藤は家に帰宅する為に歩き出した。

帰宅後に昼食を食べると眠いために佐藤は布団に潜った。

しばらくの間眠っていた佐藤だったが

サイレンの音で目を覚ました。

時計を見ると時刻は夕方だった。

サイレンが近くで止むのを聞いた佐藤が窓を開けて外を見ると近所の家から煙が上がっていてたくさんの野次馬がその家の前を取り巻いていた。

そこで佐藤は窓とカーテンを閉めて燃えている家を霊視してみた。

するとその家の中にまだ逃げ遅れた住人が一人いた。

その住人は頭から血を流していたがまだ生きていた。

しかし、このまま放置し続けるとやがて一酸化炭素中毒で亡くなるだろう。

そう思った佐藤は居てもたっても居られなくなり、すぐさま家を飛び出して火災現場に向かった。

到着した佐藤は現場の裏へ回り、そこにあった井戸の水を二つのバケツに汲むと中へ突入した。

幸い火は裏まで回っていなかったので難なく中へ入れた。

佐藤は住人の名前を叫びながら住人が倒れていた二階に上がった。

火の勢いが凄かったが、佐藤は持っていたバケツの水をかけて火の勢いを弱めると同時に住人が倒れていた部屋に飛び込んだ。

佐藤は倒れていた住人を発見すると住人を連れて外へ向かった。

何とか脱出して消防士に引き渡したが佐藤はそこで倒れて気を失ってしまう。

気がつくとそこは病院のベッドの上で

そばには由実と勤と理子がいた。

佐藤「あれ?何で俺ここに…。それにどうして勤と理子が?」

勤「お前が病院に運ばれたって聞いたから理子と二人で見舞いに来たんだよ!」

理子「心配したんだよ!」

由実「全くあんたは…。」

佐藤は申し訳なく思い、勤達に謝った。

そこで佐藤はふとある事に気付く。

佐藤「俺が助けた人は!?」

そう、佐藤が火の中から助け出した人の生死だ。

勤「ああ、その人なら大丈夫だよ。頭に傷はあったけど脳には異常無いし軽い一酸化炭素中毒を起こしただけだって!まだ意識も戻ってないけどいずれ目を覚ますだろうしな!」

勤が言うと佐藤は安心した顔になった。

佐藤「そうか、よかった…。」

そうこう話していると病室に警察官がやって来た。

警察官「すいません、事情をお伺いしたいのですが。」

佐藤「分かりました、どうぞ聞いて下さい。」

そう言うと警察官は佐藤のいるベッドに寄ってきた。

それからしばらくの間簡単な事情聴取をされたが三十分程で終了し、警察官は帰っていった。

佐藤は体の具合が良くなったので勤達と共に病院を後にした。

翌日、佐藤は部室で勤達に五件目の火災現場を霊視した結果を話した。

勤「そうかー、やっぱり死体が埋まってたんだな!」

佐藤「ああ、間違いない。」

理子「犯人は分からなかったの?」

佐藤「残念ながら顔までは分からなかったよ。」

佐藤がそう言うと勤は何か考えた後にこう言った。

勤「よし、佐藤。例の刑事さんに聞いてみようぜ!その後の捜査の進展とかさ!」

勤の突然の発言に佐藤は驚いて

「いや、いくらなんでもそれは…。」

と言いかけた。

理子「でも何か分かるかも知れないよ!」

佐藤はしばらく渋っていたが、理子の言うことも一理あると思い、石田刑事に連絡を取ってみた。

石田刑事「おお、渉君!昨日は大丈夫だったかい?」

佐藤「ええ、大丈夫です。ご心配なく。それより聞きたい事が。」

佐藤は石田刑事にその後の捜査の進展について聞いてみた。

すると石田刑事は色々と教えてくれた。

まず、佐藤が言った火災現場の地面の下を警察が調べた所やはり死体が出てきたらしい。

その死体は佐藤の言う通り三十代前半の男で、死因は後頭部殴打による撲殺だった。

更に佐藤が言った放火犯の特徴を元に聞き込みをした所、

事件当日に特徴と同じ格好の人物が一人現場から立ち去るのを目撃した人がいるとの事だ。

そして警察はこれらの情報を元に現在捜査中である。

以上が石田刑事が教えてくれた内容である。

聞き終わった佐藤は石田刑事に礼を述べると電話を切った。

勤「分かったのは例の怪しい奴が放火犯に違いないって事ぐらいか。」

佐藤「そうらしいね。」

その後佐藤達は下校時間になったので帰宅した。

佐藤が帰宅すると家の前にパトカーが停まっていた。

更に佐藤が家の中に入ると刑事らしき男が二人いて佐藤に事情聴取を求めてきた。

佐藤「何でしょうか?」

刑事「ちょっとこれを見てください。」

そう言いながら刑事は一枚の写真を出してきた。

それは五件目の火災現場の写真であって石田刑事から預かった写真と同じである。

刑事「これは五件目の火災現場の写真です。」

佐藤「これが何か?」

刑事「実は昨日の夕方にこの現場から死体が発見されたんです。ですから我々は昨夜に会議を開いたのですがその最中に一人の刑事がこんな事を言ってきたんです。

昨日の昼前にこの現場付近で高校生ぐらいの若い男を見たと。」

佐藤はギクリとした。

昨日の昼前に火災現場で会った一人の刑事を思い出したのだ。

刑事は佐藤が思い出していた事を何も知らずに話を続ける。

「その若い男に声を掛けた所、その男は電話を掛けようと思って立ち止まっていただけだと言ったらしいんです。」

佐藤はドキドキしながら聞いていた。

刑事「そこで我々はその若い男が犯人の可能性もあるので重要参考人として探す事にしたんです。」

そう言うと刑事は一枚の白紙を出してきた。

佐藤「これは?」

気になった佐藤が尋ねると刑事は

「これが目撃した刑事の証言を元に作った似顔絵です。」と言いながら白紙を裏返した。

するとそこには佐藤そっくりの似顔絵が描かれていた。

それを見た佐藤は驚いてしまい、何も言えなかった。

刑事「今日の昼頃から我々は聞き込みを続けている内にもう一つ手がかりを掴みました。

それは五件目の火災現場が放火された日の夜、犯行時刻に現場から一人の怪しい人物が逃げるのを目撃したと言う情報です。」

それを聞いた佐藤は例の怪しい人物を思い出していた。

刑事「その人物の顔や性別は分からなかった様ですがその人物こそが放火犯に違いないと断定されました。

そして我々はこの若い男とその人物が同一人物ではないかと判断し、その後の聞き込みでようやくこの若い男を見つける事が出来ました。」

そう言うと刑事は佐藤の顔を真っ直ぐ見て「佐藤渉さん、あなただったんですね?」と尋ねてきた。

佐藤は必死に弁解したが刑事は「話は署で聞きましょう。」と言って立ち上がり、佐藤を表に停めてあるパトカーまで連れて行った。

そして佐藤は二日前同様、警視庁東警察署に連行されていった。

警察署に着いた後、佐藤は取調室へ通されて事情を聞かれた。

疑われた佐藤だが、これまでの放火があった日は六件目を除いていずれも学校のクラブに参加していたという事が勤と理子に確認されて一旦解放された。

六件目の時は家で寝ていた為にアリバイは無かったが、少なくとも一件目から五件目はアリバイがあった為に解放されたのだ。

勤「ひどい目にあったな。」

呼ばれた勤が佐藤と共に警察署を離れてから言った。

佐藤「まったくだよ。君らには迷惑掛けたね、ゴメン。そしてありがとう。

君らのお陰で何とか助かったよ。」

佐藤が頭を下げる。

理子「でも今日の部活中に電話した時に知り合いの刑事さんは佐藤君の事を何も言ってなかったよね?」

疑問に思った理子が佐藤に尋ねる。

佐藤「きっと石田さんの方には情報がいってなかったんだよ。だから石田さんは何も知らなかった。

それに家に来たのも警察署で取り調べをやった刑事も火災班であって石田さんのいる殺人課の刑事じゃなかったしね。」

そう聞くと理子は納得した様だった。

その後佐藤は勤達と別れて帰路に着いた。

佐藤「でもこうなった以上、早いとこ犯人を捕まえないと…。

じゃないと俺が捕まるかも知れない。

何しろ俺も火災現場をうろついていたからまだ完全に疑いが晴れた訳でもないしな。」

そんな事を帰りの道中に考えながらも家に向かって佐藤は歩き続けた。

帰宅すると由実は佐藤に大丈夫だったかと声をかけてきた。

佐藤は警察署で聞かれた事などを全て話し、ひとまず安心だろうと答えた。

由実「でもここまで来たらもうこの一件は私が引き受けるからあんたは手を引きなさい。」

佐藤「やだね。」

由実「渉!」

佐藤「これは俺が解決する!ここまで来て引き下がれるか!!」

佐藤は強い口調で言った。

由実は佐藤の熱意に負け、程々にねと言って佐藤にこの一件を任せた。

夕食後、佐藤は放火犯を捕まえる為にずっと考えていた。

佐藤「一体どうすればいいんだ…。」

悩んでいた佐藤は五件目の火災現場の写真を出して見た。

「犯人の顔か名前が分かればな。」

そう言いながら佐藤は写真を見つめていた。

「まてよ…。」

佐藤はそこで少し考えた。

「そうだ!」

ある事を思い付いたのだ。

それは昨日の火災現場で殴り倒されていた被害者だ。

あの被害者も放火犯に殺害されかけたんなら犯人の顔を見ているかも知れないという事だ。

佐藤「何でこんな事に気づかなかったんだ。」

そこで佐藤は早速電話を取りだし、石田刑事に六件目の被害者の事情聴取の内容を聞いてみた。

だが、石田刑事からの返事は佐藤の期待を裏切る事だった。

石田「それがまだ事情聴取が出来ないんだ。何でも意識がまだ戻らないらしくて…。病院も不思議に思ってるよ。

もう意識が戻ってもいいはずなのにってね。」

佐藤はそう聞くと石田刑事に礼を述べて電話を切り、肩を落とした。

佐藤「そんな…。このままだと放火犯の手がかりが…。

それにせっかく俺が助けた命が…。」

佐藤はそう考えると頭を抱え込んでしまった。

しかし佐藤はもしかしたら意識を取り戻させる事が出来るかも知れないと思い、明日被害者の入院している病院に行ってみようと考えた。

翌日、佐藤は学校が終わるとすぐに花屋で花束を買うと被害者の入院している病院に向かった。

幸いにも被害者は佐藤の家の近所に住んでいた為に名前を知っていたので受付で病室を尋ねる事が出来た。

そして受付係員に聞いた所、被害者が入院している病室は三階の305号室だと分かった。

佐藤は305号室に行き、ドアをノックした。

コンコン

佐藤「失礼します。」

ガチャッ。

部屋は一人部屋で被害者のいるベッドが佐藤の目に真っ先に入ってきた。

部屋には被害者以外に誰もおらず、佐藤は今の内だと思って被害者のいるベッドまで行った。

そして霊視を始めた。

佐藤「これは…。やっぱりそうだ。彼の幽体がない!」

佐藤が思っていた通り、被害者の幽体は無かった。

と言うのも佐藤は彼の意識が戻らないのはもしかしたら幽体が無いのではと思ったからだ。

佐藤「一体何処にあるんだ、彼の幽体は。」

佐藤は困った。彼が目を覚ますには彼の幽体を彼の肉体に戻さなくてはならない。

しかし、その幽体の在りかが分からない事には佐藤でもどうにもならないからだ。

佐藤は困りながらも被害者の幽体を探してみる事にした。

その為に佐藤は持ってきた花束をベッドの側の花瓶に活けるとすぐに病室を出て病院を後にした。

自宅に帰宅した佐藤は自室に向かうと早速遠隔霊視を試みた。

佐藤「……いた、彼だ。彼の幽体だ!場所は…。」

場所を突き止めた所で佐藤は遠隔霊視を止め、家を飛び出し被害者の幽体がある所へ向かった。

そこは佐藤の家の近くにある、先日放火があった六件目の火災現場…つまり被害者本人の自宅だ。

幽体は佐藤の遠隔霊視の結果、被害者の家で放火があった際に本人が倒れていた所にある事が分かった。

現場はビニールシートが被せられていた上に見張りの警官がいたが、佐藤は気付かれない様にこっそり裏口へ回ってそこから中へ入った。

裏口の方には見張りがいなかったのは幸いだったが、内部は全焼している為に脆くなっていて危険だった。

それでも何とか二階に到着すると被害者が倒れていた所へ向かった。

そこを視るとやはり佐藤の遠隔霊視通りに彼の幽体が横たわっていた。

佐藤「長岡さん、起きてください。」

そう呼び掛けると被害者であり、この全焼した家の住人だった長岡の幽体は起き上がった。

長岡「う~ん、ここは?」

その後佐藤は長岡にこれまでの事を全て話した。

すると長岡は自分の体に戻る為に佐藤の指示に従うと言ったので佐藤は長岡の幽体を長岡の体が入院している病院へ導いた。

そして幽体は佐藤の導き通りに自分の体へ戻る事が出来た。

幽体が戻ると同時に長岡はようやく意識を取り戻した。

それを確認した佐藤は意識を取り戻した長岡に礼を言われた後に事件当時の事を詳しく聞いた。

あの日長岡はテレビを見ていたそうだが夕方前にチャイムを鳴らされたらしい。

そこで出てみると外には見た事もない一人の男が立っていたのだ。

長岡が誰かと尋ねるとその男は警察手帳を見せてきた。

そう、その男は警察官だったのだ。

佐藤「と言うことはあなたを殴り倒したのはその訪ねてきた刑事だったんですか!?」

佐藤が話の途中で驚いて長岡に尋ねる。

長岡「ええ、間違いありません。」

そう答えると長岡は話を続けた。

警察手帳を見せられた長岡は驚きながらも「何か用ですか?」と尋ねた。

するとその男は「私は警視庁東警察署の者です。近起こっている」連続放火事件の事でお話を伺いたいのですが。

と言ってきた。

長岡は「分かりました、どうぞお上がりください。」と言ってその男を上がらせた。

しかし長岡曰く、一階は散らかっていたのでその刑事を二階に来させたようだ。

そして例の長岡が倒れていた部屋に通し、「それで何でしょう?」と言おうとしたら突然頭に激痛が走り、そのまま倒れて気を失ってしまったらしい。

それ以降の事は知らないそうだから以上が長岡が知っている事件当日の出来事だ。

話を聞き終わった佐藤は礼を述べた。

長岡「私はあの刑事が恨めしい。絶対に許せない!」

佐藤「僕もですよ、長岡さん。まさか刑事が犯人だったなんて。僕もあなたを殴り倒し、家に放火したその刑事を許しません!」

佐藤はそこで長岡に犯人を捕まえてみせると約束し、例の訪ねてきた刑事の特徴を聞いてみた。

そして長岡の証言による犯人の刑事の特徴は以下の通りだ。

ー年齢は三十代前半。身長170㎝前後で服装は背広にネクタイ、そして髪は黒で鼻にほくろがある。ー

この特徴を聞いた佐藤はどこかでこんな感じの刑事を見た事があると思ったがどこで見たかは思い出せなかった。

その後佐藤は医者を呼んで長岡が意識を取り戻した事を伝えると長岡に礼を述べて病院を後にした。

その夜に佐藤はこの特徴の刑事をどこで見たのかを必死に思い出そうとしていた。しかし昼間の病院の時同様にやはり何も思い出せなかった。

佐藤「ダメだ、思い出せない。」

仕方なく佐藤は石田刑事から預かった

五件目の火災現場の写真をもう一度霊視することにした。

佐藤「こうなったら犯人の特徴をイメージしてこの現場写真に重ね合わせて視るしかない。

それで犯人の正確な顔が分かれば俺が刑事をどこで見たのかを思い出すかも知れないし。」

そう思いながら霊視しようとした所で佐藤の脳裏にある記憶が蘇った。

それは六件目の放火があった日の事である。

あの日の昼間に佐藤は五件目の火災現場を訪れた。

佐藤「確か現場付近で遠隔霊視して、

霊視結果を石田さんに伝えようと電話を出して…。」

佐藤はあの日の出来事を徐々に思い出していった。

佐藤「それで電話しようとしたら後ろから…。」

そこまで思い出すと佐藤はハッと気がついた。

佐藤「そうか、そうだったんだ…。ようやく思い出したぞ。俺がこの特徴と同じ刑事をどこで見たのかを。

アイツだったのか!」

犯人が分かった佐藤は石田刑事に伝えようとするも思い止まった。

佐藤「でもダメだ、証拠がない。長岡さんの証言があってもアイツを逮捕できるとは限らないし。」

そう考えた佐藤はある少々危険な方法を思い付いた。

この危険な方法を確実にするには石田刑事の力が必要な為、早速相談の電話をかけた。

ー長岡が入院している305号室ー

その日の夜、長岡が入院している病室を一人の男が訪ねてきた。

その男は手に拳銃を持っていて、長岡に迫った。

男「幸い俺の事は忘れている様だがいつ思い出すか分からないからやはり不安だ。だから死んでもらおう、

悪く思うな。」

そう言うと男はサイレンサー付きの拳銃の引き金を引こうとした。

しかし、その時突然ドアが開き、灯りが点いた。

驚いた男が振り返るとそこには石田刑事がいた。

石田「そこまでだ、斉藤慎二(さいとうしんじ)!」

斉藤「くっ…。な、なぜここに!?」

石田「渉くんのお蔭だ!」

そう言うと佐藤が石田刑事の後ろから出た。

佐藤「お久し振りですね、斉藤さん。僕の事覚えてますか?」

斉藤「お前は五件目の火災現場の近くにいた…。」

佐藤「その通りです。僕はあのときあなたの顔を見たから犯人があなただとわかったんです。」

斉藤「バカな、私が放火した所を見ない限りそんなはずは…。」

佐藤「長岡さんに教えてもらったんですよ。事件当日の出来事や犯人の特徴をね。」

斉藤「何っ!?じゃあ、あの日の出来事を忘れたと言うのは嘘だったのか!?」

佐藤「そうです。ちなみに長岡さんから聞いた犯人の特徴であなたが犯人だと分かったのは犯人の鼻にほくろがあると知ったからです。」

そう、佐藤が思い出したのは斉藤の鼻にもほくろがあったという事だ。

斉藤「それだけで私が犯人だと?バカな、それが証拠か?ふざけるな!」

佐藤「犯人があなただと断定出来たのはそれだけじゃありません。長岡さんによれば事件当日に自宅を訪れた刑事は警視庁東警察署の者だと言っていたそうなんです。だから犯人はその警察署の職員に絞られるわけです。」

石田「それに署の全職員の顔写真を見ても鼻にほくろがあるのはお前だけだったよ、斉藤。」

佐藤「それで犯人はあなただとわかった訳です。」

話を聞くと斉藤は観念した様で頭を抱え込んでいた。

か、急に立ち上がった。

そして「こうなったら、お前たちもこの男同様に殺してやる!」と叫びながら銃を向けてきた。

しかし突然、斉藤の体の動きが止まる。

斉藤「ど、どうなってるんだ!?」

石田「渉くん、これは?」

佐藤「これまで彼に殺害された人達の恨みの念による物です。僕がこうなる様に仕向けておきました。」

そうこうしていると斉藤の回りにこれまでの被害者達の霊が現れた。

そしてその霊達は一斉に斉藤に襲い掛かる。

斉藤「ひっ、や…やめ…ウワーッ!」

斉藤は絶叫しながら倒れた。

佐藤「気絶したようですね。では石田さん、彼等被害者達の霊は僕が浄化させるので斉藤さんの逮捕をお願いします。」

石田「分かった。」

その後佐藤は被害者の霊達を全て浄化させ、石田刑事は斉藤を逮捕した。

石田「斉藤刑事…いや、斉藤慎二!放火並びに殺人、更に並んで殺人未遂の現行犯で逮捕する!」

ガチャッ。

こうして犯人の斉藤慎二は石田刑事に逮捕され、警視庁東警察署へ連行されていった。

ちなみにその後の調べでこれまでの被害者達は長岡を除いて(五件目の火災現場の下に埋まっていた死体も含めて)全員斉藤の大学時代の同級生だということが判明した。

殺害した動機は大学時代、彼等に何か弱味を握られたのをきっかけにずっと金を要求されていたのでやむ無く犯行に及んだと言う事だ。

それから六件目の被害者の長岡を殴り倒してその家を放火したのは犯行を無差別な連続放火事件だと思わせるためにやったとの事だ。

以上がこの連続放火事件の真実である。

勤「ひでぇもんだよな!」

理子「ほんと!ますます許せないわよ!」

事件解決から数日後の部活で勤と理子が犯人の動機に対して腹を立てていた。

佐藤「まぁ、まぁ。」

勤「結局この犯人は無期懲役か。」

勤は犯人に言い渡された判決に納得がいかないようだ。

佐藤「仕方ないよ、裁判所で決められた事だからね。」

勤「でもこの犯人、刑事なのに犯罪を犯すなんてな!」

理子「ほんと!信じられないわよね。」

佐藤「それは俺も同感だよ。そうそう、刑事って言えば石田さんは大手柄で警視庁捜査一課に配属されたらしいよ。」

勤「えっ、マジで!?すげぇじゃんか!」

佐藤「ああ、本人も夢の様な話で驚いてるよ。俺ん家にも先日お礼に来たしな。今後自分に何か力になれるような事があれば何でも言ってくれとも言ってたよ。」

理子「じゃあ、何か事件の話とかも聞けるかもね!」

佐藤「まぁ、あまり言う事はないだろうけどね。」

この時佐藤は思ってもみなかった。

これから先、石田刑事にかなり世話になる事を。

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龍悟さん、怖い&コメントありがとうございます!面白いと言ってくださり光栄です。次回は推理系ではないですが読んでいただけると幸いです。楽しみに待っていて下さい!

面白くて一気に読んでしまいました!高校生探偵みたいな感じで、ワクワクしながら読まさせていただきました!
次回も期待してます!

翔さん、コメントありがとうございます!
気に入って頂けたようなので良かったです。今回の様な推理小説みたいな内容の話は今後も書いてみるつもりですので、
ミステリー系の話が好きでしたらぜひ読んでみて下さい。

推理小説みたいで面白かったです(^∇^)