従姉妹が体験した話。
当時、若い女性向けの雑誌で読者モデルをしていた従姉妹。顔立ちも綺麗であり、小さい頃からバレエを習っているということもあってか、立ち居振る舞いも淑やかだった。そのためか、そこそこの人気を誇っていたという。
そんな従姉妹にも悩みがあった。高校時代に付き合っていた元彼の存在だ。彼の浮気癖に嫌気が差して別れたのだが、最近になってしつこくよりを戻してほしいと言い寄ってくるのだ。
次第に彼の行動はエスカレートしていった。日に日に着信が多くなり、メールも続いた。
「思い込みの激しい人だったのよ。一度こうだと決めたら、周りが見えなくなるタイプでね……」
その日も仕事を終えて事務所を出ると、途端に着信が来た。見れば、やはり彼からである。疲れていたこともあり、イライラしていた従姉妹は不機嫌な調子で電話に出た。
「もしもし?」
「嗚呼、ユリ?俺だけど。ねー、今から会えない?駅前にいるんだけどさぁ、会おうよ。なあ」
「……ごめん。仕事で疲れたし明日も早いの。悪いけど、もう帰るね」
「いいじゃん、ちょっとくらい。そんなに時間は取らせないからさー。ちょっとだけ。ちょっとホテル行くだけだからさ、付き合ってよ」
「何言ってんの。あのね、もう私達は別れたでしょ。関係ないのよ。だからもう電話もメールもしてこないで」
「やり直そうよー。俺、やっぱりユリいないとダメなんだよー。な、頼むよ。話だけでも聞いてくれよ。な?な?」
「あーもう!うるさい!」
しばらくの押し問答の末、従姉妹は電話を切った。その日は彼から電話は掛かってこなかった。
それから数週間後。その日は久しぶりの休日で、友人らと女子会に行く予定だった。洒落たカフェでランチをしようということになり、車で行くことにした。
車庫に入り、車に乗り込む。そしてエンジンを掛けた瞬間、携帯に着信があった。知らない番号からだった。
スタッフからの急な連絡かもしれない。従姉妹は「もしもし」と電話に出た。相手は数秒黙った後、「久しぶり」と言った。彼だった。
「もう掛けてこないでって言ったはずよ」
「あのさー、今日、出掛けるの止めにしてくんない?」
「はあ?何で私が出掛けること知ってるの」
「愛してるからだよ。お前のことなら何でも知ってるよ。なあ、今日は出掛けたりしないでくれないか」
腕時計をチラリと見る。そろそろ出発しないと間に合わなくなりそうだ。苛立ちのあまり、ハンドルをトントンと指先で叩く。
「マジで付きまとうの止めてよね。それにあんたがどう言おうと、私は今から出掛けるから」
「出掛けないでよー。出掛けたら不幸になるよー。それでもいいのかよ」
「不幸って何よ。どうなるんだか言ってみなさいよ!!」
彼はピタリと黙った。従姉妹はふんと鼻を鳴らすと、電話を切り、車をバックさせて車庫から出ようとした。
ーーーガガガガガガガガッ!!
何かを乗り上げたらしく、凄まじい音がした
「、何よこれ!」
従姉妹は慌てて車を降りると、何事が起きたのかと車体を覗き込んだ。そして息を呑んだ。
そこには胴体をグチャリと踏み潰され、顔面から流血した彼がこちらを見ていた。
「ダカラ、イッタデショ」
従姉妹は苦々しげに煙草の煙を吐いた。
「……あいつ、私の車の下から電話してたのよ」
作者まめのすけ。-2