中編6
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殺戮兵器の見る夢は

例えば、蝸牛が進化し、知能を獲得し、文明を得たとする。

だが、蝸牛が進化した者達が創り上げる文化は、果たして我々人間の文化同一なものになるのであろうか?

例えば彼らは、愛を知らない。雌雄同体であるが故に。

その結果、人間とは全く異なる文化、宗教観、倫理観、そして心の在り方が出来上がるだろう。

では、ライオンが進化したらどうなるか。

鯨が進化したらどうなるか。

鷲が進化したらどうなるか。

爬虫類が進化したらどうなるか。

…例えば、鋼鉄の塊が、人格を持ち、知能を得たら、どうなるのか。

……………

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………

music:6

……

……………

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自律判断型敵地殲滅決戦兵器〈H-RR00304〉

それが僕のコードネーム。

僕の使命は、我が国に進行する敵国の兵士及び兵器を殲滅すること。

常に状況の変化が生じ続ける戦場では、時に柔軟な思考や判断の必要性が迫られる場合がある。

その場合を想定して僕という兵器は開発された。

僕の思考システムのは、人間の脳髄が組み込まれている。

その脳髄が行う判断をもって、僕の行動は決定される。

……………

……………

……………

1km先に、味方兵を狙うスナイパーを発見した。

僕の目は、人間とは比較にならない程の視界と識別能力を持つ。

1km程度なら、全く問題ない距離である。

僕は狙撃銃を抱え、敵国のスナイパーを狙撃する。

僕の腕は、数百kgの物体でも軽々と牽引できる。

人間の扱うスナイパーライフルとは比較にならないほどの銃器を軽々と扱える。

僕が打った銃弾…と言うには大口径の弾丸が、敵国のスナイパーに直撃する。

同時に、スナイパーが潜む建物が、跡形なく吹っ飛んだ。

スナイパーの肉体が四散した瞬間。

僕の思考にノイズが奔る。

『一発の銃弾が女性の頭を吹き飛ばす』

僕の思考システムに、その映像が一瞬浮かんだ。

……………

……………

……………

機械は夢を見ない。

だが、人の脳は別である。

人は眠っている間も、無意識に記憶を呼び覚まし思考を続けている、という。

そしてそれは、『夢』という現象で人の脳裏に発現すると言われている。

兵器廠で機能を停止する僕の思考システムに、とある映像が流れ込む。

おそらくこれは、僕に搭載された人の脳が見せるものなのだろう。

それは、人で例えるなら、夢と言われるものなのかもしれない。

『この戦争が終わったら、結婚しよう。』

『こんな時に何言ってるよ。』

『約束だよ。』

『…うん。そうだね。約束。』

僕と誰かが、会話をしている。

その声は優しく、その相手の事を気遣う様子が感じとれた。

いや。感じたのではなく、僕の音声判断システムが、そう分析した。

……………

……………

……………

戦場の最前線。

敵国の兵士が僕に近づく。

どうやら僕を破壊する気らしい。

僕は腕を振り回し、敵兵を薙ぎ払う。

僕の膂力は、人間の数十倍はある。

その力にかかれば、人間など、ただの肉塊とかす。

……………

……………

……………

僕はまた夢を見た。

『あなたは死なない。あなたはここにいて。あなたの命は、私が守るから。』

女性が僕に告げる。

先日と同じく、彼女の声は慈愛に満ち溢れている。

僕のシステムは、彼女の声をそう分析した。

直後。

彼女の声と姿を埋め尽くすように、場面が切り替わる。

『死ぬ間際のリコが僕に話しかける。』

『この戦場の敵兵を全て掃討せよ。』

彼女の声が、僕にそう指示をした。

同じ彼女の声であるはずなのに、その声には彼女の優しさは一切感じられない。まるで機械が声を発しているようだった。

夢の中で、僕は混乱した。

……………

……………

……………

僕は、軍用ヘリに搭載されているかのような大型の機銃を腕に抱え、敵兵を掃討する。

機銃に貫かれ、敵兵が倒れて行く。

敵兵の残りは半分。

僕は敵軍の殲滅を目指し、敵軍の塹壕に向かう。

敵兵の銃弾が僕に降り注ぐが、僕の体は頑強だ。人を簡単に貫く弾丸も、僕を貫くことはない。

塹壕に到着した僕は、敵兵に向かって機銃の先を向ける。

と、銃口の先で、身を寄せ合う二人の敵兵が、両方の手を挙げた。

降伏の合図だ。

よく見れば、その兵士は、若い男女だった。

その瞬間。

僕の脳裏に映像が浮かぶ。

『僕は…、リコと一緒に、生き残りたい。』

『だから、僕も行くよ。』

『君を死なせたくない。』

それは、僕の声だった。

リコ。

それが、彼女の名前なのか…。

リコ。

リコ。

リコ。

僕は、その名前を何度も呟きながら、目の前の若い兵士二人を撃ち殺した。

……………

……………

……………

『⚪︎⚪︎、気をつけてよ!』

『ああ。すまない、リコ。』

夢の中。

狭い塹壕で、二人の男女が寄り添い名前を呼び合っている。

女性はリコ。

男性は、…誰だ?

……………

……………

……………

激しい雨の中。

敵味方兵の銃弾が飛び交う戦場。

僕は敵の陣地に向かって進む。

実践投入前に幾度となく行われた戦場シミュレーションで学習した結果の通り、敵の配置を予測し、攻撃の方向を瞬時に判断し、敵を殺した。

敵兵が視界に入れば、反射的に殺した。

撃ち殺した。

踏み潰した。

殴り倒した。

爆撃した。

破壊した。

あれ?

おかしい。

以前にも、こんな事をしていた記憶がある。

なんだ、この記憶は。

いや。これは夢だ。

…夢?

夢は記憶。

じゃあ、これは、僕の記憶なのか。

僕?

僕ってなんだ?

僕は機械だ。

夢なんて見ない。

じゃあ、この記憶は。

僕とは。

僕の中にある脳髄が感じさせているものなのか?

つまり、今まで僕が僕と感じていたことは、僕の中の脳がそうさせていたのか?

僕は、一体、誰なんだ?

『ケンジ、気をつけてよ!』

『ああ。すなない、リコ。』

記憶の中のリコが、僕の名前を呼ぶ。

ケンジ?

それが、僕に名前?

僕の名前はケンジ。

それが僕の存在を表すものなのか?

じゃあ、僕は。

ケンジは人間だ。

ケンジという人間の脳髄が僕を動かしている。

じゃあ、僕は人間なのか?

そうだ。

僕は人間だ。

リコの恋人で。

徴兵制度で戦場に駆り出された人間だ。

そうだ。僕は、リコと結婚の約束をした。

戻らなきゃ。

ふと、僕は足元の水溜りに映し出された自分の姿を見る。

なんだこれは?

僕は自分の姿を見て、驚愕する。

僕の姿は、僕が覚えている人の姿とは、掛け離れたものとなっていた。

暗銀の鋼鉄と曲がりくねるパイプに包まれた身体。

大型の銃器と一体となった腕。

鋼鉄の重量を支える膨れ上がった両足。

蝸牛の触覚のように醜く前方に飛び出す四つの眼球。

人と言えるパーツは僅か数十gの脳髄だけ。

僕は、混乱の中で自覚する。

もう、僕は、人じゃない。

……………

……………

……………

自軍の基地。

僕は自軍の兵士を撃ち殺した。

僕の銃撃で、人がバラバラになる。

大丈夫。また修理すればいいんだ。

僕の腕が兵士を貫く。

大丈夫。頭部さえ残せば、また身体は作り直せばいいんだ。

「い、命だけは助けてくれー!」

人間から音声が発せられる。

命?

それはなんだっけ?

機械の僕には、理解できない。

僕の足は、声を張り上げる人間を、踏み潰す。

…………………

………………

……………

…………

………

……

music:1

自律判断型敵地殲滅決戦兵器〈H-RR00304〉起動実験報告書②

【当初平常に稼働していた〈H-RR00304〉であったが、6度目の実践使用の際、思考システムにノイズが発生】

【新兵器開発室はそのノイズは検体”ケンジ”の脳髄の影響であると分析。観察を試みる】

【ノイズは人の『夢』と同様のパターンを示す。同時にノイズの中に検体”リコ”の声に類似する反応があったと報告がある】

【十回目の出撃中に突然〈H-RR00304〉が暴走。自軍の基地内に突撃。新兵器開発室を破壊した後、機能停止。】

【開発室は暴走の原因を調査中である】

【なお、新たな検体”ヒロシ”の脳髄の摘出が完了されていおり、以降新検体を用いて新兵器の開発実験を継続とする予定】

例え機械が人格を有しても、我々と同一の人格を有しても、我々と同じ人格を持つとは限らない。

彼らには、愛はない。持てない。

命もない。

血も肉も、ない。

理解し合えるわけがないのだ。

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『人間が人間足りえるのは他者を殺さない・殺してはならないと理性が働いているからだ
他者を殺めた時点で人と呼んでも人間と呼んではいけない』と言う言葉があります。

人間を一人殺せば殺人者=犯罪者です。でも戦争で多数の人間を殺せば英雄とされる事があります。
戦争中は生き残る為、思考が停止してるので人間を殺した重圧に耐えられるのかも知れませんが
戦争が終わって生き残った時『他者を殺さない・殺してはならないと理性』が働きだして
人が人間に戻る時『人間を殺してしまった』重圧に耐えきれずPTSDに陥るんでしょうね。

技術が発達して人間と同様の人格を機械が持ち得ても『他者を殺さない・殺してはならないと言う
理性』がなければそれはどこまで行こうとも機械であり道具なのだと思います。
例えそれが『人間の脳髄を用いて構成されたアンドロイド』だとしてもです。

この問題が現実になる日が遠い将来起こるのかも知れませんね(ーー;

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