中編5
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ガラス瓶の金魚・4

此れは、僕が高校2年生の時の話だ。

ガラス瓶の金魚・3の続きです。

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・・・・・・・・・。

月曜日。

僕は鞄に、金魚の入ったガラス瓶を忍ばせて登校した。家に置いておくのが心配だったからだ。

頭痛も気怠さも止んでいなかったが、皆の前ではなんとか元気な素振りをして見せた。

もう飢え死にしても可笑しくないのに、金魚は元気だ。ただ、鱗が薄くなった。 体の色も薄まった気がする。

脳がやられてしまったのだろうか。

二人に相談することは、出来なかった。

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・・・・・・・・・。

火曜日。

此の日も金魚と一緒に登校した。

頭痛は少し収まったが、其の分、怠さが大幅にきつくなった。

授業中は居眠りばかりしていた。ピザポに何か言われるかと思ったが、何も言われなかった。

金魚の鱗が消えた。色も褪せて来ている気がする。

貰った時はあんなに鮮やかな朱色だったのに、妙にくすんでしまった。

餌をやらなかったから弱ってきたのだろうか。

今日も二人に相談は出来なかった。

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・・・・・・・・・。

水曜日。

今度は気怠さが薄くなり、頭痛が酷くなった。

頭の中で、誰かが脳味噌を切り刻んでいる錯覚を覚える。

授業では痛みで一度も寝なかったが、勉強が頭に入ってこないことに変わりはなかった。

金魚の目が閉じられたままになっていたが、どうやら、死んだのとは違うらしい。餓死はしないのだろうか。

鱗はもう無い。ぬるりとした肌らしき何かになっている。鰭は縮み、胴と一体化していた。

はっきり言える。此れは、もう金魚じゃない。

でも、もう捨てられない。こんな気味の悪い生物を愛しく思うなんて、自分でもどうかしてると思うけど。其れでも、捨てるなんて出来ない。

二人に相談はしなかった。

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木曜日。

今日は頭痛も怠さも収まらなかった。

何回か倒れそうになったが、なんとか耐えた。

金魚は今日も元気だ。金魚と言ってしまって良いのかは分からないけど、ともかく元気そうに泳いでいるのだから、良しとしよう。

守らなくては、この子が立派に育つまで。

そろそろ体も限界だが、明日を乗り切れば休み。

のり姉から誘いが来たが、今回は断らせてもらおう。ゆっくり休んで来週も頑張らなくては。

二人に相談はしない。

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・・・・・・・・・。

木曜日の放課後。

帰り際、薄塩に軽い調子で呼び止められた。

「よっ。」

「・・・何だ。」

僕を見遣り、薄塩が小さく溜め息を吐いて言う。

「コンソメ、もうそろそろ潮時だと思う。」

直感的に金魚のことだと分かった。

話してはいないのに、何時の間にバレたのか。

僕はあくまでしらを切った。

「・・・何のことだ。」

「猶予は与えたつもりだったんだけどな。ピザポが五月蝿いし、これ以上は無理だろ。」

ジリジリと近付いて来る薄塩。

僕は後退りしながら言った。

「何言ってるんだよ。意味が分からない。」

「・・・・・・そうだな。分かってたら、此方が困る。」

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shake

後ろから誰かに腕を捕まれる。

「コンちゃん、暴れるなよ。あんまり暴力は奮いたくないから。」

久々にピザポがキレていた。

腕を捻り上げられている時点でもう暴力だとも思えるのだが。

「薄塩。早くやっちゃって。」

「んー・・・。」

薄塩がガサガサと僕の鞄を探る。

其の内、金魚の入ったガラス瓶を探り当て、取り出した。

「うわ。気持ち悪っ。」

ふよふよと泳ぐ金魚を見て、薄塩が顔を歪めた。

殺されるのだろうか。其れとも、流しか何かに流されるのだろうか。

悲しい反面、自分で殺さずに済んだことにホッとしていた。

頭痛や怠さは治るだろうか。あの子の所為だったのだとしたら、此れはもう仕方無いことだ。

反抗はしなかった。体力も気力も、もう残っていなかったのだ。

ガラス瓶を持った薄塩が、教室から出て行く。

僕は静かに、其の後ろ姿を見送った。

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・・・・・・・・・。

薄塩が出て行った後も、ピザポは僕の腕を離さなかった。理由を聞くと、苦虫を噛み潰したような顔で無視された。まだ怒っているのだろうか。

ガラガラと音を立てて扉が開かれる。

薄塩が帰って来たらしい。

左手には瓶、そして、右手にも何か持っている。

「なん・・・・・・?!」

声を出して僅かに開いた口を、無理矢理抉じ開けられた。

薄塩がゆっくりと近付き、右手の物を僕の口の中に入れる。

ほんのりと塩気のある味がして、ぬるりと柔らかい感触が舌の上に広がった。ビクビクと口の中で動いている。

脳裏に、あの鱗が消えた金魚が浮かび上がった。

「ちょっとごめんね。」

ゴン、と頭に強い衝撃。

その拍子に、口内の其れを飲み込んでしまった。

「あ。」

喉の奥に引っ掛かりながら、金魚は僕の胃の中へと落ちていった。

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・・・・・・・・・。

吐き出そうとしたが、腕を捕まれていたので吐けない。

薄塩が言う。

「ごめんな。」

喉の奥に空気を送り込んで吐こうとしたら、今度は口を手で押さえられた。

僕は暫くの間、バタバタともがいていた。

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・・・・・・・・・。

「今更吐き出しても、もう死んでるよ。」

ピザポの一言で、我に帰った。

体の力が抜けて、床にへたり込む。

「薄塩も俺も、本当にこんなことしたくなかったんだよ。でも、そういう指示だったから。時間だってギリギリまで待ったんだよ。自分から捨てるなんて、端から思ってなかったけど。」

ごめんね、と付け足すようにピザポが言った。

そして、ペットボトル入りのスポーツドリンクを手渡してくる。

「でも、アレが胎児になってたら、きっとコンちゃんは狂ってた。」

僕が育てていたのは、そして、僕が飲み込んだ物は一体何だったのだろう。

僕は急に怖くなって、舌の上の味を忘れる為、ごくごくと甘酸っぱい味のスポーツドリンクを飲みほした。

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あの子の味は、金魚だったくせに、海水の味とよく似ていた。きっとあれは、瓶の中の水の味だったのだろう。

胎児を包む羊水は、海水と同じ成分なのだという。

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

お気遣い有り難う御座います。
お陰様で、下しもしなければ消化不良も起こしませんでした。
僕もそのまま出てきたらどうしようと考えていましたので、安心しました。尾籠な話で恐縮ですが。

普通に本人から聞いた話ならともかく、僕の知っている情報は、兄達から聞いた物で・・・。本人が他人に話したくないことなのかを、取り敢えずは確認したいと思います。

ビビりさんへ
コメントありがとうございます。

《試験管ベイビー》という言葉が、そう言えばありましたね。
真相は次回。宜しければ、お付き合いください。

リュミエールさんへ
コメントありがとうございます。

ええ。寧ろ、飲まないといけなかったので、飲まされたみたいです。

理由に関しては、次回書きます。
ですが、読むか否かはあくまでリュミエールさんの判断にお任せします。
仰る通り、全てを知ることだけが良いとは限りませんから。
なので、宜しければ、お付き合いください。

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

僕も飲み込んだ後、暫くおえってしてました。
あれが何だったかは、次回、あの人が説明します。

Σ(゜ω゜ノ)ノ
久々に絵文字を使いました。
ど、どんな反応をすれば良いのか・・・。
僕は少し怖かったりします。気遣いとかは分かるんですけど、やはり、何と言いますか・・・はい。
普段が結構何でも許してくれる感じなので・・・。
次の日とかにひたすら謝り倒してくるのも、正直豹変ぶりが少し怖いです。

お待ちしております。宜しければ、お付き合いください。

紫音さんへ
コメントありがとうございます。

鋭いコメント、有り難う御座います。
近いですよ。あまり多くは書けませんが。

説明回も、宜しければ、お付き合いください。
只し、ありきたりな話なので、自己責任で御願いしますが。

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

飲んでよかったというか、飲まなきゃ駄目な物だったようです。喉越しは最悪でしたが(笑)

斎藤も僕達に迷惑掛けるだけならまだいいんですけどね、其の内、全く関係ない人をどんどん厄介事に巻き込みそうで怖いんですよ。
僕達だって卒業後はケア出来ませんし・・・。

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金魚に似たナニカが原因で頭痛や怠さが来てるのに飲んでしまって大丈夫なのでしょうか? 気にはなりますが、全て解らないからこそ良いのかもしれないですね。

何?何?何だったんですか?えーっっ???
とりあえず、おえっとなっちゃいました。
しかし…相変わらず、お友達の二人はたくましく、心優しく…ですね。
今回のお話で、気づきました。私、キレたピザポさんが好きです。
キレたと言っても、いつも人を思いやった時ですし…
今回も『おぉっ、きたきた(〃'▽'〃)』とワクワクしちゃったし。紺野さんにしてみれば、ちょっと-_-#かもしれませんが…

次回、楽しみにしております。

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