中編5
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この年になっての引越しは結構辛い。

子供たちがようやく社会人になり、独立。

家賃の安価な市営の住宅に長年住んでいたのだが、子供たちが社会人になり扶養がなくなり、夫婦でそこそこ稼いでいると、市は追い出しにかかるのだ。

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一応、収入超過ということになる。決して収入が増えたわけではなくても、ただ扶養がなくなったという理由で、そういった住宅は明け渡さなくてはならなくなるのだ。本年度より、基準が厳しくなりやむなく、私達夫婦は、民間のアパートに引っ越してきた。

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はっきり言って、以前住んでいたところより、だんぜん狭いし、家賃も高い。

本当に、年配者にとって住み辛い、世知辛い世の中になったものだ。

ここに引っ越してきて、メリットが一つもないわけではない。

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アパート自体が自治会に入会していないので、ほとんど、ご近所付き合いをしなくて済むし、なんと言っても煩わしい、自治会役員をしなくて良い。気分的には、以前の市営住宅よりは楽だ。

以前の市営住宅に住んでいたころは、気の弱い者ばかりに役員を押し付けられて、私は何度、役員を押し付けられて、何かあるたびに責任を押し付けられたことか。

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もうあんなことはまっぴらごめんだ。それなりに、良い所も見つけないと、やってられない。

このアパートのお向かいには、大家さんの家がある。大家さんの家の庭には、畑があって、いつも大家のおじいちゃんが、朝から畑仕事をしていたりするのだ。

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家賃収入もあって、悠々自適に暮らしているなんて、羨ましい限りだ。

「おはようございます。」

私が挨拶をすると、畑仕事の手を休めて振り返り、「おはようございます。」と挨拶を返してくれた。

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正直、この時期は、畑に何かしらの肥料を入れるせいか、結構臭いがきつい。

恐らく、鶏糞や牛糞を使っているのだろう。

窓をあけると、結構臭ってくるので辛い。でも、大家さんなので、何も言えない。我慢するしかないのだ。

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3世帯あるご近所さんも、おそらくこの臭いがきついのか、窓は締め切って、良い季節にもかかわらず、エアコンをずっとつけている。

「ほんと、どうにかならないのかしら。」

私が愚痴を言うと、主人は

「仕方ないよ。まあ野菜に肥料をやるのも一時のものだ。ずっと臭いわけじゃないから。我慢するしかねえな。」

と言った。

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そうよね、ずっとこのままのわけないもの。

畑仕事はほとんど、おじいちゃんがやっていたのだが、最近になっておばあちゃんばかりが畑仕事をしている。

腰が結構曲がっていて、きつそうだ。そこまでして畑を作らなくてもいいのに。

私のような、無精者には全く理解に苦しむことだ。

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「ご精が出ますね。」

私が声をかけると、おばあちゃんはにっこりと笑って会釈をした。

「きついけどね、収穫が楽しみなんですよ。」

そうニコニコして答える。人が良さそうなおばあちゃんだ。

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「最近、おじいちゃんをお見かけしませんけど。お具合でも悪いんですか?」

私は何の気なしに、おばあちゃんに質問を投げかけた。

おばあちゃんは、黙ってニコニコしているだけだった。

あれ?答えたくないのかな。立ち入ったことを聞きすぎたのかも。

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私は早々にその場を会釈して去った。

その日から、来る日も来る日もおばあちゃんだけが畑仕事に出ている。

そして、肥料の臭いは一向に消えなかった。

それどころか、ますます妙な臭いがするようになり、やたらハエが増えた。

ちょっと油断して窓を開けると、大きな銀蝿が何匹も入ってくるのだ。

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「いったい何を畑に入れてるのかしらね。ちょっと我慢の限界よね。」

私は主人に八つ当たりをした。

そして、ある夜、仕事で帰りが遅くなり、あたりは真っ暗になっていた。

アパートの階段を上がろうとすると、お向かいの畑から、ざくざくと土を掘る音がするのだ。

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え?こんな遅くに畑仕事してるの?

ろくろく見えやしないじゃない。くわが、足にでも当たったら大怪我するのに。

暗闇であまり見えないけど、ざくざくとおばあちゃんが土を掘り、何かを植えている。

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「ついに、ボケちゃったのかしらね。こんな夜中に、畑仕事してるのよ、大家さん。」

私より、少し後に帰ってきた主人に言った。

「おお、俺も見たよ。最近ずっとだぜ?」

「そうなの?おじいちゃんも具合悪いみたいよね?最近ぜんぜん見かけないわ。入院でもされたのかしら?」

私たちは、ちょっと大家さんの家が心配になったのだ。

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お子さんたちは、たまには訪ねて来るのだろうか?

そんな様子も全くないような気がするし。

それから数ヵ月後のある日、うちの家のチャイムが鳴った。

インターホンのカメラを覗くと、大家のおばあちゃんがニコニコしながら立っていた。

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「こんにちは。」

大家さんは、ニコニコしながら、何か大きなカゴを抱えて立っていた。

「こんにちは、大家さん。」

「あのね、芋がたくさん成ったので、食べて。」

そう言いながらカゴを差し出してきたのだ。

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なんだか、見たこともないような、サツマイモより、さらに赤い芋だった。

「わー、ありがとうございます。なんか珍しいお芋ですね。サツマイモの一種ですかね?」

私はそう言いながら、手を出した。

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「おじいちゃんの芋なの。」

おばあちゃんは満面の笑みで答える。

「えっ?おじいちゃんの?でも、ずっと奥さんが畑で育ててましたよね?おじいちゃん、元気になったんですか?」

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私がそう言うと、おばあちゃんはまた満面の笑みで答える。

「いんや、おじいちゃんの芋。おじいちゃんがね、お芋になったの。」

私は意味がわからずに困惑していた。

「おじいちゃんがね、動かなくなったからね。私は、おじいちゃんをね、

切って植えてみたの。そうしたらね、おじいちゃん、お芋になったのよ。」

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私は、おばあちゃんの笑顔が怖くなった。

ヤバイ、完全にボケてる。

異常に赤い芋。

私は気味が悪くなった。

お礼を言い、早々にその芋を受け取り、ドアを閉めた。

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私は、そんな馬鹿な、と頭の中では否定しながらも、その芋を口にはできずに、そのままゴミ箱に捨ててしまった。

真夜中に鍬を振るい、何かを埋めていた。

まさかね。私はずっと否定し続けた。

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おじいちゃんを切って植えたの。

その言葉がずっと脳裏から離れなかったのは、今もずっと、あの畑から異様な臭いがし、蝿があいかわらず畑の周りを

ブンブンと飛んでいるせいだ。

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ある日、私は、いけないこととは思いつつも、おばあちゃんが留守中に庭の畑にに侵入し、持ってきた移植ごてで畑を掘り返してみた。すると中から白いものが出てきた。

大量の蛆だ。

私は悲鳴をあげそうになった。その蛆の間から白い何かが見える。

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shake

こ、これ・・・・。骨?

その下には、真紅の芋が埋まっていた。私は吐きそうになった。

あの話は本当だったんだ。

私は慌ててその場を去ろうとした。

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すると勝手口からおばあちゃんが出てきた。

「あれ、泥棒しなくとも、あげるのに。おじいちゃんの芋、

そんなに美味しかったかね?」

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おばあちゃんは、クシャっと笑った。

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