長編7
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幽霊タクシー

市街地を抜け、メイン道路の国道へ出るまでに真新しい歩道橋の掛かった小さな交差点がある。

深夜一時過ぎ、一台の黒いタクシーがその交差点の手前で停車した。

辺りは少し前から降り出した小雨がパラつき路面を濡らしている。歩道橋の下で白いコートを羽織った若い女性が、傘もささずに手を上げていたのだ。

この片側二車線の道路は新興住宅地と国道を結ぶ近道を目的として作られた道路で、その利便性の良さから昼夜問わずに交通量は多いが、まだ開通してから10年程しか経っていないそうだ。

だが、この道を造るにあたり夥しい数の墓石や、それを祀っていたのであろう社が撤去された事は、今の若い世代には余り知られていない。

交差点の側にはそれらを祀る為の供養塔が建てられており、3時間置きに塔の上段に備え付けられた鐘がここら一帯の平和と鎮魂の念を願って、数種類の柔らかなメロディーを奏でている。

しかしその想いも虚しく、この交差点では10年間に5人もの自殺者を出し、見通しが良いにもかかわらずなぜか頻繁に死亡事故が起こり、計20人以上もの死傷者を出している。ここが「魔の交差点」と呼ばれる由縁でもある。

この道20年のベテランドライバーはサイドブレーキを引くと、素早く運転席のドアを開けた。社訓により自らが車を降り、お客様が乗る後部座席のドアを開けて安全に中へと誘導するのが規則だ。

「いらっしゃいませお客様、今回は当社をご利用頂きありがとうございます!さてどちらまで向かいましょうか?」

「 ………… 」

返答が無いので、ルームミラーをお客様の顔に合わせ直して、もう一度ミラー越しに訪ねてみる。

「お客様、このまま真っ直ぐで宜しいでしょうか?」

「…はい、おねがいします」女性は弱々しい声でそう答えた。

車は国道をぶった切って人気の無い山道へと差し掛かった。ここから先は延々と山の景色だけが続き、隣町までは軽く30分以上はかかる。

「お客様、このまま真っ直ぐに進んでも宜しいでしょうか?」

「…はい 」

女性は真っ青を通り越して、真っ白な顔色をしており、濡れた髪の毛がベタリと首に巻き付いているが、女性はそれを拭おうともせずにただジッと窓の外を見つめている。

「……… 」

運転手の脳裏に、先日の嫌な記憶が蘇った。

休憩時に待合室で同僚が話していた内容。

「 深夜にあの交差点で乗せた客が隣町の澤田病院まで行ってくれって言うもんで山道走ってたらさ、トンネルの手前で急に降りたいって言い出してな…こんな何も無い所になんの用事かな?って思ってたら誰も触れてないドアが急にバン!と開いたんだ。そしたらその女、大笑いしながらガードレールを飛び越えて谷底に落ちて行っちまったんだよ!マジだよこの話!もちろん警察も呼んで調べて貰ったんだけど遺体も何も出て来ないし、ほんとに参ったよアレには…幽霊って本当にいるんだな!そういえばあのお客、真っ白なコートを羽織ってたな…」

同僚の言う交差点とは、正に先程この女性を拾ったあの交差点の事だ。女性の隣りには、乗車する時に脱いだ白いコートが置いてある。

ゴクリ

「ま、まさかな…」

運転手は女性の動向が気になり必要以上に幾度もミラーを伺ってしまう。すると不意に女性と目が合ってしまった。

「あ、あのう…」

「は、はい?」

「…澤田病院まで…おねがいします…」

来たーー!!恐らくその時運転手の心中は恐怖で溢れかえりとても生きた心地がしなかった筈だ。しかもあと数分も走れば、例のトンネルまでもが見えて来るという絶望的な状況。

額に浮き出した脂汗をハンカチで拭いながら運転手は言った。

「お、お客様、あそこは救急形態も行っておりませんし、この時間は多分診療時間外だと思うのですが…ほ、本当に澤田病院で宜しいんでしょうか?」

お客様の行き先に疑問を持つなど、普段は絶対に言わない様な事を口に出していた。余程、切羽詰まった状況だったのだろう。

長い沈黙の後、女性が口を開いた。

「ええとあの、澤田病院てなんの事でしょうか?私そんなこと一言も言ってませんけど…」

この女性は名を佳代子といい、二十歳にして管理職を任されている。実は昨日まで高熱にうなされて会社を休んでいた。

三日ぶりに出社してみると人には任せられない仕事や雑務が山積みになっていた。一人会社に残って片付けをしていたら見事に終電を逃してしまい、仕方なくあの交差点でタクシーを捕まえたのだ。

さっきからやたらとミラー越しに運転手と目が合う。気持ち悪い。いつか新聞記事で読んだ、酔っ払った女性客をタクシーで連れ回し人気の無い所で暴行し殺害。そして遺体をトランクに遺棄したまま車を山中に乗り捨てて、自らは崖から投身自殺するという残忍かつ悲惨な事件を思い出した。

そこで、佳代子ははたと気付く。その崖って確か、この先にあるトンネルの辺りじゃなかったかしら…

「お客様、顔色がお悪い様ですが、宜しければこの先で一旦休憩入れていかれますか?」

一見、運転手は明るい話し口調だが、ミラー越しに見えるその目は全く笑っていない。ゾクリと寒気がして下がっていた熱がまた上がってくるのを感じた。乗った時から気になっていた妙に線香臭いこの車内の空気も、佳代子を更に不安にさせる。

確かあのタクシーの社名って「坂元タクシー株式会社」だった。記憶が正しければあの事件の後、すぐに社名が「大葉タクシー株式会社」に変わった筈だ。もしこのタクシーが「坂元タクシー」だったら、間違い無くこの車は「幽霊タクシー」だという事になる。

佳代子は助手席の社名プレートを確認する為、前の座席に手をつき軽く身を乗り出した。

その瞬間「ひぃ!!」と運転手が軽い悲鳴を上げた。

明らかな挙動不審に不安感が増す。早く見たいが、助手席に座っている女性の肩が邪魔をして、中々プレートの字が確認出来ない。

オリンピアタクシー株式会社

ああ違う…

どうやら佳代子の考えすぎだったようだ。プレートには全く違う社名が記載されていた。しかもオリンピアと言えば、「親切、丁寧、真心接客、お客様の為ならどこにでも駆けつけます!」がモットーで、料金的にもこの界隈では一番良心的な会社だ。

佳代子はホッと胸を撫で下ろした。

良かった…不思議な事にさっきまでは挙動不審なただの暴漢幽霊にしか見えなかった運転手さんが、今見ると人の優しそうなおじさんに見える。そもそも落ち着いてよく考えて見たら、そんな「幽霊タクシー」なんて馬鹿げた物が存在する筈が無い。自分はなんて恥ずかしい事を考えていたのだろうかと思うと、顔が赤くなり、運転手さんに対して申し訳ない気持ちで一杯になった。

「ねえ運転手さん?」

ビクりと運転手の肩が上下する。

「あの、さっき運転手さんが言っていた澤田病院の事なんですけど…」

「あ、ああす、すいません!どうも私の聞き間違いだったようで、峠を越えましたらまた行き先をおっしゃって下さい!」

運転手さんは明らかに佳代子に対して怯えている様に見える。その姿を見て、助手席に座る女性は肩を揺すりながらクスクスと笑っている。

「分かりました…てか運転手さん、澤田病院に行かれるのはもしかしてお隣りのお客さんじゃないんですか?私よりも先に乗ってらしたんだし、先に澤田病院へ行って貰っても私は全然構いませんよ?」

「お、お客様…隣りのお客さんとは?」運転手は一度だけ助手席の方をチラリと見て、また顔を戻した。

「何言ってるんですか運転手さん、私が乗る前からずっと隣りに乗ってらっしゃるじゃないですか!からかわないで下さい!」

運転手はそれを聞いて明らかに同様している。あからさまにビクビクしながらルームミラーと助手席と前方とを順番に見回しながら、段々と顔中が汗でビッショリになってきた。

「は、はは、お客様こそ悪い冗談はよして下さいよ。別のお客様を同時に乗車させる訳が無いじゃないですか、いやーまいったなぁ…ははは…まいった、まいった…」

見ると、隣りに座る女性と運転手さんとの目線の高さが全く合っていない。

「えっ?運転手さんてもしかして隣りの女性が見えてないんですか?」

その時、またふふふ…と女性が笑った。イヤに甲高い声だ。これだけはっきりとした声と姿があるのに自分にしか見えてないとか嘘でしょ?佳代子は先週テレビで観た「ほん怖」を思い出して、少し怖くなってきた。

すると女性は自分の右手を持ち上げて、運転手さんの顔をサッと撫でる様な仕草をした。

「…ひぃ…!!」

キ、キキイイイイイイ!!!

車は軽く後輪をスピンさせながら、急停止した。

「もう!運転手さん危ないですよ!どうしたんですか?!」と、座席でしこたま頭を打ち付けた佳代子が抗議する。

「お、お客様が怖い事をおっしゃるからですよ!今車内には私とお客様しか乗っておりません、冗談は止めて下さい!」

佳代子の前に座る女性はあれ程の急停止だったにもかかわらず、どこを痛がる様子も無くまだジッと運転手さんを見つめている。

運転手さんには本当にこの人が見えてないのかしら?でも表情からしてふざけたり、嘘を言っている様にはとても見えない。

「冗談なんか言ってませんよ。今も隣りで運転手さんの顔をマジマジと見られてます。髪は肩までで、服装はえっと…あっ!私と同んなじ白いコートを来てらっしゃいます!」

「えっ!…白い…コートですか?!ひい!」

そう言えばこのタクシーに手を上げた時ワイパーが回っていたせいか、助手席の女性には全く気が付かなかった。運転手さんの言う通り、今思えば何故、先客が乗っているのに自分を乗せたのだろうかという疑問が残る。佳代子はもう一度助手席のその女性に視線を戻した。

するといつの間にか女性は身体を前に向けたまま、首だけがグルリと90度以上も曲がり、両座席の隙間から佳代子をジッと見つめていた。

初めて正面から見たその顔には一切の表情が無く、今まで見えていなかった左目部分は目玉が抜け落ちているのか…ぽっかりと黒い穴が開いていた…

続く

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ネタバレ注意

[壁]ω ◉`)続き、まだ?

て、展開がたまりません(汗)
ワクワクドキドキ

鏡水花氏、褒められてなんか早朝から気分がいいよサンクス!何を隠そう俺は褒められて伸びるタイプだからな…ひ…
ふむ、確かに言われてみればAD小林氏と龍のキャラは少し似ているかも知れない、今からもう一度人喰いを読み直してみるよ…ひひ…

ロビン様の、笑い有り悪寒有り涙有り、たまにちょいエロやグロがあり…
凄いなぁーッと感嘆してるんですよ(⌒▽⌒)
他の人には真似したくても出来ない、ロビン様ならでは…ですから(*^^*)♫

実は、人喰いの地を書き上げて、ふと思ったのですが…
ADの小林のキャラって、ロビン様の舎弟の龍くんとモロ被りじゃないですかΣ(-∀-ノ)ノ

一言…

何処かに消してしまってごめんなさい(T_T)

鏡水花氏、先日の長編作品「人喰いの地」に感化されて、俺もこれを書き出したのは内緒だ!…ひひ…そして残念ながらこの話のラストの行方が、まだ頭の中でゴチャゴチャになっている事も内緒だ…ひひ…

怖い…入れ忘れてました(>_<)

うわぁーッ(/□≦、) 

最初ほドキドキ!
途中はアハハ
そして…

続いちゃうんですね(>_<)