中編4
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幽霊タクシー 2

雨はもう止んでいる。

淀んだ雲の隙間から覗く月。

寝静まる山間の中腹で闇を切る様な叫び声が木霊した。

「ぎゃあああああ!!!」

慌ててタクシーを飛び出して来た佳代子は、最初に見えた高さ二メートル程の立て看板の裏に身を隠した。

「うわあああああ!!!」

少し遅れて運転席のドアがバン!と開き、タクシーの運転手が飛び出して来た。そして佳代子と同じように看板の裏へと身を隠した。

「はあ、はあ、お客さん!見たんですか?見たんですよね?し、白いコートの女!見たんですよね!」

運転手は佳代子の両腕を掴み、ガクガクと揺すりながらそう言った。酷く錯乱している様子だ。

「い、痛いです!離して下さい!見ました、見ました!目が取れた女の人が乗ってました!ちょっ!痛いですから、とにかくこの手を離して下さい!」

運転手は佳代子から手を離すと、自分の顔を両手で覆い、激しく擦り出した。

「さ、触られたんです!何かに!顔を撫でられたんです、アレは間違い無く人の手の平の感触でした!うわあ気持ち悪い!気持ち悪い!勘弁してくれー!!」

運転手は座り込み頭を抱えて唸り出す。

「へぇ、こんなおじさんでも、幽霊見たらこんなに怖がるんだ…」

佳代子はそんな運転手を見て、逆に少しだけ冷静さを取り戻していた。

落ち着いて、先程見たばかりの女性の顔を思い出す。

生気のない真っ白な顔、額から顎にまで伸びた血の筋。これ以上に無い程の醒めた冷やかな表情。

人生でこれだけ恐ろしい顔を今までに一度も見た事が無い。

「お、お客様!そう言えば今思い出しましたが、多分、ここでジッとしておれば大丈夫だと思います。そういえば会社の同僚がアレと同じ物を見たとか言っておりました!」

幾分、落ち着きを取り戻したのか運転手が看板の白い脚に身体を預けながらそう言った。

「 白いコートの女…同僚が乗せた時は突然車から飛び出して笑いながら崖の下へと消えて行ったそうです…話によればその時と場所も時間もほぼ同じだ。ほらあそこを見て下さい…」

運転手は数十メートル先に聳え立っている山を指差した。見ると、その山の腹にぽっかりと大きな穴が口を開けており、その中にはぼんやりとオレンジ色の明かりが灯っていた。

「ああ…トンネル…ですか?」

運転手は頷いた。

「ここです、この場所で間違い無い。恐らく我々はあの霊にここまで連れて来られたんだと思います。偶然にしても出来過ぎてる。まあこれは私の推測に過ぎませんが、あの女性はこの裏手の崖の下にでも落ちて亡くなられた方ではないでしょうかねぇ…」

「じゃ、じゃあもしかして、その発見されていない遺体を見つけて欲しいって事ですかね…私達に?」

「そういう事かも知れません。この後、彼女の霊体が崖から飛び降りたら、私達は直ぐに警察に通報して、この辺り一帯を隈なく捜索して貰う様、頼み込まねばなりません。それが彼女の願いであり、私達の責任でもあります!」

運転手さんが何を根拠にここまではっきりと言い切っているのか、佳代子には全く理解出来なかったのが正直な気持ちだが、この際、運転手のその推測とやらを信じる事にした。

「じゃ、じゃあ私達が危害を加えられる心配は無いって事ですか?そういう事ですよね?ね、ね?」

運転手は黙って頷いた。

数分が過ぎた、いやもしかすると数十分かも知れない。

佳代子と運転手はあれからお互いに言葉を交わす事も無く、白い立て看板の裏で静かにその時を待っていた。

道路上に放置したままのタクシーには今の所これといった異変は起きていない。あの女性がまだ車の中にいるのか、いないのか、それさえもここからでは陰になっていてよく分からない。

しかしいくら車から距離を取っているとはいえもし、万が一、車内から血だらけの女が飛び出して来て追いかけられたとするならば、到底逃げ切れる自信は無い。もうこれは運転手さんの言葉を信じて、祈るしか無い…

ガチャリ

と、その時タクシーの助手席のドアがゆっくりと開いた…

「……… 」

二人の視線の先、完全に開け放たれた黒いタクシーの助手席のドア。

そこから、のそりと姿を現した女は暫くジッとその場に突っ立っていたが、何かを思い出したかの様にゆっくりと左右を見渡し始めた。

幸いあの調子では、まだ自分達の存在はバレてはいない様だ。

満月の照明が彼女のその顔を照らす。

赤い。

それは車の中で見たあの真っ白な顔ではなく、真っ赤な液体で余す所無く染められた血塗れの顔だった。

そしてその血は首を伝い、白いコートの前の部分までをも、赤く侵食させている。

「ひっ!!!」

運転手が悲鳴を上げそうになり、慌てて佳代子が隣りの口を塞ぐ。

女が一瞬、こちらを見た様な気がしたが、またすぐにその顔は向こうを向いた。

「だ、ダメですよ運転手さん声出しちゃ!てか見えてるんですか?運転手さんにもあれが…?」

口を押さえられながらブンブンと頭を縦に振る運転手。

運転手の同僚の言葉を信じ、自分達に危害は無いと一度は安心した二人であったが、いざもう一度この女を目の前にするとそうは言っていられない。

とても生きた心地がしない。

しかも運転手に至っては初対面である。車の中よりも数段恐怖度を増したこの「赤いコートの女」を見て、佳代子は自分の心配よりも運転手の心配をせずには居られなかった。

「運転手さん大丈夫ですか?私達、まだ気付かれてないみたいですから絶対に声は出しちゃ駄目ですよ!早く飛び降りてくれる事を願いましょう…」

「…ひぃあ!!」

その時、女を見ていた運転手が悲鳴を上げた。つられて佳代子もその視線の先を見る。

うふふふふふ…ははははは!!!

「………!!!」

距離にして数十センチ。立て看板のすぐ向こう側に、身を震わせて笑う血だらけの女が立っていた。

後半へ続く

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ロ~ビたん♡
あと1か月と少しで、予告期限だねぇ(*^^*)

焦らしまくって、(ノ・∀・)ノ ≡ ┻━┻)`Д゚)ドゴッ ってならないといいね♪

またまたまた…(T^T)
ロビン様お得意の《じらし》ですか…
お願いしますよぉ。私も沙羅さんと数え出しますよ。

沙羅氏、仲間氏、ひひひい!!もう一週間も経つのか?!これは一種の呪いの可能性もあるが、幽霊タクシーの続きを書こうとすると、なぜかiPhoneの電源がすぐに落ちてしまうんだ!………すまん、嘘だ!
も、もう暫くお待ち下さい!…ひひ…

テヘッ(*´艸`*)
仲間さん、ソレ狙ってコメしたんですよん♪

今日、UPが無かったら・・・

いちにぃ~~~ち・・たりなぁぁぁ~~い。
って言うつもりです(小声)

そして、沙羅さんのコメントが笑えるんですが(笑)
四ツ谷怪談のお岩のような、皿でも割ったかのような……

うわぁ〜〜〜〜〜こぇ〜〜〜〜〜
これを、ドラマとか映画で鑑賞したい( ´∀`)
ロビンM子さん、出版して〜〜(笑)

ひと~つ・・ふたぁ~つ・・
指折り数えて明日で1週間ですねぇぇぇぇぇ~~

これはたかし氏お久しぶり!やあロビンミッシェル子だ。コメサンクス!すまん!いま暫く待っていてくれ!も、もうすぐ完成しそうなんだ…ひ…ぐうは!!

ロビンさん続きまだすか?ひひ

NAOKI先生、仕事に育児、毎日が充実しておられるようで羨ましい。お互い頑張れる時に頑張りましょう!俺も毎日14時間労働です。自営なので仕方ありませんが、ビンボー暇なしとはこの事だと…ひ…

apple氏、さらなる恐怖が展開される予定なんで期待してくれ!しかしもし期待外れだったら本当にすまない!…ぐう

はな氏、俺も自分で書きながらちび◯再生してしまっていたよ…ひひ…少し長めのCMだが気長に待っていてください…ひ…

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後半へ続く…
すみません、リアルタイムでちび○子ちゃんのナレーションでラスト再生され、明るい気持ちで終了する事ができました。
きっと同じ人いますよね…~ふふっ♪
ロビン様、めちゃくちゃ気になりますねー後半へ~!!

鏡水花氏、沙羅氏、ひひ…1年後というのは軽いブラックジョークだが、考えているラストまで繋げる事に苦戦しているのは事実だ!…ぐふ…頼む!一週間時間をくれ!…ひひ…
光道氏、怖いサンクス!そしてすまない!最近、題名が被ってしまう事が多々あるみたいだ…も、もしやこれはある種の「呪い」かも知れないな…ひ…

恐いですね
私も同じ題名で書いたのありますが
全然怖くない。
短いからかな?
少し、考えます。

ロビンM子さ~~~~~ん。
それは、あんまりですぅ~~!!

続きは、1日後ですよね?ねっ!?

<(ll゚◇゚ll)>!!!

クライマックスで…

続きは1年後とは……(((;゚д゚;)))