【この話はアワードを受賞したロビンM太郎comに贈ります。 興味のない方はスルーしてください。】
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タクシーが乗り捨てられて、すでに、2ヶ月が経とうとしていた。
私は、澤田病院へ行かなくてはならないのだ。
それなのに、私の姿に恐れをなしたタクシードライバーは、車を放置したまま、どこかへ行ってしまった。
しかも、同乗させた女と共に。
まったくもって、男というものは、どうしようもない生き物である。
私が、付き合った男もそうであった。
どうしようもない、女ったらし。
でも、私はそれを承知の上で彼の全てが好きだった。
文豪気取りの太宰治かぶれ。
いくら応募しても、一文にもならない小説を書き続け、終いには人生まで太宰の真似をする。
彼は、この先の宿で、別の女と心中騒ぎを起こしたのだ。
女は死んだが、彼にはまだ息があった。
私は彼が収容された病院への道を急ぐあまり、このトンネルの手前で谷底へ落ちてしまったのだ。
車は大破した。これでは、澤田病院まで行けないではないか。
こんなところでは、タクシーがつかまるはずもなく。
仕方なく、私は道を引き返し、あの交差点まで行きタクシーを捕まえる。
だけど、何度タクシーに乗っても、このトンネルの向こうの澤田病院へは行けない。
このトンネルに差し掛かると、私は何故か、タクシーを降ろされてしまうのだ。
ドアが勝手に開き、私の体はガードレールを乗り越え、谷底へ真っ逆さま。
もしかしたら、私は、もう澤田病院へは行けないのかもしれない。
死。
薄々とはわかっていたけど、認めたくない。
せめて、彼の安否だけ知りたい。
お願い、私を彼に合わせて。
望みは今、私をタクシーに置いたまま逃げてしまった、あなただけなの。
お願い、私を澤田病院へ、連れてって!
作者よもつひらさか
〜ロビンM太郎comに捧ぐ〜