【呪われた血】①-2016年1月下旬

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【呪われた血】①-2016年1月下旬

エピローグ

2016年1月下旬

古びたアパートの一室。

その薄暗い部屋の中に、ソファに座りスマフォをいじる男が一人いた。

スマホの小さな画面に向き合う男の顔は、小さなディスプレイの光で照らされてる。

特に何をするでも無かった。

ただの暇潰しだった。

怖いもの見たさで、恐怖系サイトを検索していただけだった。

お?

男の指が止まる。

興味深げなキーワードが目に入ったのだ。

【呪われた血】

『これを検索した者は、死ぬ』

『気が狂って、死ぬ』

そんなキーワードが目にとまる。

どうやらこれは、いわゆる、【検索してはいけない言葉】という類いのモノのようだ。

そして、とあるURLが表示される。

関連記事によると、この【呪われた血】を目にした者は、

『死ぬ』

らしい。

しかも、『気が狂って』…。

スマフォを操作する男の指が止まる。

…。

見たら死ぬ、か。

うーん、怖いなぁ。

でも、見てみたい気もする

けど、ちょっと怖い…。

どうしよう…。

…。

よし、見よう!

数瞬の躊躇いの後、男は、【呪われた血】にアクセスした。

【実況:検索してはいけない言葉を検索してみた】

URLの先。それは、有名な動画サイトに投稿されていた、一つの動画だった。

男は再生ボタンをクリックする。

スマフォの画面に映される動画の中で、この動画の実況者であるTシャツ姿の男性が現れ、陽気な口調で喋り出した。

『ハロー、皆さん。

今日は、とある[検索してはいけない言葉]を実際に検索してみようと思います。

その言葉とは、[呪われた血]!

この言葉、最近、外国で話題になったという噂なのですが…、

なんとなんと、この検索した先にあるモノを見たものは…、

死んでしまうんだそうです! 

いやー、怖いですね。

しかも、だだ死ぬんじゃなくて、気が狂って死んじゃうんだそうです!

そして、今日僕は、画面の向こう側の視聴者さん達の見ている前で、その[検索してはいけない言葉]を検索してみようかと思います!

その検索先にあるモノ…[呪われた血]を見て、

僕が無様に驚くのか、

それとも、「ふーんなんだそんな程度かぁ」とがっかりするのか、

まさかまさか、本当に気が狂って死んじゃうのか、

そんな僕の様子を面白おかしく見て欲しくて、この実況動画をあげました。

ではでは、そろそろ始めたいと思います。

画面の向こう側の視聴者さんは、僕の気が狂う、か〜もしれない様を、よ〜くご覧下さいませませ!

それでは、LETS検索START!』

動画内のTシャツ姿の実況者が手元にあるノートパソコンの操作を始める。

ノートパソコンの画面は死角でよく見えない。

それも演出の一つなのだろう。

男は興味深げに、画面に映る実況者の動向に注目する。 

画面の中では、実況者がキーボードを叩き検索を進めている。

『えーっと…、はい、出てきました、映されました! 

今、私の眼の前に表示されているのが、例の【呪われた血】ですか、ね?

…え、と…?

なんでしょうか、これ。

汚らしい、紙切れみたいな…

これ、何処かで見た事がある気がしますね…、

確か、大学の授業だったかな…、

うん、そうだ。でも、これ、歪んでて、

曲がりくねって

曲がりクネてって、てて

てててててててっててっててってて

てててててててってててっててててててててててててっててっててってててっててってっててっててっててっててっててっててててってっててって』

??

実況者の動きが停止する。

なんだ? 何が起こっている?

男は画面を凝視する。

その直後。

music:6

『あ、あああああああ、あああああ!!!』

うわ!

突然、実況者が叫び声を挙げる。

その奇妙な叫び声に、男は腰を浮かしソファーから転び落ちた。

それでも手放さなかったスマホの画面には、半狂乱になって床をのたうちまわる実況者の姿が映し出されていた。

『あ、がかかかっかがかふがぁぐばばばばっばば』

な、なんだ! 何が起こってるんだ?

『が、は、はははひひひひほひひ、うけけけうひひひふぐふぐふ』

そこで、男は気付いた。

実況者が、笑っている事に。

それは、正気も言葉も失った実況者の、笑い声だった。

画面の向こう側で、笑いながら床に這い蹲りビクリビクリのたうち回る実況者。

が、

突然、その動きがピタリと停止する。

何が起こった?

実況者の突然の静止に、男は画面を見つめる。

ゆっくりと立ち上がる実況者。

その目の焦点が、僅かながら落ち着いた。

実況者の顔が、こちらを向く。

実況者の瞳が、こちらを見つめる。 

明らかに、こちらを、見ている。

そして、

『み』

実況者は瞳孔を広げたまま、画面のこちら側に向かって叫び出した!

『見ちゃいけなかったんだ!

あれは、のろわれた、ち、だ。

歪んで、グネグネと曲がりくねってた。

それが、俺の頭の中に入ってきた!

掻き回すんだよ!ぐちゃぐちゃと叩き混ぜながら、囁くんだよ! 叫ぶんだよ!

呪われろとか、滅びろとか、何度もなんどもナンドモナンドモ叫ぶんダあよ。

あれは、アレは、みちゃいけなかったんだよ。みちゃいけな、みちゃ…ミチャ、みちゃみちゃ…みちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃみちゃややっやっやっやや』

実況者の声は再び狂気に飲み込まれる。

『そおそおそそだ、のろわれたちなんだよ。ちなんだあよ。

ちだちだちだちだちだちちちいちちいちちちちぃぃぃぃチチチチチチチチチチチチチィイイイイイイイイイイイイイ!!!!!』

画面の向こう側で、実況者が叫び狂っている。

「どうしちゃったんだよ! なんなんだよ、これ!」

画面のこちら側の男は動揺する。

だが、男の動揺に関係なく、

『いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいイィぃぃぃぃいイィイィいいぃぃぃぃ…』

実況者は口から大量の涎と唾液を飛び散らせながら、意味不明な言葉を叫ぶだけだった。 

だがその時。

ミシリ…

奇妙な音と共に。実況者の動きが再びピタリと停止する。

ミシリ…

ミキリ…

不自然な程に直立した姿勢のままで、実況者の頭が、ガクンと真上を向く。

それも、有り得ない程の角度で、首の構造を無視する程に。

真上を向いたまま、

ゴキリ。

首か、顎か、何かの骨が砕けた音がした。

実況者の口が大きく。

有り得ない程にあんぐりと、大口を開ける。

その開いた口のサイズは、ゆうに50㎝は開いている。

口の構造上、有り得ないサイズである。

それは、開いている、というよりも、

『何か』に無理矢理にこじ開けられている、

という表現がしっくりする。

そんな、人外な、変貌だった。

ピンと直立した姿勢のままで、

四肢は力無く垂れ下がり、

無理矢理開かれた口は、ラッパを連想させる。

それは既に、人の姿を超えている『何か』だった。

ドロリ。

鼻と思わしき部位から、一筋の血が流れ出た。

それは、血というには、黒く濁り過ぎていた。

ドロリ。ドロリ。

実況者の潰れた耳から眼から、巨大な穴と化した口から、全身の穴という穴から、その血のような液体が溢れ噴き出す。

その姿は、際限無く血液を湧き上がらせる鮮血の坩堝だった。

ビシャリ!

スマホの画面が鮮血に染まる。

画面の向こう側のカメラに、大量の血液が降り掛かったのだ。

「ヒィ!」

直接、自身に血液が触れたわけではない

だが、汚らわしいモノに触れてしまったかのように、男はスマホを投げ出す。

【呪われた血】

画面の向こう側の鮮血に触れた瞬間、その言葉が男の頭に浮んでいた。

落ち着け、落ち着くんだ。

これは、画面の向こう側の出来事だ。

ビビる必要なんて、ない!

なんとか冷静さを取り戻した男は、摘み上げるようにスマホを持ち上げ、もう一画面に眼を向ける。

血に濡れる画面の向こう側には、金管楽器のような姿に成り果てた血塗れの実況者の姿が映っていた。

ピクリとも動かない。

生きているのか、死んでいるのか…。

画面に動きは無く、時間だけ経過している。

なんなんだ、この動画は!

まさか、ヤラセ? CG?

だが、たかが投稿動画で、こんな手の込んだCGを作るか?

…もう見るのはやめよう。

気持ち悪さに駆られ、男は、スマフォを操作し、接続を切り、画面を消す。

消す、

消す…

き、

消えない!

接続が切れない!

スマフォの画面には、鮮血に染まり、豹変した血塗れの実況者が映り続けている。

混乱した男は、スマフォの電源ボタンをカチカチと連打する。

だが、操作を受け付けない。

なんで消えないんだ!

どうなっているんだ!

…?

待てよ?

この動画が、CGではなく、ヤラセでもなく、

実際に、この実況者が死んでいるとしたら…、

一 体 誰 が 、 こ の 動 画 を ア ッ プ し た ん だ ?

男の背筋に、ゾクリと怖気が奔る。

切れないスマフォ。再生を続ける真っ赤な画面。

実況者の顔面を掴み無理矢理に口をこじ開ける、『何か』の存在…。

ザワ…

左耳の辺りに、気配を感じる。

その『何か』の怖気を感じる。

男は動けない。

背後を振り向くことすらままならない。

誰かいる。

この部屋に、誰か、いる。

『何か』が、いる。

姿は見えない。

俺は、動画を見ているだけだった。

だが明らかに、俺の近くに『何か』がいる…。

男の脳裏に、言葉が浮かぶ。

【呪われた、血】

…。

その時だ。

チクリ。

男が頭を抱えた。

チクリ。

頭の奥底がチクチクした。

痒い。

痒い痒い。

痒い痒い痒い。

痒い痒い痒い痒い!

頭を抱えながら男は床に倒れ込む。

それは、猛烈な痒みだった。

頭の中で無数の小さな虫が這うような、不快な痒みがあった。

「な、なんだこれ!

き、気持ち悪い…、入ってくるな!

俺の中に入ってくるな!

やめろ! やめ…」

やがて痒みは痛さに変わり、更には激痛に変わった。

それは、立つ事すら出来ない痛みだった。

男は頭を抱えながら、床でのたうち回る。

「痛い痛い痛いよ、やだよ、俺の中から出て行ってよ。やだよ、嫌だよ。やだやだやだやだぁあやいややややぁ、あああああああああああ…」

男の声が止まった。

ピクリとも動かない。

そして数秒後。

ゆっくりと、立ち上がる。

その仕草は、先程の実況者によく似ていた。

男は、直立のまま、自身の体を両腕でギュウと掻き抱く。

ゆっくりと、ギュウギュウと、抱き締める。

その人外の膂力は、自身の体を破壊しても止まらない。

腕の骨が砕けようとも、

肋骨が粉砕しようとも、

内臓が潰れようとも、

背骨が捩子切られようとも、

口から血液が飛沫となって絞り出そうとも、

抱き締める。

ギュウギュウと、抱き締め続ける。

痛みは、あった。死ぬ程痛かった。骨砕け内臓潰れる痛み。

だが、叫べない。

『何か』が男の身体を支配している。

それはおそらく【呪われた血】

際限無く続く痛みの中で、男は思う。

今俺は、動画に映っていた実況者と同じ運命を辿っている。

これじゃ、まるで、感…せ、ん。

全ては【呪われた血】によるもの。

今なら解る。

【呪われた血】が、何なのか。

…見るんじゃなかった。

そんな後悔とは裏腹に、

「ク…」

自らの身体を絞め続ける男は、掠れた言葉を漏らす。

「クヒ」

それは、小さな声だった

「くひくひくひひひひひほはひはひはひははっははひひ」

それは笑い声だった。

目にした者を狂い殺す『何か』の、喜びの、声だった。

music:2

アパートの大家が異常に気付き、部屋の中に踏み込んだ時。

自らの身体を自身の腕の膂力で捻らせ続けた男が、

「グフひひひひひひひひひひひひひひひっひっひ」

狂気に彩られた笑い声を挙げていた。

その姿はまるで、何かの機械の部品の様な…、螺子の形に似ていた。

数時間後。

ボストン・マサチューセッツ総合病院にて、多数の人間の死亡が確認された。

検死に立ち会った医師が喚き出す。

「Oh my God!  Oh my God!」

(なんてことだ!!)

「in full strength…Brains is mixer!mixer!!」

(みんな、みんな、脳味噌がグチャグチャになってる!!)

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