【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編5
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ねこ

彼女のいない俺は、今日も朝から晩まで仕事に明け暮れている。

バレンタインデー。

なんですかそれは、日本語ですか?

「店長ってイケメンだよね」

「店長なんで奥さんいないんですか?モテそうなのにー」

はいはい、それじゃあ君が俺の彼女になってくれよ。お客さんのそんな社交染みた辞令はもう聞き飽きました。

今日も店のシャッターを下ろしたのは午前4時で、6時間後にはまた店に来て、ランチ用の仕込みを始めなければならない。

休みも月に一度あるかないかだ。まあ自営だからしょうがないと言えばしょうがない事なんだけど、考えてみたら、仕事して寝るだけのこんな生活をもう5年以上も続けている。

「はあ」

ため息が出た。

こんな仕事漬けの生活をしていると出会いなんてものはないし、恋に費やす気力も湧いてこない。

もし彼女が出来たとしても、構ってやれる時間もないこんな俺なんて、すぐにフラれてしまうことだろう。

ふふふ

いつものように、コンビニで寝る前の夜食を買い込んで、トボトボと自宅マンションに向かって歩いていると、仲の良さそうなラブラブカップルとすれ違った。

彼女は彼の腕にしがみ付き、キラキラした満面の笑みで実に幸せそうだった。あー羨ましい…

やっぱり羨ましい。

俺も恋をしたい。

帰ったら「おかえりー♡」って、寝間着姿の彼女に迎えられて、チュッチュしたり、ギュッギュしたり、ヨシヨシとかしたい。

空を見上げると綺麗な満月。

「はあ」

無意識に、またため息が漏れた。

ああ、もう何もかも嫌んなってきたな。

にゃおん

その時、側のコインパーキングの中から猫の鳴き声がした。

にゃーん

まただ。無類の猫好きの俺は猫を探した。

ちっちっちっちっ!と舌を鳴らしながら猫を呼ぶが、姿が見えない。

にゃおん

どうやら猫は駐車中のアルファードの下に隠れているようだ。この寒空の下、野良とは可哀想に。良かったら俺の家族にならない?

「ほらほら出ておいでー」

地面に手を突いて車体の下を覗きこむ。

だがそこには、猫ではなく人間の女がいた。

女は20センチにも満たないこの狭い空間で腹這いになり、俺を警戒しているかのような微妙な表情を浮かべている。

にゃーん

女が大きな口を開けて鳴いた。

「こ、これは失礼しました。まさかこんな所に人が入っているとは思わなかったもので、どうもお騒がせしました!」

俺は首だけで丁寧にお辞儀をして、素早く立ち上がると、足早に駐車場から離れた。

「ふう、やっべーな!完全に頭がいっちゃってる人だなアレは!」

俺は何も見なかったと自分に言い聞かせながら、家路を急いだ。

にゃーん

幻聴か?

横断歩道を渡りきった所で、また猫(女)の鳴き声が聞こえた。

そろりと振り向くと、反対側の歩道にあの女が座っていた。

いや、座っているのではない、立っている。

両腕だけで立っている。

腹から下部分が欠如した異様な姿。

目の前を車やバイクが行き交う中、女の目はジッと俺を捕らえて離さない。

まるであの有名な都市伝説「テケテケ」を思わせる不気味なその佇まいに、俺も女から目が離せずにいた。

歩道の信号が青に変わった。

にゃーん

女がまた鳴いた。

すると2本の腕を器用に動かしながら、テケテケと横断歩道を渡りはじめた。

にゃーん

ああ、やっぱり人間じゃなかったんですねアナタ。分かります。

確信した瞬間、俺は何かに背中を弾かれたように走りだした。

もう無我夢中で走った。

100メートルを9秒台で走った。

ペタペタと近づいて来ては離れていく足、いや、手音。すごい速さだ。

どこへ逃げたらいいのかも分からずに、ただただひたすら、アイツから逃げきる為に走った。

歩道橋へ駆け上がる際、一度だけ後ろを振り返ってみたら、アイツの姿は消えていた。

結局、俺は一睡もする事なくその日のランチ営業を終えた。

昨夜のアレは何だったのか?夢か?

いやそんな筈ない、俺寝てないし!てか、一睡もしていないし!

にゃーん

未だに耳にこびりついているあの鳴き声を思い出すと、身が震える。

こんな話を誰かにした所で信じては貰えないだろう、少し休んだら?って言われるだけに決まっている。

俺は、ディナータイムまでの僅かな休憩時間を使い、女を見たあのコインパーキングまで歩いていく事にした。

さすがに、こんな真昼間から幽霊が出る事もあるまいて。

昨日とまっていたアルファードは、まだ同じ場所にとまっていた。

「うわっ、駐車料金すごいだろうな!」と、いらぬ心配をしながら膝をつき、おそるおそる車体の下を覗きこんだ。

「んっ?なんだあれは?」

後輪タイヤの近くに、長さ20センチ程の黒っぽい木の板らしき物が転がっていた。

手を突っ込み、それを引き出す。

「ほう、なるほど、位牌ですね」

それは、艶艶としていて、大した汚れも傷もない、誰の物とも分からない位牌だった。見た事もない難しい漢字が縦につらつらと書かれてある。

「さーて、こんなもん拾っちまってどうしたもんかな?これってどこに持って行きゃいいんだろう?」

無い頭でそんな事を考えていると、いきなり何者かに足首を強く掴まれた。

見ると、車体の下から白い手が伸びていて、俺の右足首を掴んでいる。

プツプツと全身に鳥肌が立った。

こんな昼間っから出るかな普通?勘弁して下さいよ。

すると、やっぱりといった感じで、女の顔がゆっくりと車の下から出てきた。

「これ、君の?」

にゃーん

「君のなんでしょ?これどうしたらいいのかな?」

にゃーん

まったく会話にならない。

「俺もこう見えて忙しいからさ、どうしたらいいかだけ教えてくんないかな?」

にゃーん

ダメだこいつ。

よし、こうなったら違う角度から攻めてみようか。

これは俺の持論だが、幽霊というモノは向かって来られると怖いが、逆にこっちからグイグイ入ってやると、案外、簡単に退散してくれるのではないか。

「てか、君って良く見ると可愛い顔してるよね。うんうん可愛い可愛い!ねえ、良かったら俺の彼女になってくんないかな?」

にゃ…

んっ?

にゃ…

にゃ…

明らかに女の様子が変わった。

にゃ…

にゃ…

真っ白だった顔が、ほんのりとしたピンク色に変わってきている。

「見れば見るほど可愛いね君。もっと良く俺に顔を見せてよ!」

そう言って手を伸ばし、屈みこもうとした瞬間、女はカッ!と目を見開き、物凄いスピードで車の下に引っ込んでしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

俺はすぐさま後を追って、車体の下を覗きこんだが、残念ながらもうそこにテケ子の姿はなかった。

にゃーん

少ししてから、遠くの方で微かな猫の鳴き声がした。

気づけば握りしめていた筈の位牌は跡形もなく消えており、それ以来、もう二度とテケ子が俺の前に姿を現せる事はなかった。

結果的にというか、一見、俺の作戦勝ちのようにも見えるが、幽霊にすらモテない俺って一体何なの?

テケ子。

どうか、お元気で。

マジでちょっと可愛いかったよ。

そして、さようなら。

テケ子。

【了】

Concrete
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皆様、この度は「テケ子、秘密のデート」に怖いとコメントをつけて頂きましてありがとうございますψ(`∇´)ψ

もう一度テケ子に会いたい!という嬉しいお声がありましたので、続編などを検討中で御座います候。

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あ、コラコラ私の決め台詞を!
でもテケ子可愛かったです。
にゃ~ん。

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店長、イケメンなんですか?

リレー期待してますね。

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ウォーミングアップに余念がないお兄様。
さすがです。
アンカーのやる気を伺わせる作品でしたね。
励まされるたびに、よもや「真綿で首を締められる」ような お気持ちになっておられるのでは?
どんな修羅場も乗り越えてきたお兄様です。
今回も、海越え山超え谷間超え・・・素晴らしい走りを期待しております。

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