短編2
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いじめられっこ

 堀田文哉のいじめは度を越していると思う。一番後ろの席で、文哉とその取り巻きはある男子生徒を揶揄って遊んでいる。私はなるべく顔を動かさないように、目だけでそれを見た。もう日常茶飯事と言ってもいい程に毎日、飽きることもなくその男子生徒へのいじめは続いていた。誰も何も言わない。言えば、自分がいじめの対象になることは歴然なのである。だからもう見て見ぬふりだ。空気と同じだ。そこにあるだけ。堀田も私たちが何かしない限りは、此方に干渉してこない。

 いじめられている男の名前が何故か思い出せなかった。その男も私たちに関わろうとはしなかった。もうそんな気力がないのだろう。それなのに、毎日学校に来る。記憶の断片を漁り、その男が国公立の大学を目指していることを思い出す。卒業までに持つだろうか。

 だが、そんなことこのクラスの多数の人間にとっては些事だ。その男の感情だとか人格だとか、目標だとかなど関係ない。その男が今は堀田達の標的で、それ以外の者が安全であればいい。皆、そう思っている。

 この前は男の祖母だか祖父だかの墓を掘り越して、遺骨を床にばら撒いていた。なにが面白いのか、堀田はその男が必死になって骨の粉を掻き集める姿を見て、笑っていた。男の妹を輪姦した様子をビデオに撮り、クラスで上映したこともあった。

 男の小指の爪はない。歯も数本抜かれている。男の愛犬は落とし物ボックスに抛りこまれている。

 今だって、髪の毛をバリカンで刈られている。堀田達は楽しそうだ。

 誰も関与しない。しかし、皆、私のようにそれを密かに見ているのだ。皆の視線は関与を示さないようで、密かに、静かに、それを見ているのだ。

 男の髪の毛がばっさりと地面に落ちた。男は泣いて、何か呟いている。

 そんな滑稽な姿に、私は思わず笑みを浮かべた。

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