中編3
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おまじない

僕が小学五年生だった頃、ある日、一人の転校生がやって来た。

 長い黒髪を後ろに束ねた色白のとても可愛い女の子で、都会から来たらしい。

 緊張していたその子は、たどたどしく自己紹介をして、僕の隣の席に着いた。

 多くを語らない謎めいた美少女に、僕たちの興味は深まった。

 当時、僕たちの担任は女の先生だった。

 その先生は僕らの先輩にあたる。

 先生の話では、その子の両親は元々ここの生まれで、この学校の卒業生でもあったそうだ。

 父親が実家の家業を継ぐだか何だか、よくは知らないが、娘を連れて地元へ戻って来たらしい。

 その子の母親と先生が同級生だったので、詳しかった。

 僕たち田舎者には行ったことすらないような都会から来た美少女に、僕らは色めき立った。

 しかし、その子と僕たちには大きな隔たりがあった。

 そう、方言である。

 都会で生まれ育った子には、僕たちの標準語が理解できないらしく、意志疎通が上手くいかなかった。

 積極的にコミュニケーションを図ろうとしていた僕たちも、いつしか言葉を交わすことも少なくなってしまった。

 このままではいけないと女子数人の有志が、先生に相談してみた所、『友達のおまじない』を教えてくれた。

 やり方は至ってシンプルな物だった。

 正方形の白紙の真ん中に仲良くなりたい子の名前を赤い絵の具で書き、周りの余白に自分の名前を黒い絵の具で書いて、四つ折にしたら、黒い封筒に入れてしっかりと封をする。

 それを仲良くなりたい子の机の中にしまっておく。

 但し、それが完成するまで、絶対にその子に知られてはいけない。

 確か、そんな感じだったと思う。

 早速、友達になりたい子たちを集めて、おまじないをすることにした。

 勿論、その子には内緒だ。

 集まった結果、クラス全員が教室に残っていた。

 その子は美少女だったから、男の子も仲良くなりたかったらしい。

 まぁ、僕もだけど。

 おまじないの準備を先生も手伝ってくれて、皆で名前を書いた。

 その子と仲良くなりたい気持ちがこもった素晴らしい出来だったと、今でも思っている。

 翌日、皆が早起きして、その子が登校するのを先に来て待っていた。

 皆、期待でワクワクしていたから、いつもよりニコニコしていた。

 その子が登校してきて、机の中の封筒に気がついて、封筒を開ける。

 その時、その子が喜ぶ顔を想像して、全員が注目していた。

 「キャアアアァァァ‼!!」

 中の物を見るなり、その子は悲鳴を上げて、紙を放り投げると、そのまま走って教室を出ていってしまった。

 クラス中が茫然としていたのを今でも覚えている。

 その日から、その子が学校に来ることはなかった。

 何度か女子数人がその子の家を訪ねたらしいが、その子が顔を出してくれることもなかった。

 数日後、その子が自殺したと先生の口から伝えられた。

 皆が泣いた。

 その子の葬儀の日、皆で最期の見送りに行った時、その子の母親が半狂乱で僕たちを責めた。

 「娘をクラス全員でいじめていた」

 とんでもない言いがかりに、学級委員の子が泣きながら反論した。

 クラス全員、その子と仲良くなりたかったこと、方言のせいで上手くいかなかったこと、仲良くなりたい一心で『友達のおまじない』までしていたこと。

 それを聞いて、母親は白目を向いてぶっ倒れた。

 マンガみたいだった。

 母親は大人たちに運ばれて行った。

 気味が悪くなった僕たちは、先生の所へ急いで向かい、事の次第を話した。

 そして、訊いたんだ。

 あのおまじないのことを。

 すると、先生はニヤリと薄ら笑いながら言った。

 「あれは私が親友だった子にされた『友絶ちのお呪い』よ」

Concrete
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