中編5
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失敗作 完全版(1) 序章

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僕はある日不思議な夢を見た。

僕は一面真っ白な空間の中に居て、目の前に光の塊がいた。

その光が僕に話しかけてくる。

「子供達よ。私はお前たちを甘やかしすぎていたようだ。お前たちは失敗作だった。私はお前たちを失敗作としてつくってしまった責任を取ろうと、お前たちが暮らしやすい世の中になるよう、手助けをしてきた。しかし、今、世の中は私が思い描いた平等なものとはかけ離れてしまった。私はこれより、真に平等な世の中の実現のために動く。そのことにより、お前たちはこれまで通り暮らすことはできないかもしれない。これからの世の中でどう暮らすかは、お前たち自身で見つけ出すのだ。」

そこで僕は目を覚ました。

不思議な夢だとは感じたが、僕は夢のことは深く考えず、朝の支度を整えて仕事に出かけた。

その日は特に変わったこともなく、僕は家に帰ってきた。

その夜、テレビを見ていると、あるニュースが入ってきた。

「特集のコーナーです。今日の特集は新しい給与体系についてです。障害者差別解消法が施行され、様々な障害に対する関心が高まりました。そんな中、ある企業では障害を持った人の能力を活かそうと新しい給与体系を実施しています。」

この特集で取り上げられていた企業は僕が勤めている会社とも取引がある、某大手企業だった。

特集によると、その企業が実施している給与体系は能力別基本賃金制というらしい。その内容をまとめると、「障害者」「一般」双方の従業員に能力値測定試験というものを受けさせ、一人一人の能力を能力値という値で数値化する。その結果により従業員は最も自分の能力が活かせる部署に配属される。そしてその部署で最も重要視される能力の能力値に対応した固定賃金が従業員ごとに設定され、業績をあげれば、さらに賃金がそこに上乗せされる。

この制度の狙いは、能力の評価と固定賃金によって、従業員の自信とモチベーションを高めることで、従業員がより良い業績を上げるようになり、結果的に企業全体の業績が上がることらしい。

次の日、僕が出社すると部長から能力値測定試験を受けてから普段の仕事をするよう言われた。来月から僕の会社でも能力別基本賃金制を導入するらしい。あまりに急な決定に僕は少し違和感を感じていた。

翌月から、僕の勤める会社で能力別基本賃金制が実施された。結局、僕は部署の異動はなかったが、数人の同僚が異動となり、また他の部署からも数人が僕の部署に来たようだった。ちなみに僕の固定賃金はこれまでの月給よりすこし少ないくらいだった。入社一年目で減給とは、ついていない。

その後、部署内で固定賃金のことがけっこう話題になり、同僚たちと話をした結果、障害者枠で入社した従業員のほとんど、特に発達障害者は固定賃金が以前の月給より多くなり、逆に一般枠で入社した従業員のほとんどは固定賃金が以前の月給より少なくなっていることがわかった。

それから能力別基本賃金制を導入する企業は増えていき、年が明ける頃にはほとんどの企業がそうなっていた。

さらに年度が変わった頃、障害者の雇用率が急激に上がったとテレビで見た。背景には能力別基本賃金制の導入により、障害者枠で入社した従業員の業績が飛躍的に上がったことがあるとされていた。

さらに数年後には、中小企業を中心に、障害者枠で入社した従業員が社長や副社長になるということが増えていた。

これほどに世の中が変化したのを見て、僕は夢のことを思い出していた。そしてあの夢の光はもしかすると神様だったのではないかと思い、僕は教会に行き神父様に夢のことを話した。

「なるほど、あなたは神の啓示をうけたのかもしれません。だとするとこれは神が私たちに課した試練なのでしょう。そして、よく聞いてください。あなたが神の啓示を受けたのなら、きっとあなたは神の試練を乗り越えるのに重要な位置にいるのでしょう。あなたはそのために動くべきです。」

そう神父様は僕に言った。

あれから5年、俺は教会に行った後、真に平等な世の中を作ることを目的とした組織を作った。組織にはいろいろな人間が集まってきた。障害者、そうでない者、俺と同じ目的をもつ者、俺の考えに共感した者、俺と同じように神の啓示を受けた者もいた。そして今、組織は十分世の中を変えられる規模になった。

俺は今、世の中を変える作戦を実行しようとしている。

まずは永田町に乗り込み、国の中枢をたたく、そして国の主導権を握る。次は、全国の失敗作どもを徹底的に粛清し、この国の仕組みを根底から崩す。そして、新しい世の中を作るのだ。

「さあ、革命の始まりだ!!」

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あの日、俺は革命のための戦いを決行した。

結果は失敗だった。俺たちは官僚どもが一度に国会議事堂に集まる日を狙い襲撃を決行した。俺たちは役立たずの政治家どもを半数ほど殲滅した。だが、そこで到着した自衛隊や警察の特殊部隊の総攻撃にあい、襲撃部隊はほぼ壊滅し、俺を含めた数人は逮捕された。

裁判の結果、国会議事堂襲撃の首謀者として、俺には死刑判決が言い渡された。

(なぜだ?俺は神の啓示を受け、神が語った理想の世界の実現のために革命を起こした。しかし、それにも関わらず革命は失敗し、俺は今ここにいる。正義は俺たちではなく、国にあったというのか?)

そこまで考えたところで、俺は新しい疑問を感じた。

(そもそもなぜ襲撃が失敗した?俺はあいつが言った襲撃が絶対に成功する日に合わせて決行したはず。だが結果として襲撃は失敗に終わった。なぜだ?あいつの能力が未熟だったから?それともあいつは嘘をついていたのか?いずれにしてもこのまま終わるわけにはいかない。たとえ、俺の命がここで終わっても、俺は幽霊になってでもこの世界を変えるのだ。)

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「フフ、私が視た未来の通りになったわね。リーダーは私のことを信用しきってたから、私が嘘をついてるとは思いもせずに、考えた通りに動いてくれたわ。まあ、この未来も私の目には視えていたけど。」

革命団のアジトで、リーダーの椅子に座りながら瞳をはじめとした組織幹部はこれからの組織について話し合っていた。

「しかし瞳、もしリーダーが生霊をとばしてきたり怨霊となったらどうするつもりだ?お前のことだから、何か策は講じてあるのだろう。」

そう真司が指摘すると

「朱里ちゃんに結界を張ってもらってるから大丈夫よ。」

と瞳は返した。

「体がある敵だったらあたしが全員排除する。半径300メートル以内なら外さないから。」

そう千里(チサト)が付け加える。

「もし入ってこられても、姉さんは僕が守る。」

すかさず磨那呼(マナコ)が口をはさむ。

「ありがとう磨那呼、千里ちゃん。みんな頼りにしてるわ。」

「それより瞳。そろそろなぜリーダーに嘘の未来を伝えたのか教えてくれないか?」

座頭がそう問いかける。

「視えたのよ。理想の世界を作った後、リーダーが私たちを始末する未来が。」

瞳はそう答えた。

「でもリーダーだって喜んでくれるはずよ。私たちが作るのは彼が思い描いた世界だから。フフ、私の目があれば失敗はありえないわ。さあ、ここからが本当の革命の始まりよ。」

瞳はそう言って不敵に笑ったのだった。

そして、革命前夜、瞳たち幹部はそれぞれの想いを胸に準備を進めていた。

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