第三回リレー怪談 鬼灯の巫女 第九話

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第三回リレー怪談 鬼灯の巫女 第九話

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腕時計の針は、すでに23時過ぎを指していた。

双子の巫女が警告した、夜の時間。

今、皆の視線は本堂の扉に注がれていた。

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「東野さん、戻ってるんですか?

お風呂場の外で見張ってるって言ったのに、急にいなくなられたら怖いじゃないですか」

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扉の外から響いてくる、渚の声。

それを聞いて、本堂の中にいる渚が声を上げそうになる。

園さんが、とっさに渚の口を手で塞ぐ。

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「あ、ああ。すまない、西浦。

ちょっと野暮用を思い出しただけだ。

ところで――」

どうして中に入ってこないんだ、と東野さんが扉の外に問いかける。

そうなのだ。外の渚は本堂に入ってこない。

扉に、鍵など掛かっていないのに。

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『本堂の中は安全です。彼岸のモノは入ってこれません。あなた方が招き入れさえしなければ――』

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巫女の言葉が脳裏によみがえる。

扉の外にいるのは、さっきまで一緒にいたのは、誰――?

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「着替えを持ってて、手が塞がってるんです。

開けてくれませんか。

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……。

七月ー。

八月ー。

潮ー。

誰でもいいから、いじわるしないで開けてよー」

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本堂の中では園さんに口を押さえられた渚が、ガタガタと肩を震わせている。

いつの間にか隣にやってきた八月は、私の腕を痛い位握りしめている。

潮も、東野さんも、動けずにいる。

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shake

「あ、あんた誰よ――!」

沈黙の均衡を破ったのは、園さんの手を払って声を上げた渚だった。

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「え?誰?

今の誰の声?

ねえ七月、皆の他に誰かいるの?」

一緒にいるのは渚だよ――私は声に出せないまま、胸の中でつぶやく。

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「……西浦、お前、姉がいたって言ってたな。

お前も含めて三つ子だったと」

東野さんが静かに語り出す。

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「え?は、はい……。

まだ私が小さい頃で、あんまり覚えてないですけど……」

東野さん、何を?

東野さんは固い表情のまま、言葉を続ける。

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「ふたりの姉たちは亡くなった。

お前の両親は語らなかっただろうが、おそらくふたりの死には鬼灯町の闇が関わっているんだろう。

そんな鬼灯町を離れ、俺たちの町にやってきたお前は、高校で七月と、大学で俺たちと知り合った。

そうだな?」

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「そ、そうです。私は――」

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「その記憶は、まやかしだ」

東野さんはきっぱりと言い切った。

潮が口をぽかんと開けた、間抜けな顔で東野さんを見ている。おそらく、私も。

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「お前には、この本堂の扉を開けられない。

さっきまでは、俺たちと一緒に行動していたからよかったがな。

なぜ、開けられないか。

巫女が言っていた通りなら、お前が『彼岸のモノ』だからだ。

お前は鬼灯町の、そしてこの曲津島の闇に通じるナニカだ。

西浦渚の姿をし、西浦渚の記憶を持ってはいるが、お前は偽者、本物は扉のこちら側にいる西浦だ。

お前は――」

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死んだ西浦の姉の、成れの果て、だ。

東野さんは諭(さと)すようにそう言った。

雨が、降り始めた。

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shake

「あ、ああ……ああああああああああああああ!」

扉の外で絶叫が響き渡った。

哀しげな、呪わしげな、そして、寂しげな声だった。

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shake

本堂の扉が凄まじい力で激しく叩かれる。

本堂の前の廊下を、固いモノが転がり回る音がする。

地団駄を踏む音。

そして、ジャリジャリと固い音をさせて、走り去っていく足音。

やがて、屋根を叩く雨音だけが本堂の中に響くようになり、皆の肩と脚から力が抜けた。

私は床にへたり込んでしまう。

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「……西浦、大丈夫か?」

東野さんが渚に声をかける。

そうだ。今、この場で一番衝撃を受けているのは、私でも、潮でも、八月でもない。渚であるはずだった。

渚はほろほろと泣いていた。

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「……私、あれは、お姉ちゃん…だったの?もうやだ、わかんない……」

園さんが渚の肩をやさしく抱きしめている。

「園さん、貴女はどこまで……いや、今夜はもういい」

そうだ。今日は色々なことがあり過ぎた。

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私たちはそのまま本堂で夜を明かすことにした。

この中にいる限りは安全なはずだから。

本当は目をつぶるのだって、今は恐ろしい。

でも、緊張の糸を張り続けることはできず、ひとり、またひとりと眠りに落ちていった。

そして、私も――。

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声が聴こえる――。

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『めでたやな めでたやな

可愛いややこを抱いて見りゃ

鬼灯一つに瓜二つ――』

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これは、歌?

厳田のお婆さんが歌って聞かせてくれた。

誰が――歌っているの?

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『――風来坊の言うことにゃ

鬼灯残して瓜食った』

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あの夜にも聞いた声。

誰の声?

なんで私に?

なにかを伝えたいの?

何を――伝えたいの?

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『……貴女の隣にいるのは、本当は』

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私の隣。

八月――。

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激しい落雷の音が、私の意識を眠りの淵から浮かび上がらせたようだった。

上半身を起こして見ると、辺りは真っ暗だった。

祭壇の脇に立てられた、この部屋唯一の光源である蝋燭の火は、すでに消え失せていた。

堂の外からは激しい雨音が聞こえる。そして、雷鳴。

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この雨の中、この曲津島ではナニが動き回っているのだろう。

それは、彼岸のモノ。

それは、渚の死んだお姉さん。

それは、斬り殺された双子の姉妹の片割れ。

それは――。

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「眠れないのか?」

不意に声をかけられて、私は思わず座ったまま腰を浮かす。

「その声、潮なの?びっくりさせないでよ」

心臓がばくばく鳴っている。しかし、寝ている皆を慮って、潮の人影に小声で抗議する。

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「悪りい。なんか、雷の音で目が覚めちまったみたいなんだ。

……ずっと、起きてたのか?」

「ううん。私も今目が覚めちゃったの。

……今、何時くらいなんだろう?

すごい雨音。風の音も、まるで台風みたい。

怖い……。八月はよく寝てられるな……。いつもはあんなに怖がりなのに。

八月……、

八月……?」

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真っ暗な堂内に視線を巡らす。

眠りに落ちる直前まで、私の隣に八月はいた。

でも、今は――。

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shake

「ねえ、潮!八月がいないよ!」

「……東野さん?東野さんどこっすか?まじかよ、いないのかよ……」

トイレに行きたくなった八月が東野さんを起こして、ふたりして部屋を出たのだろうか。

それならじきに戻ってくるはずだ。

だが――。

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「おい、七月!見ろ、本堂の扉が開いてるぞ!

……あの足跡、あれ、ふたりのじゃねえか?」

見れば本堂の扉の外、激しい雨でぬかるんだ大地に、二人分の足跡が残され、それは深い森の奥へと続いていた。

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第10話に続く…

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