中編4
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ピンポン

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8年くらい前の話です。 当時、僕は1つ下の年の子と付き合ってました。

その日は、彼女を含む仲間数人でカラオケに行き、夜中の1時くらいに解散しました。

帰宅後、体力を使い果たしていたので風呂にも入らずに、ベットに倒れ込みました。

”ブーン、ブーン”、急に携帯電話のバイブが震えて、飛び起きました。

「なんや、こんな遅くに」 

着信はさっきまで一緒にいた彼女からで、スピーカーからは怒鳴り声

「何で、こんなことをするん!私をからかってそんなに楽しいん?」

はぁ?意味不明。。。

「夜中に電話をかけてきて何をいいようと?せっかく寝よったんに」

「今、私の家の前におるんやろ。」 

「おるわけなかろ~もん」

全く会話がかみ合わないし、全然見えてきません。

。。。しばらくの間の後

「じゃあ、、、これは誰なん?」

shake

”ピンポーン、、、ピンポーン、、、、、、、、、ピンポーン”

携帯のスピーカーからピンポンの音が鳴り響いています。

2度続けて鳴ってはちょっと間があき一度鳴る。不定期に鳴るその音が不気味に

スピーカーから響いてきます。機械の故障などではないようです。

まず頭に浮かんだのは不審者。彼女は一人暮らしで、よく痴漢にも遭っていました。

「とりあえず、のぞき穴から見てみ。」

「嫌っ、そんな、怖くて行ききらんよ、、、」 

   

真剣におびえた彼女の声を聞いて僕は決意しました。

「今から行くけん」

とりあえず武器をと思い、家の玄関にあったバットを持ち、彼女の家に向かいました。

100mくらい手前で車を停め彼女の家を観察。(警察に見つかったら即逮捕です!)

よく見えません。彼女は一人暮らしで田舎のアパートに住んでおり、田んぼの中にある

そのアパートは、一種異様な雰囲気に見えます。3階にある部屋までは一本の階段で

つながっていて、他に逃げ道はありません。とりあえず彼女に電話。

「まだおるか?」 

すると彼女は”うん”とだけ小声で言いその後ろでは

shake

”ピンポーン、、、ピンポーン”

が聞こえ続けています。僕は、バットを握りしめ、じわじわと音を立てないように

階段を登り切りました。1階、2階、ちょっとした足音も響きます。深夜3時の為

物音1つ聞こえず、毎日通っている道ながら別世界に迷い込んだ雰囲気です。

そして3階、、、通路に出たとき、薄暗い通路に人影はありませんでした。

おそるおそる部屋の前に進み、ピンポンを確認、、、音は出ていないようです。

ノックをしたら驚くかもしれないと思ったので部屋の前から電話をしました。

すぐに彼女が出て、一言 

「ありがとう、追っ払ってくれたんやろ」

「え、どういうこと?」   

「たった今、ピンポンが鳴りやんだんだけど、、、」

「とりあえず部屋に入れてくれる?」 

そう言うと彼女は部屋の鍵を開けてくれました。

何か違う。ピンポンが鳴りやんだ、、、部屋の前には誰もいなかった。

まず、それがわからない、部屋に入ると雰囲気が昨日までと全く違う。

彼女は本当に怖かったと思うが、部屋の電気もつけずに完全に真っ暗な

状態で僕を待つなんておかしい。普段の彼女は部屋の電球(寝るときは赤い

ルームライト)を必ずつけて寝ている。寝室に行くと、空気がすごく重い。

とても嫌な感じだ。いつもは片づいている部屋には洗濯物が散らばり、

お風呂からは完全に締められていない水道の音が不気味に響いている。

調理師をしていた彼女は台所をいつも徹底的に片付けている。でも、

なぜか、まな板が出たままであり、その上には包丁が一本出ている。

晩ご飯はみんなで食べたはずだ。。。

奇妙な違和感、ズレ、僕の中で恐怖が大きくなって行くのが分かります。

それでも勇気を振り絞って、

「大丈夫?今日は泊まっていこうか?」

という僕に対して彼女はふらふらと部屋の隅へと移動し、体育座りをして

玄関を指さしました、そして

shake

「帰って、帰って、帰って、帰って、帰って、帰って、、、、」

と、一人ごとのようにつぶやいています。

今度は僕がパニックになりました。バットなんか役に立たない、一刻も早く

この部屋から出ないと危険だ、、本能的にそう感じた僕は

「何かあったら連絡せえよ」

と言い残して部屋を飛び出してしました。

翌日の事です。仕事に行く途中、彼女は交通事故に遭い、その部屋に戻る事無く、

実家の両親に引き取られて行きました。2ヶ月後退院した彼女は以前の彼女と

変わらなく見えました。しかし、実家が他県であり、遠距離は僕的に苦しかった為、

正式に別れ話をして、それ以降会っていません。

忘れられない冬の日の出来事です。 

Concrete
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