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長編15
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鬼式ノ戯

先ず、この話は色んな意味で未完成です。

 

完成させるのは、怖話の読者の

皆様。

 

正確には、怖話の読者のオカルト

などの情報とアイデアと言えます。

 

これから話す事は、狐狗狸さんなどの

降霊術の一種で、禍々しい内容に

なるかもしれません。

ご了承下さい。

 

長文になります。

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私の高校の時の友人に聞いた話です。

その友人をAとします。

Aの地元は田舎な私の県の中でも特に

山の中で寂れた所だったそうです。

しかも、数年に何回か自称霊能者なんが出て、周囲の町からも孤立した町だったそうです。

それでも、それらを除けば、山々が連なり美しい自然に囲まれた場所でA自身は好きな所だったそうです。

そう、彼が来るまで…

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中学一年生の時、F県から転校生が来た。

名前をMとする。

第一印象は、暗い…。

自己紹介はボソボソと呟いた感じで

担任教師もあまり突っ込まず、席に

座らした。

(名字と名前が難しかった事を覚えてる)

その席こそが、Aの隣の席だった。

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Mは田舎に似合わない長髪の男子。

目だけが妙に大きくて、ギラギラして

いたのが印象的だった。

 

それでも、12名しか居なかったクラスをまとめていたAは、積極的にMに話しかけ孤立しない様に努力した。

そのおかげか、二人は少しずつ仲良くなり、夏休みの少し前の日曜日にAはMの家に呼ばれた。

 

Aは、自分がMの家に行くと、前日に友人に話すと友人は変な顔をした。

友人曰わく、

Mの家は家じゃないし、遠くから見たが変な婆さんもいる。

多分、鴉家(からや)だぞ。

とのこと。

鴉家とは、Aの地元で

自称霊能者が現れる(又、いる)家に

対する差別用語。

 

Aは鴉家と聞いて、少し行くのに気がひけた。しかも、家じゃないって言うのも気になった。

それでも、ここで行かなかったらMが傷付き、不登校…なんて考えて、翌日行くことにした。

 

当日は生憎の雨で薄暗かったが、待ち合わせ場所でMと落ち合い、家に向かった。途中まで、最初の挨拶を終えてから互いに終始無言。

しかし、白い小さな橋を渡る手前でMが口を開いた。聞きたくない言葉だった。

 

『僕ん家ね、鴉家なんだよ?』

 

少し笑みを浮かべ、先を歩いていたMはそう言った。

Aは一瞬、言葉を失った。

(…! 心が読まれた…?)

馬鹿げてるかもしれないが、その時Aの心は、前日の友人の言葉で一杯だった為、この様に思った。

しかも、転校生のMが鴉家なんて、町でも一部の人しか知らない様な言葉(通常、霊能者が現れたら「ハバが現れた」と言う)を知っていたことに対する驚きが、尚更そう思わせた。

しかし、その考えは橋を渡り終えたMがAの方を向かずに呟いた一言で打ち消された。

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『昨日さ、Aを連れてくる事をサザマさんに伝えたら、うちは鴉家と呼ばれてるから友達なんて呼ばない方が良いって言われて』

何も言わないAに対してMは更に独り言の様に呟いた。

『鴉家って意味を聞いて、なるほどって思ったよ。 だって、うちのサザマさんは霊能者だもん』

Aは、それを聞いてやっと口を開き

『別にから…ハバが現れたからって悪い訳じゃないよ。 あと、サザマさん?ってのは何?』

MはAが橋を渡り終えるのを待った様なタイミングでAに向かって自嘲気味に言った。

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『あぁ、婆ちゃんの事。 うん、あのね家着いたら婆ちゃんの事はサザマさんって呼んでね。 じゃないと、呪われるんだって』

Aは冗談だろ、という言葉を出しかけて、言葉を失った。

橋を渡った先は、山奥に通ずる細い上り坂になっていて、丁度Mの頭越しに何かが横切ったからだ。

上り坂の頂上辺りを見つめたままのAに対し、Mは振り返って同じ所を見て言った。

『多分、サザマさんを見たんだよ。 山遊びの帰りかもしれない』

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Aはもう不安で一杯だったが、上り坂を上り終えて、後悔が不安に加わった。

目の前には、蔵の様な建物が3つ等間隔に並んでおり、その中央に小さな民家が建つという奇妙な光景があったからだ。

 

       蔵

 

       家

 

     蔵   蔵

 

坂を下り、蔵の様な建物の間を通り過ぎ、民家の入口の前に立つと、玄関が突然開いた。

中から、現れたのは白髪の小柄な老婆だった。小さな悲鳴を上げたAを横に押しやって、Mが老婆に手を向けて、この人がサザマさんだと紹介した。

Aは老婆を見たまま、ただ黙るしか出来なかった。

そして、老婆の横を通り過ぎて家の中に入り、Mの部屋に案内された。

Mの部屋は、小さな居間の先にあり、窓が何故か壁の上部に有って、外が見えなかった。

そして、適当に遊び始めた。

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何分遊んだだろう…。

ふと気がつくと、壁に掛けてあった時計が4時を指し、

ット、ット、ット、ット、ット

という奇怪な音が鳴り、既に夕方に成り7時間も経っていた事に気がついた。

Aは半ば、意識が無い状態で遊んでいた様だが、Mが将棋や花札などで一回も勝てなかった位、強かった事だけ覚えていた。

Aは時計からMに視線を移した。

円卓の向こう側に正座した状態のMは、ただ無表情でこっちを見つめていた。

その視線から、目を逸らそうと視線を下にして初めて気がついた。

円卓の上には、将棋や花札では無く、赤い風呂敷が置いてあった。それは、正方形に膨らんでおり、中にナニカが有ることだけ分かった。

それを指差し、Mに訊ねる。

『え、な、何それ。 ゲームとか?』

Mは無表情のまま、一言。

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『オニシキノギ』

 

空気が冷たく成った気がした。

『おにしきの…ぎ…? 何それ…』

Aの問いに対し、Mが淡々と説明し始めた。

『鬼の鬼に、卒業式の式。 のは片仮名か漢字の之とかで、ぎは遊戯の戯。 それで、鬼式之戯。 名前はそういう漢字。 まぁ、ゲームだよ。 こっ…』

途中、Mが口ごもった。そして、説明をやめてAの顔を見つめた。長い前髪の隙間から黒い眼差しで。

『こっ…って何だよ? 続けて』

この時Aは、この先は聞いてはイケない気がした。恐怖と憎悪、絶望に似た感情が胸を埋め尽くしていた。

同時に、無性に好奇心も膨らんでいた。

『…「こっ」は気にしないで。 これは昨日、サザマさんから貰った物だよ。 小さい頃、たまにサザマさんとこれで遊んでいたんだ』

今まで遊ぶ時以外、サザマさんが隠していて見る事も触らしてもらうことも出来なかったと言うような事も付け加えた。

そして、昨日の事を話し始めた。

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『昨日の夜、サザマさんに電話がかかってきて、話し終えたと思ったら急に泣き出したんだ。 そして、仏壇…と言ってもAの知ってる普通の仏壇じゃないんだけど、その仏壇の前で突然この鬼式ノ戯をやり始めたんだ』

気がづくと、Mは風呂敷を開けていた。風呂敷の中に、ソレはあった。

今まで溜めていたものを吐き出すかの様に、禍々しい空気が辺りを包み始めた。

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ソレは、薄黒く汚れた正方形の木の盤だった。

良く見ると盤面には、縁にマスが書かれており、線も幾つか書いてあった。その上に、絵札が数十枚置いてある。

マスは全部で六十マス。

それぞれ四方の角のマスに「閉」とあって、その一つ隣りのマスに「開」と書いてあり、もんがまえは黒字だが、鳥居の部分が赤色だった。

盤の中央には、昔の硬化の様な、家紋の様な絵が描かれていた。

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そして、その異様な盤の上に散らばる絵札はそれ以上に異様で薄気味悪い絵が描かれていた。1枚の札に2種類の絵が描かれている。

絵札の裏は紫色で表の縁は色があり、札によって異なっていた。

白い色の札、黒い色の札、赤い色の札。

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白い色の札の絵は、次の様な物だ。

 

白蛇と三面鏡 鶏と駕籠 火男面と太陽 

狸と五円玉(?) 神社と菖蒲

 

黒い色の札の絵は、次の様の物だ。

 

黒猫と夕日 梟と積み石 天狗面と狐 

人形と彼岸花 学校と球

 

赤い色の札の絵は、次の様な物だ。

 

赤犬と満月 鴉と菊 鬼面と写真 

鼠とビー玉(?) 公園と椅子

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合計15枚の札が4枚ずつで、全部で60枚の絵札があった。

札の絵は、花札の絵の雰囲気に似ていた。サイズも同じ位だろう。パッと見ては、普通なのだろうがその時の雰囲気か、絵札は禍々しい気を出していた。

 

そして、絵札が盤上に並べられると、Mは風呂敷の中央をつまみ上げた。

すると、何か出てきた。

3、4センチ位の美術室に置いてある様な人の胸から上のオブジェの様な形をした物だった。

しかし、これらは木で出来ており、それぞれ後ろを見てみると首から背中にかけて、文字が縦に彫ってあった。

  

  阿女  本男  山女  子男

 

Mは、これが駒だと説明して、そのうちの2つの本男と山女を摘んで何かし出した。Aはただ、見つめていた。そして、それらの駒を戻した。

首の部分に、何か巻かれていた。

 

髪の毛だ。髪の毛がぐるぐると巻かれていた。

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Mはそれから、ふぅ、とため息。

そして、話し始めた。

『用意出来た。 さっきの続きだけど、サザマさんはその後二時間位独りで仏壇の前でやってから、急に笑顔になって僕にこれを渡したの』

そう言いながら、Mは絵札をまとめ、裏返しにして絵を下にしてシャッフルし始めた。

『それで、昔の事を思い出した。 僕とこれをやるときは最初から最後まで笑顔なんだけど、来客の方とやるときや電話の後に閉じこもって独りでやるときは恐かったんだよね。 怒りながらとか泣きながらなんだけど、最後は笑顔』

言い終えてから、盤上の中央の絵が書かれた上に札を置いた。

 

そして、Mは自分に阿女の駒、Aに子男の駒を渡し、盤上の開が書かれたマスの上に山女と本男の駒を置いた。

そして、この遊びのルールを説明し始めた。 

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•先ず、通常は4人で行う事。

•人がいない場合は、駒に髪の毛を巻き、開のマスに置いておくこと。

 

4人で行う場合のルールで説明される。

•先手の者から反時計回りに順番を回す。

•番が来たら、山札から最初に限り3枚、札を引く。

•以降、番が来たら1枚引く。

•番が来たら手札から必ず1枚、札を場に出すか捨場(山札の隣)に捨てる。

•開のマスから開始するが、自分の駒は、1マスずつ進める。

•しかし、手札の札を溜めて、組札(花札で言う役をイメージして下さい)が揃えば、2マスや3マス進めたり、他の人の駒を後退させたり出来る。

•最終的に駒を、1周させて自分の開のマスに戻った者から上がれるというもの。

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Mはここまで説明してから、組札の説明をするが、一部オリジナルだと言った。

『実は、正規のルールじゃないんだ。 サザマさんが僕の為に、少しでも楽しめる様にってオリジナルの組札を作ってくれたから、今回はそれで説明するね』

その組札が次のものである。

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「鬼ごっこ」

〈鬼面の札•自分の駒に一番近い駒は開の位置に戻る〉

「影踏み」

〈鬼面の札と太陽、夕日、満月のいずれかの札•他の者は、神社、学校、公園、梟のいずれかの札を出さないと○マス戻る〉

「色鬼」

〈鬼面の札と白蛇、黒猫、赤犬のいずれかの札•白札か黒札か赤札を指定する。他の者は指定された色の札が出せないと○マス戻る〉

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「かくれんぼ」

〈鬼面の札と神社、学校、公園のいずれかの札•他の者は、学校なら三枚、神社なら二枚、公園なら一枚札をふせる。その色を当てられたら開に戻る〉

「椅子引き」

〈椅子の札三枚と別札•椅子札三枚と別札を混ぜ、裏にして伏せる。他の者はそれぞれ一枚引き別札を引いた者は○マス戻る〉

 

○マスというのは、あらかじめ決めておくが、だいたい2~5マス程度。

 

盤上は4つに区切られており、それぞれ自分の場に手札から組札を作り、出す。

また、組札は場に2組まで出せる。

そして、組札は隣の捨場に置き、それぞれ捨場に5枚溜まったら山札と合わせシャッフルする(誰かが手札が無くなった場合も同様)。

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『あとは、追々説明するからやってみよう。 何となく理解出来たでしょう?』

そのMの言葉がゲーム開始の合図になった。

 

最初はよく分からなかったが、自分の番で組札が揃わなくても1マス進めるのだから、先行を譲られたAは、Mが組札を揃えなければ一歩早く上がれるのだ。

そして、2回目3回目から組札も場に出せる様になり、いつの間にかゲームに熱中していた。

 

気がつくと、時計の針が6時の手前を指していた。途中から無意識にゲームを行っていた。

何か違和感を覚える。

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『うわああぁぁ!』

いつの間にか、Aから見て円卓の左側にサザマさんが、右側に中年の男性が座っていた。

向かいのMに顔を向けた。

『え、な、ななな、何で!?』

訳が分からなかった。全然、気がつかなかった。いつの間に、この2人は部屋に入ってきていたのか分からない。

『A、途中退場はダメだよ。 ほら、ゲームも中盤にさしかかってきたよ。 君の番だ』

無表情でAを見つめ、Mはそう言った。

『そんなことより、何で何で何でこの2人は!?』

Aの問いに答えたのは、Mではなく中年の男性だった。

『君には悪いけど、この回が最後だ。 止められないぞ。 私はMの父親だ。 私の向かいに座る方がサザマさんだ。 さあ、君の番だ』

サザマさんが口を開く。テレビの砂嵐に似た、掠れた耳障りな声だった。

『あんなー、A君。 こん遊びは、こぐりさんよ。 こぐりさん知っつるで? な、Mは良い目ぇしでる。 集まっど集まっど』

笑ったサザマさんの口から、真っ黒な歯が見えた。何を言ってるのか分からない。サザマさんの言葉は聞き慣れない方言の様だった。

サザマさんに山女、Mの父親には本男の駒が当てられ、髪の毛は巻かれていなかった。2人の場には見慣れない組札が出ていた。

いや、自分の場も同様に見慣れない組札が出ていた。

『あれ、何このクミフダ…? え』

意識が飛んだ。

 

『A、A。起きて、もう7時だよ』

Mの声で気がついた。

 

時計の針は7時を回っていた。

『A、ごはんの用意出来たんだけど。 今日泊まってくよね』

何故だか、Aは異常な頭痛と妙な肩凝りを感じていた。

『ごめん、何か具合悪くなった。 悪いけど、帰る…ごめん』

AはMが残念な顔をすることを覚悟で口にした。しかし、予想に反してMは、送るよ、と言って一緒に家を出た。

とぼとぼ歩いて蔵と蔵の間を通る。

両脇と背後から視線と笑い声がしたが、無視する。坂を下って白い橋を渡った。

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『…あれ?』

隣を歩いていたMがいない。

後ろを振り向くと、橋の向こうにいた。

『ごめん、ここまでで。 今日は楽しかったよ、ありがとう。』

雨が止んでいた。夕日だけが、山の向こうに沈みかけていて、闇が生まれ始めていた。

『あ、うん。 楽しかった。 ありがとう』

AはMに言って手を降った。Mも、手を大きく降って返した。

Aは家に向かって歩き始めた。

 

『ごめん』

 

後ろから、確かにそう聞こえた。

振り返ると、誰もいなかった。

闇は確実にAを取り込みはじめていた。吐き気を必死に我慢し無我夢中で家に向かって走った。家について、そのまま自分の部屋に行き倒れる様に寝た。

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翌日、高熱が出てAは学校を休んだ。

その翌日、学校に登校するとMがいなかった。先生に聞いてみると、熱を出したから休むということだった。

休み時間、友人からMの家がどうだったか、何がいて、何をしたか聞かれたが話しては駄目だという気持ちがして、適当にごまかした。

しかし、その後2日間Mは休み、3日目は先生から引っ越したということが伝えられた。引っ越し先はG県だという。

Mの机には、教科書や道具類が入ったままだった。

『何で…何でだ』

AにとってMの引っ越しは突然すぎて、急に不安を感じた。

その日の放課後、Mの家に向かった。正直、もう踏み入れたくなかったが、先程の不安の答えがそこにある気がした。

 

橋が無かった。あの白い小さな橋が、支えていた柱6本を残して壊れていた。まるで、橋の上で大きな金槌で叩き壊したかのように、所々に木の破片が散乱していた。

此処まで来て諦められない、という気持ちで川を渡ることにして土手を下りようとした。

車のクラクションが突然鳴った。

振り向くと、母親の車があった。車は、橋の手前まで来て停まった。

『あんた、何してんの!? こんな所来たら駄目でしょう!』

母親が、すごい剣幕で車から下りてきた。

『まさかこの先に行ってないでしょうね! 日曜日、遅かったでしょう! あんたには見えんでしょうけど、坂の上辺り真っ黒よ!? 禁区よ禁区! 父さんに怒られるわよ!』

母親はそう叫んで、Aを強引に車に乗せ家に向かった。

その日の夜、父親からも物凄く叱られ、二度と近づかないことを約束させられた。

夏休みに入り、Aは何度か原因不明の高熱を繰り返した。

『禁区に近付いたから、憑いたんだよ。 駄目だ駄目。 ハバの多いこの場所から離れんと参っちまうよ』

近所の叔母からの助言に従い、AとAの家族は私の住む町に引っ越した。

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ここまでの話が、4月の終わり頃、県内の大学に進学したAからの突然の電話で聞いた話だ。

何故、ここまで、それこそ絵札の絵や細かいルールを覚えているのか聞いたが、Aは口ごもった。

『お前の作り話だろ。 だいたい転入した理由は父親の仕事の事情って言ってたじゃないか。 しかも何で今更?』

私は一気に喋った。

『悪かったよ。 でも、また連絡する』

Aはそう言って電話を切った。

 

そして、約1ヶ月後また電話があった。

『久しぶり。 前と同じように今から言うことをメモってくれ。 俺は駄目だわ』

連絡があったと思ったら、Aはこんなことを言った。とりあえず、前回同様メモをした。

以下、メモを纏めたもの。

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3月の頭、郵便受けに紙袋に入った四角い物が入っていた。

送り主の名も書かれていないソレを持って部屋に行った。机の上のケータイに着信があったので、かけ返してみるとMだった。

 

『ごめん、ごめん。 今から話す事を信じて、実行してくれ』

(以下、Mの言った事) 

あの鬼式の戯は遊びと呪術の中間にあたるもの。

サザマさんは戦時中から、近所で有名な霊能者だった為、戦争で子供を失った母親達を集め、色んなアメリカ人の髪の毛を巻いた駒を用いて鬼式の戯を行った。

サザマさん、母親、母親、米人駒というものだ。アメリカに不利な事があると、鬼式の戯の呪いのおかげだと、近所で有名になり始めた。

そして、更にアメリカに味方する国までも潰そうと呪いの効力を強くしようと考えた。1番はアメリカ人の血を盤と駒に吸わせる事だったが、無理だった。

しかし、諦められなかったサザマさんと母親達は反戦運動家達が拷問、処刑された時に出た血を得る事にした。その中には、かつての友人や知り合いがいたが、ひたすら血を吸わせて盤は薄黒くなっていった。

そして、終戦直前、鬼式の戯を行っていた母親の数人が自殺や病死した。

サザマさんにも奇病が表れ始め、初めて鬼式の戯が最悪の呪具に成った事に気がついた。

既に家族に奇病や奇怪な現象が表れ始めていた。3つ出来ていた鬼式の戯。

1つを燃やした。主人が自殺した。

「人を呪わば穴2つ」とはまさにこのことだ。

残り2つを持って逃げる様に、他県に引っ越した。そして、この鬼式の戯の呪いを和らげて処分する方法を考えた。

そして、いつの日からか近所の子供を交えて鬼式の戯をするようにした。

純粋な子供を用いて、呪いを拡散し和らげるというものだ。

勿論、出来るだけ色々な子供を用いた。

1人に集中すると、その子に霊障が生じると思ったからだ。

家族でも、いつの間にか行っていた。

しかし、近所に自分が霊能者であるという噂が広がり、他県を点々と引っ越した。

Aの地元も含まれる。

そして、Mはあの日の事を話した。

Aは憑きやすい体質の為、Aを最後に最後の1つの鬼式の戯の呪いを移し、処分に踏み切れる筈だった。

ルールを覚えさせ、最初はほぼ呪いの薄れた鬼式の戯でゲームを行い、途中から呪いの残る鬼式の戯に変え、ルールに色々追加し「正規の鬼式の戯」を行った。

組札やルールは異なっても、Aが無意識に行えたのは三人息子を失った強力な母親の霊によるという。つまり、Aに憑依していたというのだ。

 

ゲームを終え、これで3年経てば鬼式の戯を処分出来る筈だった。

しかし、サザマさんが亡くなった。自殺だ。それ以降、Mは見える様になり、同時に時折、憎しみと悲しさに苦しむ様になった。

2つの鬼式の戯は以前より、呪いが強くなって色が薄黒くなった。

サザマさんのノートには、正規のルールと組札が書かれていて、見よう見真似で行ったが駄目だった。

だから、Aに送ったのだ。鬼式の戯を。

 

Aは正規のルールと組札を聞いて電話を切った。しかし、紙袋を開けずにゴミ捨て場に捨てた。 

 

今、母親が交通事故で入院していて、自分も落下物で頭を5針縫うケガをした。

『…呪いだ。 Mと連絡もつかない。 呪いを拡散したいが、鬼式の戯がない。 盤と組札を作ってくれないか』

これが、5月の半ばのAからの電話の内容だ。

           続く

 本を失い阿々燦々、山行く子は匙を引く

Concrete
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