今日も電車の中は通勤ラッシュで満員だ。
その狭い鉄の箱の中で揺られながら、島田は思った。
(最近太ってきたな)
不意に下を見た時に、お腹がポッコリなっているのだ。
仕事が終わったら走りに行くか。
島田はそう決意した。
島田は30代で、サラリーマンとして日々汗を流している。
30代なんて気を抜けばすぐにおっさんに見えてしまう。
学生の頃は、ルックスも良くモテていた。
そんな彼の小さなプライドが許さなかったのだろう。
その日の晩、島田はジャージ姿になり、夜の街を滑走していた。
中学、高校と陸上部に入っていた島田は走るのが好きだった。
久しぶりに走ったせいか直ぐに息が上がってしまい、休憩がてら歩いていた。
その時、右手に公園が見えた。
夜なので暗かったが、ちょうど照明に照らされているブランコだけはよく見える。
よく見ると誰か座っている。
それも子供だ。
少し気になって、声をかけた。
『1人でどうしたん?お母さんかお父さんわ?』
子供は無言のまま、俯いている。
最近は物騒だ。
夜に子供1人で居るのを放っておけなかった。
隣のブランコに座り、様子を伺おうと思った。
もしかしたら、児童虐待の場合もある。
事によっては交番に連れて行こうと考えていた。
その時、島田は違和感を覚えた。
しかし、それが何なのかわからなかった。
『怒られたん?』
子供は横に首をふった。
『じゃあ早く帰らんとな、今頃お家の人が心配してると思うよ』
子供は俯いている。
(困ったなあ)
『…てくれる?』
ボソボソと呟いているのが聞こえた。
『ん?どうした?』
『じゃあ、一緒に来てくれる?』
不安げな顔でこちらを見ている。
『わかった。家は何処だ?』
ありがとう、子供は笑顔でそう言った。
やはり子供は笑顔が一番だ。
『どう致しまして、えーと…』
お互い名前を知らなかったので、おじさんの名前は島田、キミわ?と聞こうとした。
その時、前のほうから
『あのー…』
という声が聞こえて来た。
気配に全然気づかなかったので、思わず身体がビクッとなった。
声の主は、警察官だった。
『あの、1人で何を?』
そう言った。
1人?横に子供も座っているじゃないか。
ふっと子供のほうに目をやった。
そこにはブランコだけが明かりに照らされていた。
先程までいたはずなのに、何処に行ったんだろう。辺りを見渡してみたが見当たらない。
『あの、ここにいた子供どこ行きました?』
警察官は見ていないという。
そんな馬鹿な。
暗くて見えなかったのか?
いや、それはないだろう。
くっきりと影もできるほどに照らされている。
現に自分だって、子供が見えたからここに来たんじゃないか。
そこでハッと気がついた。
“影”だ。
先程まで感じていた違和感。
あの子供には“それ"がなかった。
その瞬間、鳥肌がたった。
『じゃあ、一緒に来てくれる?』
あの言葉の意味は、きっと…。
警察官に感謝した。
?マークを浮かべた警察官を後に、猛ダッシュで自宅へ帰った。
あれ以来、その公園には近寄らないようにしている。
作者natu