W(仮名)は自分の娘を見ると罪悪感と後悔の念が押し寄せる。
女手一つで育てるために、娘が高校に入ってから朝から晩まで働いていた。
そのため家に帰る時は、疲れてすぐに眠ってしまっていた。
(もっと話を聞いてあげれば…)
娘は高校でイジメられていた。
娘は内気で仲のいい友達も少なかった。
イジメにあうようになった頃から、友達は巻き込まれたくないからだろう、離れていった。
教師は見て見ぬフリ、友達もいない。
唯一話を聞いてくれそうな人は母親のWしかいなかった。
しかし、朝から晩まで働くWに余計な心配をかけたくなかったからだろう。
娘は誰にも相談しなかった。
殴られたアザはちょうど服に隠れる部分に出来ており、Wも気づかなかった。
そんな娘の心は壊れてしまい、大きな事件へと発展した。
結果的に少年院へと送られたが、少年法の適用とイジメがあった事が考慮され、1年もしないうちに出てきた。
しかし、それ以来嫌がらせの電話は当たり前。
時折、石やゴミが投げ込まれ、カーテンの隙間から覗かれている事もあった。
日本人形を玄関に置かれたり、バラバラにしたぬいぐるみが置いてあったりと、気味の悪いイタズラもされていた。
娘の一度壊れてしまった心は脆く、世間からのバッシングで再び壊れてしまった。
常に何かに怯えるようになり、自殺未遂をくり返すようになった。
Wは最愛の娘を何とかして守りたかった。
しかし、自分の手で守りたくともこのままでは娘はいつか本当に死んでしまう。
そう思い精神科に通わせる事にした。
しかし、一向に良くならない。
医師の推薦もあり、苦渋の決断だったが入院させる事にした。
病院が違う県にあり、近所からのバッシングも酷かったために引っ越した。
日が経つにつれて徐々に娘も落ち着き始め、母親と普通に会話するようになった。
『ここを出たら何処かに旅行しよっか。遊園地とか。』
『遊園地かぁ、最後に行ったの覚えてないや。行きたいかも。』
『じゃあ決まりね。』
女とは恋愛話が好きな生き物である。
『貴女に彼氏ができたら一緒に出かけてくれなくなるだろうから、今の内に行っとかないと。』
『私には出来ないよ。あんな事しちゃったし。』
『人生長いわ、出来るわよ。好きな人くらいはいるんでしょ?』
『うーん、内緒。』
しかし、親子でここまで楽しそうに恋愛話をするのは稀であろう。
娘の心の傷は少しずつ回復しているように見受けられた。
享年19歳。
娘は自ら命を絶った。
病室で首吊りをしているとこを発見。
職員が慌てて降ろしたが既に息絶えていた。
『苦しかったのね、辛かったのよね。貴女にはもっと幸せな人生を歩んで欲しかった。イジメさえなければこんな事には…。』
Wは遺体を見ても泣かなかった。
葬儀中も葬儀後も同じだった。
まるで現実を受け入れられていないようだった。
数ヶ月後、遊園地に入るWの姿があった。
二枚の入場券を握りしめて。
『お母さん、どれ乗る?』
『まあ、はしゃいじゃって貴女が小さい頃を思い出すわ。』
作者natu