爪が剥がれたことはあるだろうか?
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あろうが、なかろうが、
非常に痛い事は言うまでもないだろう。
が、頼む言わせてくれ、
『いってぇなちくしょう…』
ベリベリと指に張り付いていた『それ』を少しずつ…少しずつ…剥がしていく、彼女は微笑んでいた。
それは事故だったのだ、
予知夢が当たったなんてことは認めてやらん。
なぜなら、
そうだとしたら怖いからだ、
文句は、あっても受け付けないのであしからずご了承願いたい。
ほかに理由なんかいりやしない。
こちとら天下の好奇心旺盛な恐がり様だ!
なぜ威張っているのかは俺にもよくわからない。
俺達は人混みの有名な神社を避け、
家の近くの廃れた小さな神社で、初詣でを済ませていた。
廃れてはいても樹齢何百年かの松の木があり、
きっと誰かが管理をしているのだろう、
その松は手入れがよくしてありとても力強く、ここの神社は好きだ。
世の中はクリスマスから浮かれムードなまま、年を越し。
2013年1月1日
俺は、年越しを夢の国で過ごし初夢をみた。
それはシンプルな夢だった、
途方もなく暗い部屋の中で俺は必死に出口を探していた、
でも、出口は見つからず、あるのは壁ばかり、
暗闇に飲まれて消え入りそうになる感覚に襲われ、必死にあがく、あがく。
その感覚はまるで他人の夢を見ているような、自分を第三者として眺めているような、そんな感覚。
痛みや、激しい感情をともなう記憶は深層心理の奥深くにまで刻まれ、なかなか忘れることができなくなると、心理学の書物で読んだことを思い出し、
壁に爪を立てて…
壁を力任せに下へと引っ掻いた
。
ベリベリベリベリ
shake
『いってぇなちくしょう!!』
消え入りそうな自分を、
痛みと激しい悲しみにも似た怒りでその壁へと刻み込む
『いってぇなちくしょう…』
何度も何度も繰り返し、痛みがわからなくなった頃には、
爪は何枚かは剥がれ、何枚かは指と直角のまま無残に折れていた…
中途半端だと思い残っていた爪を静かに剥がしていく…
ベリベリ…
shake
『いてぇよ…』
もうろうとする意識の中で確かに俺はそこに存在していると確認していた…
そんな悪夢から目覚め、今日は部屋にいたくなく、
Aを初詣でへと誘ったのだ、もちろん彼女も一緒に来ることはわかっていたが気にしなかった。
俺には一回り年の離れたAという、いとこがいて、そのAには少し訳ありの彼女ちゃんがいる。
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彼女は基本的に俺がまるで存在していないかのように振る舞う、
以前はそうではなかったのだけど、いろいろ考えがあるのだろう。
複雑な四角関係も進展を見せることなく終わらせる気なのだろう。
おまいりをすませ、流れ作業でおみくじを引く。
俺、 吉
A、 末吉
彼女、大吉
ここで『吉』のがいい、
だとか、
『末吉のが吉より上だ』
だとか。
たわいもない討論を繰り返していたのだが
彼女の
『大吉には勝てないよ♪』
と言う一言に2人とも戦意を損失した。
ちなみに気になったので調べてみところ、
仮説は数あれど、やはり『吉』のほうがよいという説の方が多い気がした。
その後はおみくじを結んで行くのか、大吉は持ち帰るのか?また討論が始まりそうだったのでそのまま調べた。
“木には精霊や神が宿るとされ、おみくじを結ぶとその人の思いが精霊 や神に伝わるという言い伝えがある”
とのことで、樹齢何百年かのあの立派な松の木に結んでいこうという話になり、代表して俺が木を上った。
何とかは高いところが好きなのだ。
彼女は『やめなよ~怪我するよ!!』
と止めていたが、俺もAも、毎年ここにおまいりをし、おみくじを引き、そしてこの松の木に結んでいるのだ。
きっと来年もその次も次も…
きをのぼりきり、一番、高いところに彼女のおみくじとその横に俺達2人のおみくじを結び終えたとき、足を滑らせた。
高さはそんなに無いにしろ、とっさに捕まろうとあがく、あがく。
どうにか落ちることなく止まれたが、指や手には松の皮が痛々しく突き刺さっていた…
爪は何枚かは剥がれ、何枚かは折れていた…
どうにかこうにか下へと降りた俺には彼女の説教と突き刺さった異物を抜く作業がまっていた…
彼女は夢占いに詳しいと言う、
説教をまぬがれたくて話を夢へと切り替えたらこう説明された。
爪がはがれる夢、
爪が抜け落ちる夢は、急なアクシデントが起こる予兆。
心の準備をしておくこと。
自分で自分の爪を抜いたりはいだりする夢を見たら、無責任な言動が原因でトラブルが起こる…
とのことだ、
人生とは無慈悲なものだ…
初夢が悪夢だと、予知夢だとは認めたくなかったが…案の定怪我はした…
彼女はどこかへ電話をかけると、
俺に目を向け、話しかけ、ニヤニヤしながら突き刺さった異物を抜いている。
『こりゃあダメだ、ほら俺、病院行くぞ!!』
バシバシと手の甲を叩いてきながら彼女は言う。
『いてぇよ!!』
久しぶりにあえた彼女に照れ隠しで大袈裟に痛がってみせると彼女はニヤニヤしながら容赦なく腕を引っ張り歩き出した
その痛みと感情は確かに俺の深層心理に色濃く忘れられないほどに刻まれたのであった。
作者Incubus
トラブルメーカーシリーズ
(シリーズ物なのであまり怖くはないかもです、そして前の話を知らないとわからないこともあるかもしれないので良かったら他のも読んで頂ければ光栄です!)
一回り歳下ないとこのAと俺のトラブルメーカーな2人がだいたい自業自得な目にあうシリーズ物です
ゆっくりですが更新していくつもりですのでよかったらどうぞ