カズマ
俺の中学の頃というと、別に友達がいなかった訳でもなく、ホント普通のやつだった気がする。
習字塾をさぼっちゃ家でゲームばかりやってたし、成績もイマイチぱっとしなかった。
で当時1つ年下のカズマっていう糞野郎が近所に越してきて、うちによくゲームやりに来て部屋を散らかしてった。
俺は不覚にも、ソイツに初めて《オナニー》というものを伝授されたんだ。
♥知らないんすか!?
♥シャワー当ててっとマジやばいっすよ。
♥ぱないっすよ!
俺は中2にして初めてオナニーに目覚めて、それからは毎日オナニーをした。
時には1日3回。
カズマの教えの通り、自分の性欲に真っ直ぐであろうと思った。
俺はカズマと顔を合わせる度、包み隠さずおかずの話や、アイテムなど、情報を交換しあった。
しまいにはチンコの皮が擦り剥け、血が出た。
その時はさすがに俺も怖くなって、カズマに相談すると。
♥普通っすよ、俺のかさぶただらけっすから
と、カズマは余裕の表情を見せ、励まされたのを覚えてる。
でも流石にカズマの領域まで行こうとは思えなくて、限度というものを知ると、《性欲は無限ではない》と妙に白けてしまった。
そんなこんなでオナニーブームも去って、カズマとも何となく疎遠になり、そのまま時が経った。
その頃俺は県外に就職してて、1年ぶりに帰省したとき、うちの犬連れて家の周りを散歩してたんだ。
したら、見覚えのある奴に遭遇したんだ。
カズマだった。
カズマもすっかり大きくなってた。
でも何て言うか、青白い顔をしてかなり痩せてたから別人みたいに見えた。
声をかけてみればいつものカズマで、帰ってたんすか!
って調子いい返事が返ってきた。
犬を連れてカズマと中学校まで歩いて、近くの駄菓子屋で焼きそばを食った。
♣実は俺ここで焼きそば食うの、初めてだわ。誰にも誘われなかったから結構さみしかったよ。むかし。
俺はそう言うと、カズマは
♥そうなんすか、何か光栄っすね。
とやつれた顔でニコニコ笑っていた。
♥じゃあ俺もカミングアウトしちゃおっかな。
とカズマ。
♣なになに?
と俺。
♥俺…実は…今日死のうと思ってたんすよ。
俺がリアクションをとり損ねたと焦っていると、奥のおばさんが焼いてる焼きそばのヘラを落とした。
カズマは小声で言った。
♥…俺のオヤジ、ゲイなんす。
♥昔よく、いきなりユウさん(俺)ち押し掛けたりしてましたよね?
♥俺、オヤジが帰ってくると色々されるから、それが嫌で、
♥ユウさんちに逃げ込んだりしてたんです。
♥あの時はホント、すみませんでした。
正直俺はかなり動揺してたというか、冗談いってるのかと思って吹き出しそうだった。
でもカズマは真剣で、ボロボロ泣きながら、ため込んでたもん全部吐き出すように喋った。
カズマの家は確か平谷一戸建てのよくあるボロい借家で、オヤジさんと2人暮らしと聞いた事はあった。
♥俺はオヤジに洗脳されてたんす。
♥普通じゃないんす。
♥だから死のうと思ったんす。
♣早まるな、そんな家出ちまえばいいじゃないか?
♥だから、それが出来たらそうしてます。
♣何でだよ、お前もう大人だろが!?
♥違うんす。
♥違うんす。
♣何が違うんだよ、そんな最低な父親縁切っちゃえって。
♥オヤジの悪口は言わないで下さいよ。
♣だってお前死のうとしてたじゃないか。
♥違うんす。
♥違うんすよ。
♥オヤジ…最高なんす。
天井を見上げたカズマの目が死んだ魚のように濁って見えた。
思わず鳥肌が立った。
カズマから、父親に対する《愛》を感じた。
立ち入る隙が無いほどの、歪んだ愛。
時々家に帰ると犬の散歩をする。
その時俺はカズマの家の前も通るようなにしている。
小さな軽とカズマの車が置いてある。
カズマはまだ、生きている。
作者退会会員