私は怖い話、怖話を探す為に全国を旅する怖話ハンターだ…
加代は私にある事を聞く…
「美奈が…あの日から行方不明なんです…連絡もつかないし、あの時、貴方と一緒でしたよね?知りません?」
…知ってるも何も、私はその美奈って人を知らない…分かるわけが無い…菅野じゃなきゃ分からないだろう…
「どうしたのかな?あのあと別れて…それっきりで…
ゴメン、僕も分からないな。
もし、連絡があったら直ぐ知らせますよ…」
その場しのぎの嘘をつきその日は彼女と別れ、私は兎に角、病院に入院していると言う、菅野 徹に会う事にした…医師がなんと言おうと…会わねばならない、そんな気がしたのだ…
医師の話によれば、彼は人格が無く、ほぼ、廃人の様になっているという事だ…
もしかしたら、私の中の菅野が出てくるかもしれない…
……………
病院のナースステーションで病室を聞く…306号室…
精神科病棟は異様な空気が流れては居るが、それほど普通の病棟と代わりは無い…
叫ぶ者がいたり、蹲(うずくま)りブツブツと独り言を言う者が居る事以外は…
306号室の入口の前で見覚えのある男が立っている…菅野?
……実は、私はここからの記憶がない…
「ハッ!」と目が覚める様に戻ると…あの医師が目の前で怪訝そうに顔を伺っている…
「あれ?先生…ここは?」
「貴方…あれほど言ったのに、菅野に会いましたね…?」
「どうなってるのか…?…会った事は会ったんですけど…その瞬間から記憶がないんです…」
「でしょうな…先程まで少年の犬神さんでしたから…」
クソ!菅野は出なかったか…
「どんなんなってました?」
「菅野さんを羽交い締めにして…キャッキャと笑っていました…更に変な事を言っていました…『スガピー!捕まえたよ!さっさと移りなよ?!』みたいな事を…」
うわ…ヤバイなそりゃ…
「菅野はどうしました?」
「それが…」
何やら眉をひそめる様な顔で唇をとんがらせ、考え込む医師…
「どうしたんです?」
「人格の無いはずの菅野さんが笑ったんです…」
それは、何かの兆候なのだろうか?
と、その時…診察室の扉が急に開き、看護師が飛び込んで来て
「先生!大変です!菅野さんが!菅野さんが!!」
「どうしたんだ!?」
「そ、それが…屋上から飛び降りて…」
な!!!?
急いで駆けつけると、菅野の変わり果てた姿…
脚が向いてはならない方向に折れ曲がり、頭蓋骨が割れたのか脳みそをぶちまけ、耳から口から鼻から至る所から血を吹き出した状態で病院の庭園脇のアスファルトの上に横たわっている…
最悪だ…
ドクン…
心臓が強く脈打つのが分かった…
ドクン…
自分の意思では無く口が開く…
「くっくっく…死にやがったか…菅野 徹は二人も必要ない…そう思うだろう?犬神…」
何だこれは…
勝手に自分で自分に語りかけている…
「お、お前、菅野か?」
「まあな…気分はどうだ?犬神…これから俺はお前の身体を乗っ取ろうと思ってんだ…光栄だろ?」
「やめろ!そんな事してどうなる?」
不思議な会話に気がついた医師が声をかけてくる
「犬神さん?どうかなさいましたか?」
すると、菅野が答える…
「犬神じゃあ無ぇよ…そこに寝てる俺だ…」
「菅野さん?あぁ…やっと出て来てくれましたね!私と話しをして下さい…」
「馬〜鹿…貴様に用は無い。死ね…」
この瞬間、不思議な事が起こる…
医師が急に鋭い目つきに変わり、右手の人差指を自分の耳に突きたて、その場で自殺をしたのだ…
血が吹き出し、辺りを真っ赤に染める…
その間、私はある事に気がついた…
今、私の中に菅野を感じない…
まさか、先生の中に意識を移した?そして殺したとでも?う、嘘だろ…?
つまり、もしかしたら、ここから今すぐ離れれば奴は私の中には戻れないかもしれない!
とっさの判断だったが、私は全力でその場から離れた…
耳から大量の血を出しながら、菅野が乗り移った医師が叫ぶ
「犬神ぃぃあぁぁぁ!!!!!!貴様ぁぁ!何処へ行くかぁあああああ!!?」
トコトン走り続け、だいぶ離れた場所まで来て、私はある公園のベンチにもたれ掛かりながら息を整えた…
「上手く逃げたね」
また、自分の意思では無く口が開く!?
「ガキの頃の私か…?」
そう言えばまだこいつが残ってた…
更に口が開く…
「せっかく…あともう少しだったのに…」
「どうゆう事だよ…」
「スガピーになれば…沢山、人を殺せたよ…なのに邪魔しやがって…馬鹿…」
……………
……………
……………
一番厄介な人格はどうやら私自身らしい…
加代が探していた美奈は数日後、ある公園のトイレの個室で遺体となって発見された…が
舌を噛み切って死んでいた事から警察は自殺と断定した…
加代とは今も関係を続けている…
最近は少年の犬神も姿を表さなくなった…。
作者退会会員
最後まで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。長くて申し訳ありませんでした…これでこのシリーズは終わりにしようか迷ってます…どうしよ…