庭先で洗濯物を干していたら、お隣から声が聞こえてきた。塀の向こう側をそっと覗く。縁側に女性が1人で座っていた。
「暑いわねぇ」
「ほら、こんなに汗をかいて。仕方のない子ねぇ」
「お風呂沸かしてくるから入りなさい」
そう言うと女性は立ち上がり、網戸を開けて
部屋の中へと戻っていった。周囲には誰もいないのに、まるで誰かに話し掛けているような口振りだ。
もしかしたら、以前に身近な人を亡くした経験があるのかもしれない。勝手な想像だが、もしそうだとしたら可哀想な人だ。
いるはずのない人の面影を見つめ、日々生活しているのだと思うとやりきれない。
しばらくして、女性の声が部屋の奥から聞こえてきた。
「お風呂沸いたわよ。嗚呼、網戸はちゃんと閉めてきてね」
その声が聞こえた数秒後、開きっぱなしだった網戸がひとりでに閉まった。
作者まめのすけ。