私は以前、旅館に勤めていました。
あんまり詳しいことを書くと私の身元がばれちゃいそうだけど出来るだけ詳しく書こうと思います。
実際に亡くなられた方が登場する話なのでそう言ったことに対し不快な思いをされる方はどうぞお戻りください。
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旅館というのはお客様の命をお預かりする場所ですよね。たとえ一泊だとしても宿泊されるわけですし。
お酒を呑まれて温泉に行き、そのまま倒れて、溺れて亡くなる方も少なくありません。
その中でも特殊ななくなり方をされた人がいらっしゃいました。
宿泊中に行方不明になられたのです。
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行方不明になったという言い方が果たして適切かどうかは分かりませんが、60代くらいの見た目にもお年を召された男性でした。
その日はその男性(以後Sさんとします)の会社関係の集まりで宿泊をされていました。
朝方だと思いますが同僚と寝ていたSさんが散歩をしようと思ったのか浴衣を着たまま外出されたそうです。
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当時11月頃だったかな…上着を羽織るような時期だったので結構寒く、浴衣で出歩くには厳しい気候でした。
Sさんの同僚は外出されたことに気づかなかったそうで、朝にもぬけの殻のSさんの布団を見ましたが早くに朝風呂でも行ったのだろうとあまり気にしていなかったようですが朝食の時間になってもチェックアウトの時間になっても戻らない。
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荷物は置いたまま、携帯も財布も持っていない。
だんだんと心配になったSさんの同僚はフロントへいらっしゃいました。
事情を伺いすぐにSさんのご家族に連絡をし、館内捜索から館外捜索を始めました。
私の同僚が出勤途中、山手の道路沿いを旅館の浴衣で歩く老人を目撃していました。
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旅館は山に囲まれた場所にありますが囲まれていると言っても山までの距離は歩いて30分以上あると思います。
結局その日は見つからず翌日に持ち越されました。
翌日の昼頃、旅館スタッフと警察の尽力虚しくSさんは浴衣を着たまま山中で亡くなっていました。
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Sさんの奥様は探してくれたお礼にとわざわざ菓子折りをお持ち下さりました。
辛いだろうに息子さんに支えられながら歩く姿は本当に心許ない状態でした。
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しばらく経った後、同期の子が先輩と売店を閉めていた時、閉めたはずの扉のところを男性用浴衣を着た方が通ったのを目のはしで捉えました。
何で?と思った同僚がそちらを見た時、誰もおらず気のせいかとまた作業に戻りました。
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作業に戻ろうとレジへ向き直った時一緒にいた先輩が「あ」と声をあげました。
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何事かと先輩に尋ねると「今居たね。あのおじいちゃんだった」と。
同期はとても現実主義なので扉(等間隔に向こうが見えるように隙間が空いているつくりです)の前を通ったお客様が見えただけと考えたのですが通ったのならその人はどこへ?となり、扉の方へ回るととても人が通れる間はありませんでした。
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結局その先輩は以前から見える人で有名なので本当に居るんだと、同期は涙を流していました。
Sさんはまだ家に帰れず旅館周辺をさまよっているのでしょうか。
一刻も早く家に帰れるよう祈っています。
本当に心からご冥福を申し上げます。
作者怖女
不謹慎だったかなと少し反省しています。
実話です。