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中編3
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【怪談】存在しない男

大学時代の友人のアサコの話だ。

アサコはインテリア・ショップのアルバイトで生計を立てている。接客と商品の品出しを延々と続ける日々を送っていた。

「ある日、ものすごく格好良い男の人が店に入って来たの」

と、アサコは語った。

その男は180cmを超える程に背が高く上下黒のスーツに身を纏い、胸元のポケットにはハンカチーフを飾っていた。

(企業の営業の人かな)

とも思ったが、それにしては格好が綺麗すぎる。

男はゆらっと店の中を歩いた。特に気になる商品がある素振りも無く、ただただ歩いていた。

とりあえずアサコは商品の整理など自分の仕事を続けた。

店の奥で電話が鳴ったので、応対もした。

応対を終え、ふと店の中を見渡すと男の姿はもう無かった。

店の中にはもう一人も客が居なかった。

レジに戻り、釣り受けを見ると一枚の名刺が置かれていた。男の名前と電話番号、メールアドレス、そして勤務先が書かれていた。

「それがものすごく有名な企業だったの。学生時代に履歴書を送って、落とされたこともある。その企業のマーケティング・マネジャーだって......」

翌日もその翌日も、男は店にやって来た。

「その頃には、男の人のことが気になってたまらなかった」

とアサコは言った。

何かお探しですか?先日もお店にいらしていましたよね。

男は「何をお贈りすれば、貴方の心を奪うことが出来ますか?」と言った。

その時、アサコには付き合っている男性が二人居た。

アサコはそのどちらとも別れ、男と付き合うことに決めた。

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翌月。

花火大会の帰り道。

アサコは来た時と同じように、男の車に乗り込んだ。アサコの浴衣には屋台で買って、食べたフランクフルトの匂いが微かに残っていた。

ひどい渋滞だった。

男は車のハンドルを右に切り渋滞を離れ、脇道に逸れた。

数分走ると、男は道端に車を停めた。

アサコは胸の高鳴りを感じたという。

男の唇がアサコの口に触れた。肌を重ねる。アサコの額を一筋の汗が伝う。窓が曇る。

車の後部座席から、携帯電話の着信音が聞こえた。

アサコは「着信ーー」と呟き、首を回し、後部座席の男の鞄に手を伸ばした。男の携帯電話が鳴っているのだろう、と思ったのだ。

鞄から男のSoftbankの白い携帯電話を取り出し、アサコは男に手渡そうとした。

振り向くとそこに男の姿は無かった。

五週後、アサコはバイト先のトイレで多少の出血と共に流産した。

見慣れない白っぽい塊ーー胎嚢ーーが水に浮かぶ。

アサコは備え付きのラバーカップで胎嚢を便器の奥へと押しやったという。

「そうすることしか、出来なかった」

アサコはそのように語った。

翌週。

アサコは店の裏の倉庫で商品の整理をしていた。

(何だろう)

アサコは何日も雨に濡れた後であるかのように、ぐにょぐにょになった段ボール箱に触れた。

表面はふやけ、べとべととしている。指を動かすと、液体が糸を引く。

段ボール箱を手に持ち、蓋を開けた。

箱の底にあったのは、黒ずんだ胎嚢だった。

不思議と悪臭はしなかった。重くも無かった。それは腐った鶏肉のようにも見えたという。

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「私、いま振り返るとどうしても分からないことがあって......」

とアサコは言った。

「うちの店はお客さんが出入りする時には、必ずカランコロンとチャイムが鳴るんだ。でも、あの男の人が店に入って来る時にはチャイムは鳴らなかった。店を出る時も......」

アサコは男について、何も知りはしなかったのだ。アサコはいまでも、インテリア・ショップでアルバイトを続けている。

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友達、ちゃんと、病院いったのかな。

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男は何者だったのか…

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死んさん、コメントありがとうございます。明らかに奇妙なことやおかしなことが起こっても、それでもあくまで淡々と日常は続く……という感じを出したいと思いました。

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続けてるんかいな

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