二回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
それ以外は普通の人と何も変わりません。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることや感じることができ、また簡単な除霊や霊的なものを落とすことができます。
まわりから変な目で見られ続けてきましたが、幼なじみの愛美と七海のお陰でさほど孤独な思いはしませんでした。
あれは中学二年の夏休みのことです。夏休みに入ってすぐに僕の母は
「あなた夏休みに部活もしてないしやることないでしょ?群馬のおじいちゃんとおばあちゃんが会いたがってたから、会いにいってらっしゃい!」
「僕一人で行けっていうの?」
「もちろん!もう子供じゃないんだからね!」
母は仕事に行く支度をしながら淡々と
「一人が嫌なら七海ちゃん連れてったら?」母はそう言ってバタバタと仕事に出て行った。テーブルに出ていた朝食を食べ終えて、七海の家へ向かった。
七海の家はお寺で七海の父は何かと僕にお節介だ。顔を合わすと色々と言われるので七海の父と出会わないことを祈りながら、七海の家のチャイムを押した。
「ピンポーン!」
「はーい!」
玄関のドアを開けてくれたのは七海の母だった。七海の母はおっとりしていて、美人でとても優しい人だ。
「七海ちゃんいますか?」
「あら龍くんおはよう!部屋にいるわよ!上がって上がって!」
七海の母は笑顔で家に入れてくれた。
「ななみぃー!龍くんきたよー!」
二階に向かって呼び掛けると、勢い良く部屋のドアを開ける音がして、裸足で七海が駆け降りてきた。
「龍くん」と嬉しそうにニコニコしている七海は可愛かった。とにかく二階の七海の部屋へ行き、ベッドに二人で座った。
「七海にお願いしたいことがあるんだけど」
「なぁに?」七海は笑顔で僕の顔を覗いてくる。
「うちのばあちゃん家が群馬にあるんだけど、一緒に行かない?」
「行く行く!行っていいの?愛美は?」
両腕をバタバタして喜んだ。
「愛美は旅行に行くからだめだって」
愛美には七海の家にくる前に聞いてみたがダメだった。
「じゃあお母さんに聞いてくるね!」
階段を駆け足で降りていき、すぐに上がってきた。
「行っていいって!これから準備するから準備が出来たら龍くん家行くね!」
今から行くのかよ!って思ったが七海の顔を見たら頷くしかなかったため、急いで家に帰り、母にこれから行くと連絡し準備をした。
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一時間後
ピンポーン
七海が到着した。七海の父が車で駅まで送ってくれるとのことで、車に乗り込んだ。車の中には何泊するの?ってくらいの大きいバッグがパンパンになっていた。
駅に着くと七海の父が
「危ないことしないようにな!」と茶色のお守りを僕と七海に渡してくれた。
七海のバッグは女の子が持つには重すぎるので僕が必死で持った。駅を乗り継いで二時間くらい掛かり、ばあちゃん家の最寄りの駅に着いた。改札を抜けると叔母さんが車で迎えに来てくれていた。
「よう、久しぶりねぇ!また身長延びたねぇ」と久しぶりの再会を喜びながら、ばあちゃん家へ向かった。
ばあちゃん家に着くとじいちゃんもばあちゃんも玄関先まで出てきてくれていて、僕たち二人を見て
「よぉくきたなぁ!龍くんかわいい嫁さんじゃないか!さぁ入った入った!」
満面の笑みで冗談混じりに言うと、中に入れてくれた。七海の顔は真っ赤になっていた。
家の中に入ると親戚の人が5、6人いた。
「よう!久しぶり!」後ろから声が聞こえ、振り返ると一個上の従兄の雅也がバッタなりカマキリなりを詰め込んだ虫かごを自慢気に見せびらかしながら家に入ってきた。
さらに後ろから二個下の従妹の鈴奈が入ってきて、さっさと部屋に行ってしまった。鈴奈は雅也とは正反対でかなりの人見知りである。親戚に七海と一緒に挨拶をして居間でお菓子を食べていると雅也が小声で
「これからいいところに連れて行ってやる!親達には行っちゃダメって言われてるけど、四人で行くなら安心だよな!」そう言うと鈴奈の部屋に行って、鈴奈を連れてきた。七海を見ると好奇心全開でうきうきしている様に見えた。
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雅也を先頭に田舎道を30分程歩くと、鳥居が見えた。
僕「もしかして、いいところってあの神社?」
雅也「当ったりぃ!でもただの神社じゃないぜ。あそこは廃神社だ。どうして廃神社になったか知らないが、地元の大人も子供もあの神社には近付かないんだ。なんでも幽霊が出るだの呪われてるだの噂に絶えない場所なんだ!」
雅也の言うとおり神社の周りには人気がまったくなかった。鳥居をくぐると草木が生い茂っていて、前に進むのがなかなか困難であった。僕と雅也は草木を踏み倒し、必死に道を作っていた。
境内の真ん中辺りまで進むと、階段が目の前に現れた。その階段を上った先に神社が見えた。階段の前に立ったところで、背後に視線を感じて振り返ったが人影らしきものは見当たらなかった。七海がぎゅっと僕の服の裾を握るのがわかった。
階段を登り切り神社を間近で見たところ、お賽銭箱がボロボロに壊れていた。更に奥を見ると、本殿の正面の扉が壊されており、中に入れるようになっていた。
七海「これ、ちょっとやばくない?中に誘われてる気がする。」
雅也「大丈夫大丈夫!怖くない怖くない!」
雅也は一人で本殿へ入っていった。仕方なく、三人も雅也の後に続いた。本殿の中に入ると、夏だというのに息が白くなるんじゃないかと思うくらい寒かった。本殿の中も荒れ放題で、歩くと床がギシギシと大きく響いた。
一番奥に目をやると、雅也は何かに向かって立っていた。近付くとそこには鳥籠くらいの大きさで、正方形の形をした籠が置いてあり、籠にはお札が何枚も貼られていて、鎖で厳重に巻かれていた。
雅也「なんやこれ」そう言って籠を触ろうとした瞬間に
「カンカンカンカンカンカンカンカン」
甲高く耳に響く音が外から聞こえてきた。それと同時に僕はひどい耳鳴りに襲われた。周りをみると矢張り僕以外はそのままの状態で金縛りにあっていた。
「カンカンカンカンカンカンカンカン」
音がどんどん大きくなっていく。耳障りな音と、ひどい耳鳴りで一瞬意識が飛んだ。
意識が飛んだのは一瞬であったが、目を開けた時には雅也の隣に神主の格好をした何かが立っていた。神主は黒いオーラを纏っていた。そして雅也の頭を掴んだ。その手は真っ黒であり、黒いオーラが溢れ出ていた。
雅也は操り人形のように動き始め、まず籠の鎖を外し、籠のまわりに貼ってある御札を剥がし始めた。
僕は意を決して神主に飛びかかろうとしたが遅かった。雅也が最後の御札を剥がすと、自然に籠の扉が開いた。雅也は籠の中に手を入れ、何かを取り出した。
取り出したモノは顔の大きさくらいある、金の縁で出来た鏡だった。雅也は鏡を見つめて体を震わしていた。神主は雅也の頭から手を離し、僕の方を向いた。その顔は真っ黒で、顔のパーツが一切無かった。
「これで私の役目は終わり」
そう言って地面に消えていった。
「イギギ、グギギ」
雅也は鏡を見ながら唸っていた。雅也に近付き顔を見ると、白目をむき、よだれを垂らし、歯を食いしばっていた。
「龍くん!鏡を戻して!!」
後ろで七海が叫んだ。僕は無理やり雅也から鏡を奪い取り、籠の中に入れた。その時
「バキン…バキン…バキン」
奇妙な音がしたが、それは雅也の歯ぎしりの音だとわかった。雅也の口からは大量に血が流れていた。
「お兄ちゃん!」
鈴奈は雅也に抱きついた。
「連れて行かれたみたい」
ぼそっと七海は呟いた。
「鈴奈、離れて!」僕は雅也と鈴奈を離し、両腕の数珠を外した。雅也のまわりには漆黒のオーラが溢れていた。僕は雅也の両腕を掴み、叫んだ。
「雅也の体から出ろ!」「姿を見せろ!」何度か繰り返し叫んだが、声は本殿に虚しく響いただけだった。
僕は数珠をまた両腕に着け直し、
「とりあえずここは一度帰ろう!」
七海は不安そうな顔で頷いた。
僕は雅也の腕を引っ張り、七海は泣いている鈴奈の手を引いて来た道をゆっくり戻っていった。
帰り道、七海も鈴奈の手を引きながら泣いていた。帰り道がとても長く感じ、僕らの気分はどん底に沈んでいた。
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ばあちゃん家に着くと叔母さんが外にいて、雅也の変わりきった姿を見て発狂した。
「あんた達いったいどこに行ってたんだい!」叔母さんは雅也を抱きしめた。
「とにかくお家にお入り!」ばあちゃんはそう言って僕たちに塩を振りかけた。
家に入り、今までのことを説明すると家にいた全員の顔が青ざめていくのがわかった。
叔父さんと叔母さんは雅也を連れて、知り合いの神主さんのところに行ってくると言い、三人で家を出て行った。
「あの鏡を触ったらおわりじゃ。あれほどあそこに近付くなと言ったのに。」
ばあちゃんはそう言うと、あの廃神社のことを説明してくれた。ばあちゃんがまだ子供の頃、あの神社は大変賑わっていた。でも神社の神主が心を病んでいたみたいで、参拝客を物凄い形相で睨んだりすることがあった。皆、ただの変わり者の神主と思っていたらしい。ある日神社の巫女さんが、朝から姿が見えない神主を探し回っていると、本殿の中に神主がいるのを見つけた。しかし、本殿の中の神主は天井から伸びている縄に首をかけて自殺していた。そして足下には紙が一枚置いてあり、『ご神体に呪いを掛けた。皆殺しだ』と書かれていた。
神主が亡くなってからすぐに村に異変が起きた。あの神社を参拝した者のほとんどが高熱に悩まされ、また体が変色し死に至る謎の病気に冒されてしまった。事態を重くみた村の村長が神主を集め、あの神社のご神体を封印するように頼み込んだ。すぐに封印の儀式は始まったが、ことは難航した。ご神体の鏡を触ると、神主であっても気が狂ってしまい、ひどい熱に冒され、皮膚が変色し、亡くなられてしまったとのこと。半年がかりでご神体を封印するとができ、それ以降は何も起きていなかったと。
この話を聞いて、僕は気分が更にどん底まで落ち込んだ。そして後悔した。何で途中で行くのを止めなかったのか。なによりも大事な七海を巻き込んでしまったことが辛かった。そんな僕の心を察したのか、七海は僕の手を握ってくれた。
「お前たちとにかく一度風呂に入れ!みんなひでぇ顔してんぞ!今日のことを風呂で流してこい!」
ばあちゃんは優しい笑顔で言った。
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七海も鈴奈も一人ではお風呂に入りたくないということで、何故か三人で入ることになった。体を洗って湯船に入り目をつぶり、廃神社での出来事と、ばあちゃんの話を思い出していた。何か引っかかる。
そう思っていると、チャポンと七海も湯船に入り僕の目の前まで来た。七海は凄くスタイルが良く、目のやり場に困ってしまったが、七海はまったく恥ずかしそうではなかった。
七海「何か考えてるの?」
僕「あぁ、何か僕たちにできないかなぁって」
七海は目をつぶり何かぶつぶつ言いながら考え込んだ。
数分後、バシャンという音と共に七海は立ち上がった。
「いいこと思い付いた!」その言葉の後に色々と説明してくれたが、僕は目の前の光景を頭の中で処理しようと必死で、七海の言葉に頷くことしか出来なかった。
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お風呂から出ると叔母さん達が帰ってきた。話を聞くと、あの廃神社のことがあるので対応してくれる神主は誰もいなかったと肩を落としていた。雅也を見ると、体が紫に変色していた。
七海「時間がないみたいね」
僕と七海は僕たちに除霊させてもらえるように頼んだ。もう手段を選んでいる場合じゃないことは、ここにいる皆がわかっていた。
叔父さんと叔母さんは「雅也を助けて」と頭を下げた。
全員が雅也を囲む形になった。雅也は白目を剥き、痙攣していた。僕は七海の左側に座り、両腕の数珠を外して七海の左腕を両手で掴んだ。そして目を閉じて、僕の力が七海に流れるイメージを頭の中で強く思い描いた。
七海「龍くんすごいね!掴まれただけで凄い量の霊力が私に流れ込んでくるよ!」
興奮して言うと、すぐに雅也の方に体を向き直し、数珠を片手に持った。そしてお経を唱え始めた。僕は七海が唱えるお経に精神を集中した。
「ギギギギギッ!ギギギ!」雅也は苦悶の表情を露にし、体を強張らせた。雅也の口から黒いオーラが出てくるのが分かったと同時に、七海のお経を唱える声が大きくなった。目を開けると、雅也の口から大量の黒いオーラが噴出し、天井を覆っていた。黒く濃い煙の様に見えた。正直、嫌な予感全開であった。口から黒いオーラを出し切ると、意識を失いガックリとうな垂れ、そのまま倒れ込んだ。
「ズズズズズ…」奇妙な音とともに何かが天井の煙の真ん中から出てきた。それは人にも獣にも見える得体の知れないものだった。全身真っ黒で、手と足が異様にデカく、口から長い舌を垂らし、その得体の知れないもののまわりを見慣れない漢字が一文字一文字繋がり、螺旋を描いていた。僕はこんなに禍々しく、邪悪な霊体を見たのは初めてであったため、正直今回は殺されるかもしれないと思った。七海だけは守ろうと僕は七海の前に立った。しかし足が震え、あまりの怖さに涙が出てきた。
ゆっくりと邪悪な霊体は僕に近付いてきた。僕の体は金縛りにあい、まったく動かなくなってしまった。そして口が自然と空いてしまった。邪悪な霊体は蛇の様な細長い形に姿を変え、僕の口から入ろうとするのが分かった。もうダメだと目をつぶったその時
ズボンのポケットに入れていた七海の父親からもらったお守りが光りだした。一瞬金縛りが解け、ズボンのポケットからお守りを取り出した。
「七海!」七海の方を振り返ると、七海はお守りを僕に渡した。二つのお守りを両手で持つとお守りが更に強く光りだした。お守りの袋から人の様な形をした紙が飛び出し、白く輝きながら邪悪な霊体のまわりを回りだした。すると霊体は徐々に小さくなり、霊体のまわりを浮いていた漢字は全て崩れた。白く輝いている紙はそのまま霊体の中に入っていった。
霊体は一瞬にして白く輝きだし、邪悪なオーラは消え去った。霊体は光り輝きながら家を飛び出し、あの廃神社へ向かっていったようだった。
僕はそのまま全身の力が抜け、気を失ってしまった。
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数時間後に目が覚めると布団で寝かされていた。隣に七海も横になっていて、僕が起きたのを見て笑顔になった。
「龍くんって式神も操れるのね」よく分からないことを七海は言ってきたが、あれは僕が操ったのか、元々お守りの力が凄かったのかその時はまだ理解することが出来なかった。
部屋の扉が空き、雅也と鈴奈が入ってきた。
僕「もう大丈夫なの?」
雅也「何が?俺あんまり記憶ないんだよねぇ!ほれ見ろピンピンしてるだろ!」雅也は訳の分からない踊りを踊った。横で鈴奈が嬉しそうに笑っていた。
ご飯が用意されていたので皆でご飯を一緒に食べた。叔父さんも叔母さんも凄い感謝してくれた。じいちゃんもばあちゃんも僕と七海を褒め倒した。
食事も終わり、僕は疲れ切っていたのですぐに布団の部屋へ七海と一緒に行った。七海のリクエストで腕枕をしながら、薄れゆく意識の中で
「七海は絶対僕が守るよ」
そう言うと七海はそっと唇を重ねてきた。このキスは僕も七海もファーストキスであっただろう。そう思いながら眠りについた。
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次の日からは近くの大きなプールやら博物館やら公園やら連れて行ってもらい、なんだかんだで一週間くらい泊まった。
帰りはまた叔母さんが車で送ってくれて、一緒に乗っていた鈴奈が「龍くんありがと。ありがと。」と言って泣いてくれた。
帰りの電車の中でふと、あの廃神社のことと、ばあちゃんが話してくれたことを思い出した。
僕「アーーーッ!!!」
七海「どうしたの?!」ビックリした顔で僕を見る。
僕「あの廃神社で僕も鏡触っちゃったよね!?」急にあたふたし出した僕を見て七海は
「龍くんなら大丈夫だよ!」そう言ってクスクス笑っていた。何が大丈夫なのかまったく分からなかったが、まぁヨシとするか。
電車から見える田んぼの緑は僕の心を癒すのにそう時間は掛からなかった。
作者龍悟
中学生時代の中で一番怖かった話です。
話が長いですが読んでいただけたら幸いです。