五回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
それ以外は普通の人と何も変わりません。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることや感じることができ、また簡単な除霊や霊的なものを落とすことができます。
まわりから変な目で見られ続けてきましたが、幼なじみの愛美と家がお寺の七海のお陰でさほど孤独な思いはしませんでした。
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あれは中学二年の夏休み終わり頃のことだった。
僕はいつものように幼なじみの七海の部屋でくつろいでいた。七海は占い系の本を読み、僕は七海が読んでいるのを横から覗き、七海が色々と質問してくるので簡単に答えていた。
日も暮れて少し肌寒くなった頃、
「何か飲み物持ってくるね!」
そう言って七海は階段を降りていった。
僕はふと、七海の机の上を見た。なにやら机の上には小さなガラスケースが置いてあった。何が入っているのか気になり、机に近付いた。
ガラスケースの中には古い缶バッジが入っていた。それを見た瞬間に七海と初めて出会った時のことを思い出した。
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そう、あれは僕がまだ五歳くらいのことだ。僕には友達が出来なかった。幼稚園に行っても、近所の子に会っても、僕の容姿を皆気持ち悪がり、『悪魔の子』だの『ドラキュラ』だのと呼ばれ、虐められていた。
僕は人に会うのが嫌で嫌でしょうがなかった。人目を避け近くのお寺に行っては、一人遊びをして、ただ日が暮れるのを待つことが多かった。
ある日、お寺に行くと女の子が立っていた。その子はとても綺麗な長い黒髪で、目は大きく、肌は僕と同じくらい白かった。その女の子は僕をジッと見つめて来た。
僕はまた何か嫌なことを言われると思い、帰ろうとした。
「ねぇ」
女の子は僕に話しかけてきた。女の子は僕に近付き、
「あなたの目、綺麗な目をしてるね」
無表情で僕の目を覗き込んだ。
「僕のこと気持ち悪くないの?」
「なんで?そんなこと思わないよ。」
僕の姿を見て、気持ち悪がらない子は初めてだった。僕は喜びの感情と不安な感情を感じながら、ぎゅっと拳を握りしめ、
「僕と友達になってください!」と叫んだ。
女の子はビックリした面もちだったが、すぐに優しい表情になり、
「こちらこそ、よろしくね」
そう言ってクスクスと笑っていた。僕たちはお互いに簡単に自己紹介をした。これが七海との初めての出会いだった。
七海としゃべっていると時間がとても早く感じた。七海の左腕に包帯が手首から肘のあたりまで巻かれていたが、そこにはあえて触れないでいた。もう日が暮れそうなころ、
「七海そろそろ家に入れー!」
と、男の人が近付いてきた。
「お父さん!」
七海の父が僕たちに近付いてきた。僕はお辞儀をして挨拶をした。すると七海の父は、
「おおおぉ!虎司のとこの息子じゃねぇかぁ!」
なんと七海の父は、僕の父と僕のことを知っていた。僕の父は僕が物心つく前に、大きな事故で亡くなったと聞かされていた。僕の父のことを色々聞こうとしたら、
「そぉだ!ちょっと待ってろ!」
そう言ってお寺の隣の自宅へと走っていった。少し経つと七海の父は汗をかきながら走って来た。
「ほれ、これをお前にやる!これを常に付けていろ!」
数珠のリングを二つ僕に渡してきた。
「こんなの付けたくない」と七海の父に伝えると、七海の父は何か考えた顔をしながら僕のことをじろじろ見てきた。
「お前には凄い霊力がある。そのままだとまわりを傷つけてしまうかもしれない。隣にいる七海も傷ついてしまうかもしれないぞ!」
僕は困った表情をした。
「それを付けるとお前の力をちゃんと抑えてくれる。決して外してはいけないよ」
僕は慌てて数珠のリングを両腕につけた。
帰り際に僕は当時一番大切にしていた、なにかのヒーローものの缶バッジを七海に渡した。
「なにこれ?」
七海は不思議そうに缶バッジを眺めていた。
「僕の宝物だよ!友達のしるしだ!」
そう言って走って家に帰った。
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僕はその後も毎日の様にお寺に行き、七海と会った。たまに七海の家に上がり、七海の部屋で七海の好きなアニメを観たりした。ただ、七海の左腕の包帯が日に日に長くなっていくのが気になっていた。初めて会った時は肘くらいまで巻いていた包帯は、数日後には肩あたりまで巻いていた。しかもお札が貼ってあったのだ。
七海に会うようになって1ヶ月くらい経った頃、僕は左腕のことを我慢できずに七海に聞いてみた。
七海はとても怯えた顔で包帯のことを詳しく話してくれた。
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2ヶ月程前に、お寺に一つの呪具が持ち込まれた。その呪具は何人にも渡っていた物みたいで、その呪具の持ち主になってしまうと、呪具の呪いで必ず死んでしまうという。
七海の父は何人かの弟子たちと呪いを解くため、部屋の一室に結界を張り、何日も何日もお経を唱え続けていた。
七海はどうしても中の様子を見たくなり、お経が聞こえる中、襖を少し開けて覗いてしまった。中を見ると、真っ黒なオーラが部屋を覆っていて、必死に七海の父たちがお経を読んでいた。七海は怖くなり、左手で襖を閉めようとした時、黒いオーラが七海の左手に勢い良く入ってきてしまったとのことだった。とにかく七海が呪われてしまっていると分かった。
「この呪いが少しずつ私の『心臓』に近づいてるんだって。もしかしたら私あと少しで死んじゃうかもしれない」
そう言うと七海は泣き出してしまった。
僕は苦しかった。初めて出来た大切な友達があと少しでいなくなってしまうかもしれない。七海との楽しい時間がもう少ししか無いと思うと、苦しくて苦しくてしょうがなかった。
僕は何を思ったのか、七海の包帯に貼ってあるお札を剥がし始めた。自分でもなんでこんなことしているか分からなかった。
七海は嫌がったが、僕は構わずお札を剥がし、包帯を解いた。
七海の綺麗な左腕が姿を現した。手首のあたりから肩にかけて黒い稲妻のような模様が左腕を締め付けるように入っていた。
僕は両手で七海の左手を掴んだ。目をつぶり、「七海から出ていけ!」と何度も呟いた。七海はその間もずっと泣いていた。七海を助けたい、七海を救いたいと強く念じた。
僕の右腕を誰かに掴まれた感触がした。僕は金縛りにあってしまった。僕の右腕は誰かに操られているかのように、僕の意識とは関係なく動き出した。僕の右腕は肩ぐらいまで上がると、奇妙な動きをした。七海に向かって、何か空中で文字を書いているのだ。その文字が何なんのかは分からなかったが、何個も何個も書いていった。僕は不思議と怖くはなかった。
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最後の文字を書いたとき、僕の耳元で何か唱える声が聞こえた。
目の前が急に白く光り出し、あまりの眩しさで僕は目をつぶってしまった。七海の痛がっている声が聞こえる。
目を開けると、七海の左腕から黒いオーラが放出していた。徐々にオーラが集まり、黒い人影のような形に変化していった。
「そこから離れなさい!」
七海の父と三人のお坊さんが走って来た。僕は七海の腕を掴み、そこから少し離れた。七海の父たちは黒い人影を囲み、お経を唱えながらゆっくりと人影のまわりを回りだした。
「二人ともこっち!」
七海の母が僕たち二人を家の中に誘導した。家に入っても七海は震えていた。七海の母は僕たちに温かい飲み物を出してくれた。それを飲むと心が落ち着いた。甘くて、まろやかでなんだか安心する味だった。
あまりの美味しさに感動してると
「初めて飲むの?ミルクティよ!」
と七海の母は優しく言ってくれた。
少し経って家の玄関がガラッと開いた。七海の父が帰ってきたのだ。七海の母は玄関まで迎えに行った。玄関での二人の会話の中で「呪いが解けた」と聞こえたため安心した。七海の方を見ると、七海も安心した表情だった。ただ、会話の中で何度か僕の父の名前が出てきているみたいだったが、詳しくは分からなかった。七海の左腕には黒い稲妻模様はなくなっていた。
七海の父が僕の隣に座り、
「七海のこと頼むぞ!」笑いながら僕の頭を叩いてきた。
僕はコップを置き、立ち上がり、
「七海ちゃんは、僕が守ります!」
と大声で言った。
七海も立ち上がり、
「わたしは、龍くんのためになんでもします!」
その姿を見て、七海の父も母も大笑いしていた…
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ガラスケースを持ちながら僕はいつの間にかニヤニヤしていた。
下から七海の鼻歌が聞こえてくる。その鼻歌に乗って、ミルクティの甘い匂いがした。
部屋のドアを開けて入ってくる七海の顔もニヤケてるんだろうな、と思いながらゆっくりガラスケースを机に置いた。
夏の終わりを告げるかのように鈴虫の泣く声が聞こえた。
作者龍悟
今回は僕と七海の出会いを書かせていただきました。
この出会いは大事な出会いでした。
読んでいただき、ありがとうございました。