三回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
それ以外は普通の人と何も変わりません。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることや感じることができ、また簡単な除霊や霊的なものを落とすことができます。
まわりから変な目で見られ続けてきましたが、幼なじみの愛美と七海のお陰でさほど孤独な思いはしませんでした。
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あれは僕が小学校高学年の頃のことです。
僕のクラスでは怪談話が流行っていた。放課後になると五、六人で怖い話の本を持ち寄って、一人ひとり怖い話を読み上げていた。ちなみに僕は怖い本を買ってもらえなかったため、自分が体験した微妙に怖い体験談を話しては、皆の怖がる反応を楽しんでいた。
ある日の放課後、僕と七海と愛美、それに同じクラスの男の子の健一と女の子の春菜の五人で、いつもの様に怖い話をすることになった。
春菜、愛美の順に怖い話を披露し、次は健一の番という時に健一は
「いししししー!これ見ろよ!」満面の笑みでそう言うと、ランドセルから紙を一枚出してきた。
その紙は少し古ぼけていて、何やらひらがなの文字がぎっしり書かれていた。そして真ん中には鳥居のマークが書いてあった。
「あーーーーーっ!!」僕以外はみんな喜びに満ちた表情に変わった。それを見て健一は自慢げに
「これさぁ、美術室で見つけちゃったんだよねぇ!これやばくない!こっくりさんやるしかないっしょ!」
そう言い、紙を机の上に置き、財布から10円玉を取り出した。
僕はまったく興味がなかったので断った。七海もやりたくないと言いだし、僕と七海は後ろで見ていることにした。
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「なんだよ!つれねーなー!」健一はそう言うと10円玉を鳥居の位置に置き、人差し指を乗せた。愛美も春菜も続けて人差し指を乗せていく。三人とも興奮して顔が笑っていた。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」三人が声をそろえて叫んだ。すると10円玉はゆっくり動きだし、鳥居の横の『はい』の位置で止まった。
「おーーーーー!マジで来たーーー!」などと興奮していた。
最初は「このクラスで性格の悪い人は誰ですが」や「このクラスでエロいのは誰ですか」など本当にくだらない質問をして楽しんでいた。
途中健一が
「龍悟はいったい何ものですか」と質問した。僕は少しムッとして健一を見た。10円玉はゆっくりと『ば け も の』と返事をした。
僕は健一の胸ぐらを掴もうとしたが、七海と愛美が二人で健一に文句を言ってくれたので、気持ちを抑えることができた。僕は健一のただの悪ふざけだと思い、気にしなかった。
その後もこっくりさんとのやりとりが続き、一時間くらい経つ頃にさすがに飽きてきたのか健一が
「おーし!今日はこのくらいで勘弁してやるかぁ!」と言い、こっくりさんを終わらせようとした。
「こっくりさん、こっくりさん、ありがとうございました。お帰り下さい」そう三人が言うが、10円玉は鳥居の場所から動かなかった。
「あれ?何か間違ってるっけ?」三人が少し焦り始めたのが分かった。
「何か必要なんだっけ?」「言葉が間違っているんじゃない?」三人が汗をかきながら必死でこっくりさんに帰ってもらうようにお願いした。
すると急に10円玉は紙の上をぐるぐると回りだした。回るスピードがどんどん速くなる。僕たちはあまりの奇妙な出来事に言葉を失ってしまった。
さらに回るスピードが加速していき、その反動で三人とも体までも動いてしまっていた。
健一「お、おい!やべーぞ!やばいやばいやばい!」
春菜「怖い!怖いよー!」
愛美「龍くん助けて!」
僕と七海は三人の指を10円玉から話そうと試みたが、三人とも10円玉に指がくっついてしまっている様にどんなに引っ張っても離れなかった。
すると急に10円玉が止まったと思ったら、凄い速さで『つ れ て い く』と紙の上を何度も何度もなぞり始めた。
僕たちが悲鳴を上げた途端に
「バン!」
と教室の扉が開け放たれた。しかしそこには何もいない。それを見て愛美と春菜が泣き出してしまった。健一を見ると、下を向いて震えている。いや、ただの震えではなかった。肩を震わせて下を向いて笑っている。
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そして健一が顔を上げた。僕たちは息を飲んだ。健一の顔はもう健一ではなかった。目は白目を剥き、吊り上っている。口元は限界まで上がり切っているようで、涎をだらだら垂らしている。
僕は教科書を取り出し、渾身の力で健一の頭を叩いた。叩いた途端に三人の指が10円玉から離れた。すぐに愛美と春菜が泣きながら僕の後ろへ回った。
健一の顔は変わらなかった。椅子に座ったまま、先ほどまで10円玉に乗っかっていた人差し指をゆっくりと口元まで持っていった。
「けんいちーーー!」
僕は大声で叫んだが、健一はその人差し指にかじりついた。一瞬にして指を食いちぎり、指からは血が噴き出していた。健一は口を真っ赤に染めながらくちゃくちゃと自分の指を食べていた。そしてゴクリと飲み込んだ。
僕は全身の毛が逆立ち、物凄い寒気に襲われた。後ろでは三人が恐怖で震えている。
「ぎぃぎぃ、ぎぃぎぃぎぃぎぃぎぃぎぃ」奇妙な声を出して健一は笑っていた。そして健一は顔を斜めにし、僕の後ろにいる愛美と春菜の方を見た。僕の後ろで悲鳴が上がる。
僕は意を決して健一に掴みかかった。健一の肩を掴んだと思ったら、右腕に激痛が走った。健一が僕の右腕に噛みついたのだ。僕の腕に歯が食い込み、腕から血が溢れてくる。さらに健一はそのまま食いちぎろうと、僕の腕に噛みつきながら顔を前後左右に振ってくる。僕の意識が飛びそうになったその時
「お前ら何してるんだ!」
先生が数人駆け付けた。そして僕たちの状況を見て青ざめた。先生は数人がかりで、僕の腕と健一を引き離し、暴れる健一をとにかく押さえた。七海はすぐにハンカチで僕の右腕の傷を巻いてくれた。七海と愛美と春菜はとにかく帰らされ、僕は先生に近くの病院へ連れて行かれた。
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僕は車の中で放課後の出来事を話したが、一切信じてもらえなかった。病院に着いて、右腕を調べてもらったところ、骨にひびが入っているため、傷口を消毒し、人生初のギブスを付けることになった。
健一は親がすぐに来て、先生と一緒にどこかの病院に連れて行かれたとのこと。次の日から健一の姿を見ることはなかった。卒業するまで健一の机は空っぽのままだった。健一がその後どうなったのかは怖くて聞けなかった。
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次の日の給食の時間、僕は右腕にギブスを巻いているため、左手で給食を食べていたが、何度もこぼしてしまっていた。七海が僕に近付き、スプーンでご飯をすくうと、僕に『あーん』をしてきた。
「右腕が治るまで、私がご飯を食べさせてあげるね」
七海の笑顔は可愛かった。
昨日の出来事はなかったことにはならない。でも必死に僕たちは忘れようと笑顔で笑いあった。
遠くで10円玉の落ちる音がした。
作者龍悟
あれは霊の仕業だったのか何であったのか今でも分かりません。
僕の右腕にはあの時の傷跡が残っていて、あの出来事を思い出す度に傷が疼きます。
軽はずみにやってはいけないと感じさせられた出来事でした。