俺の名前は【佐伯 海(さえき かい)】
小さい頃から霊媒体質で迷惑な事に、見える・触れる・話せるの三拍子ときたもんだ。
ただ話すのは波長が合わないと中々難しい。
幽霊や妖怪といった類は、現代でも存在しているのか証明はされていない。
しかし、逆に存在していないとも言い切れない。
なぜなら科学では説明出来難い現象は年に数例起きており、[見える]という人もいるからである。
俺もそんな[見える]人の一人なんだけど、もし皆にも死んだはずの人間が見えたならどうする?
_________『何を話してたのかな?仁くん。』
じん君??俺の名前は『佐伯 海(かい)』だ。
誰かと間違えてんのかな?
にしてもこの状況は気まずいな。
幽霊と話してましたといえば、誰でも頭のおかしい人だと思うだろう。実際小さい頃からそういう経験をしてきたため、いつの間にか見えるということを隠すようになっていた。
『いや、これは…えーとっ……』
必死で言い訳を考えていると。
お前じゃなくて後ろの子に言ったんだと。
そおか、この子の名前はじん君て言うのか…じゃなくてこいつ見えてんのか?!
普通の人なら俺の後ろには花やおもちゃが供えてある事故現場の風景しか映らないだろう。
だが、見える人には小学生くらいの男の子が一人見えるはずなのだ。
自分の家族以外に霊が見える人には会った事がなかったため少し嬉しかった。
しかし、じん君の顔がみるみる青ざめていくように見えた。
幽霊なので元から青白く、実際には変化していないが、明らかに怯えているのは目に見えて分かった。
『あんた、見えてんのか?。』
普通は生きているやつが怖がるもんなんだが。
『知らなかったよ、ここの学校に見えるやつがいたなんて。』
もしかしてコイツがじん君が話してくれた奴か。
____数分前。
『そーいや、お前なんで俺を殺そうとしたん?』
『あのね、こないだ生きている人を殺したら生き返られるて聞いたんだ。』
『なっ?!誰がそんなことを言うとったん!?』
『えーと…』
じん君は俯いたまま黙ってしまった。
(口止めでもされてんのか?)
そこに口止めしていた本人らしき人物登場て訳で。
『あんた何を聞いた?』
『生きている人を殺す代わりに自分が生き返られると。こんな子供を騙して何企んでんねん。』
ブウゥゥン。
そいつの目が赤く変わった。
同時に意識が遠くなる。
遠くなる意識の中、何か聞こえてきた。
《人間は命を大切にしなくなった。
人間は生きる喜びを感じなくなった。
人間は死を軽く見る様になった。
本当に生きたいやつが生きればいい
さあ一日限りのALIVE GAME、始まりだ。》
いつの間にか、自分の部屋のベッドで寝ていた。
夢か?
時計を見ると7時半になっていた。
遅刻だ…。
5分も経たないうちに用意し、ダッシュで学校へと向かった。
学校に来てみたら何やら騒がしかった。
『なんでお前がいるんだよ!』
『ゆ、幽霊だ。』
『どーなってんだ?』
三ヶ月ほど前交通事故で亡くなったやつがいた。
名前は【赤崎 理沙(あかさき りさ)】
同じクラスな割にあまり話したことはなかったが嫌なやつではなかった。
しかし、俺は兎も角何故みんなに幽霊が見えるのだろうか。
教師達も異様な光景にどう動いたらいいのか分からずシドロモドロしている。
その内の一人が何とか捻り出した言葉は『授業が始まるから教室に戻りなさい』という言葉だった。
ザザッザザザァー…。
ふいに校内放送用のスピーカーからノイズが走る。
『あんな、人を殺したら自分が生き返られるてこないだ聞いたんやん。』
スピーカーから赤崎の声が聞こえる。
『私は無理に人殺しなんてしたくない、でももう一度生きたい。』
『だから死にたい人は今日の放課後一年三組の教室に来てくれない?。』
ザァァァー…プツッ。
放送が終わると共に赤崎の姿も消えていた。
死にたい人か。
この学校に何人いるんだろうか…。
なんとかその場は鎮まり、授業が始まった。
放課後、俺は残った。
別に死にたいわけじゃない。
嫌な予感がしたからだ。
教師達は学校で死人を出すわけにはいかないと教室に入ろうとする生徒を追い返していた。
俺はそれを廊下から見ていた。
すると、赤崎が廊下の方まで寄って来た。
『本当はこんなことしたくないんだけど、すいません。』
教師達は一斉に金縛りにあった様に動きがとまった。
少しすると数人の生徒が入ってきた。
赤崎は見渡した後に、少し悩んでいた。
暫くしてその中の一人を選び、
『大丈夫、痛くないから』
赤崎はそう言って、目を見つめた。
すると、その子がおぼつかない足取りで窓の方へと向かって行く。
窓から落ちる気だ。
止めようと走ったが時はすでに遅く、
そのまま窓から身を乗り出して落下した。
『赤崎っ、てめぇ。』
赤崎の方を振り向くと足元から徐々に肉体が現れていた。
そして、それが頭まで到達した。
本当に死んだ人間が生き返ったのだ。
『やった、生き返った。生き返ったわ!』
『ありがとう、仲原君。』
彼女はそう言って窓の外を見た。
『わあぁぁー!』
誰からともなく悲鳴があがる。
それを合図にその場から逃げる者もいれば、怯んで動けない者もいた。
『じゃあね、また明日。』
そう言って赤崎は教室を後にした。
それより、仲原と呼ばれる子は本当に死んだのだろうか。
もしかしたらまだ生きているのでわ?
窓から仲原が倒れているであろう場所を見た。
…いない。
いつの間にか誰かが運んだのか?
しかし、ここは三階だ。
下はコンクリートで固められており、この高さから落ちれば即死とはいかないまでも、流血は免れないだろう。
しかし、その流血した痕跡も見当たらない。
『先生、救急車て呼んだのか?』
平気な顔で何処かへ行こうとする教師達を呼び止めた。
教師達にどこか違和感を感じた。
いや、教師達だけではない、先程まで怯んで動けなかった生徒達にもどこか違和感を感じた。
皆、普通なのである。
先程まで非日常的で理解不能な現象に恐怖していたはずなのだが、不自然な程に日常の生活と何ら変わりない雰囲気になっているのである。
しまいには、
『救急車?誰か怪我したのか?』
とまで言われる始末である。
まるで何もなかったかの様に。
『幻覚でも見たんじゃないか?』
皆からそう言われた。
さらには、仲原という名の生徒はこの学校にはいないそうだ。
俺は頭がおかしくなったのだろうか。
救急車を呼ぼうと持っていた携帯をポケットにしまった。
帰宅しようと学校を出た俺の目に異様な光景が飛び込んできた。
そこら中で人間が自殺していたのだ。
走行中の車に飛び込む学生。
道端の木にネクタイを結び首吊りをしているサラリーマン。
買い物袋と共に川に浮かび溺死している主婦。
いや、普通の自殺じゃない。
死体が何故か消えていくのである。
『なあ、変わってくれよ。』
ふいに、後ろから声がした。
目は虚ろで舌は口に収まりきらずダランと垂れ下がっている。
なんでこんなに気味の悪い姿をしてでてくるんだ、と心の中で文句を言いった。
何をされるかはわかっているので、一目散に家へと逃げた。
『待てよォ〜、ゲラゲラゲラゲラ。』
不気味な笑い声で追いかけてくる。
逃げる途中に俺と同じ様に何人か襲われていたが助ける余裕なんてなかった。
なんとか撒いて家に着くと姉ちゃんが先に帰っていた。
『姉ちゃん、無事か?!』
『海!あんたも無事やったんやな。』
奥からオカンも出てきた。
『海も空も無事で安心したわ。後は父さんだけやな。』
『大丈夫やて。』
『お父さんなら返り討ちにしてそうだもんね。』
『それもそうね。あの人ならピストルくらい持ってこないとね。』
オトンなら大丈夫だろうと満場一致で特に心配されていなかった。
まあそれは今までの経験上色々あったからこそ言えるんだけど、その話はまた今度に。
少し安心し、冷静になると友人の事が気になった。
携帯電話を見るといつの間にか着信が同じ名前で二件入っていた。
俺はあまり仲の良い友人はいなかったがそんな俺にも三人の仲間がいた。
着信はその内の一人からだった。
【芳田 隆之(よしだ たかゆき)】
彼はリーダー格で、性格もしっかりしており顔も二枚目でモテていた。
簡単に紹介するとそんな感じかな。
留守電が入っており、内容は俺の安否と他の二人も無事だということだった。
掛け直したが、そんな電話していないとの事だった。
何かおかしい。
学校でもそうだったが、記憶の一部が消えているのか?
数時間後、オトンも案の定無事に帰って来た。
しかし、元気は無い様だった。
『同僚がやられた。』
話によると、帰宅中に幽霊が同僚の頭を掴み目を見つめていたそうだ。
暫くして、その同僚がふらふらとガードレールを越えて走行中の車に…。
オトンは助けることが出来なかったそうだ。
しかも、死体は消えていて車の凹みも直っていた。一度車から降りていたドライバーも何事もなかったかのように走り去ったらしい。
その後も、同じような事があったらしい。
人が死に、死体が消える現象は俺達家族全員が見ていたようだ。
もし、寝ている間に襲われたらとその日は皆眠れなかった。
次の日から日常通りになり、俺ら家族以外にあの日あったことを覚えている人間がいなくなった。
《人間は命を大切にしなくなった。
人間は生きる喜びを感じなくなった。
人間は死を軽く見る様になった。
本当に生きたいやつが生きればいい
さあ一日限りのALIVE GAME、始まりだ。》
あれは夢じゃなかったのか。
アイツ何者だったんだ…。
作者natu