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長編8
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隣の世界の音を聞く方法

 

『長く深淵を覗く者を、深淵もまた等しく見返す』

偉人名言集の一文、フリードリヒ・ニーチェの言葉をみつけてそれを口にしてみる。

 

もしかして、俺もお隣さんを覗けば覗かれるのだろうか・・・・・?

 

無言で四畳半の狭い一室の窓を開け放ち、身を少し乗り出したところで声をかけられる。

 

『うん、たぶんお隣さんを覗こうとしてるんだろうけど、そういうのとは違うと

思うよ?』

彼女の声はあきれている。

 

『あははは・・・いや~そんなつもりは~・・・・』

 

少し気まずい沈黙の後、部屋の整理を再開した。

 

 

 

これは、兄貴がいなくなってからの、俺達4人の話だ。

 

事故の傷は癒え、俺と彼女は兄貴の部屋の遺品整理をしにきている。

狭い一室には乱雑におかれた本と、動かなくなった青いテレビ、

使い古されたいくつかの家具と、主人の帰りを待つ忠犬がいた。

 

ファラオ(愛犬の名)はソファーに寝そべりただ静かにこちらを見ている。

 

物の少ないこの部屋で遺品整理といっても、そんなにやることはないので、

兄貴の物を、いろいろ見て回っているような感じだ。

 

先ほどからあきらかに彼女との気まずい雰囲気とは別に、

部屋の片隅にある本棚には近づきたくない、そんな感覚を感じている。

なんだか嫌な予感がする。

 

この嫌な予感というのは、きっと兄貴がいつも感じていた、

Aであり、トラブルメーカーでもある、

俺に関しての嫌な予感は必ずあたる。

と言っていた、その感覚なのだろう。

 

いま少し兄貴がどう感じていたのかわかった気がする。

 

なんだかんだで、もう1年前になるのかと思い返してみる。

たしかあの日は、人肌恋しくなるような寒い夜の事だった。

 

俺は兄貴のいないこの部屋へとかってに上がりこみ、コタツで温まりながら、

兄貴の書物から適当に選んだ本を読んでいた。

 

それがたまたま読まれたくない本だったのか、兄貴は俺に

『霊感テスト』とは名ばかりの降霊術を教え、追い払われた。

 

おかげであの夜は散々な目にあった。

 

あの時、兄貴は何を隠していたのだろう?

そう思うたびに、好奇心が踊りださんばかりに膨れてきている事に、

気が付く。

 

彼女との、重たい空気で満たされたこの部屋で、

楽しみを見付けた。

 

あの本はどこだ??

答えは簡単だ。

その本は、本棚の二段目、真ん中あたりにあった。

 

 

(やめろ、その本を開くな)

 

そう聞こえた気もするが、きっと気のせいだろう。

俺は、その本を本棚から抜き出すと、表紙を眺める。

 

『怪談○○!!真夏の都市伝説特集!!!』

某出版社の出している、ごくありふれた雑誌だ。

 

(いや、気のせいじゃない、やめろ!!)

 

兄貴の声だ、やめてほしい、頭がこんがらがる。

 

 

 

兄貴の意思に冷たく接するのは、

彼女であるN、そしてそのもう一人の人格であるS。

 

この二人がひとつの体の中で、『ギクシャクする』

という、とても器用で、不器用な事を彼女なりに悩んでいるからだ。

 

 

本を手に持つと、本の中頃には何かが挟まっていた。

しおり代わりに使っていたのであろう、

プリクラがはさまっていた、

兄貴と俺の知らない女の人が写っていた。

2人のパーソナルスペースにギクシャクしたまどろっこしさを感じとった、2人はどんな関係だったのだろう?

ニコッと白い歯を見せながら笑うその女の人と、頭ひとつ上のところで目を泳がせている兄貴。

『ちょっと、サボって何見てるの??』

と、不服そうな声が耳のすぐ横で聞こえてとっさにプリクラを本で隠しつつ

『このページの…これこれ、気になってさ!!』

と、答えておいた、

なんとなくNにプリクラを見られるのはまずい気がしたのだ、

女の守れる秘密は、自分の知らない秘密のみ。

さっき読んでいた、偉人名言集に書いてあった一文が頭をよぎる、Nの知った事はきっとSにもすぐ伝わるだろう。

兄貴に、『ひとつ貸しだからね』と思いつつ、プリクラの挟まっていたページを指差した。

そこには、

『隣の世界の音を聞く方法』

と題された、 見開きの特集ページがあった。

『あぁ、それ、懐かしい…』

といいつつ、何だっけ?とこめかみを人差し指でコツコツと叩いている。

キラキラしたネイルがこめかみを少しずつ赤くし始めていても、思い出せそうもないので、

本に目を戻すことにした。

どうやら、『赤い部屋』の亜種のような話らしい。

『三日後の自分を知れる』というこの都市伝説の終わりはあまりにも現実的なのである。

伝説の始まりはこうだ、

都内のワンルーム、夢を追って出てきた若い女の子がいたそうだ、

でもその夢は都会の荒波にもまれ崩れ去っていった、

そして、バイト先で知り合った彼には遊ばれ、仕事にもいきづらくなり、

日々、ただ生きているだけの生活が続き、友達もいなかった彼女は部屋に閉じこもることが多くなった。

やることもなく、なんで生きているのだろうと考え始めた頃、テレビでやっていたパラレルワールドを題材にした番組を見ながら、彼女は口にしたそうだ。

『三日後の私はどうしてるんだろ?』

選択肢を変えることで無限に変わる平行線上のちがう世界を夢見たのだろう、

『う…めいので…いが…る…』

その時、かすかに何かが聞こえた気がしたそうだ…

彼女はテレビを消して部屋を見渡した、

照明の消えた小さなキッチン、

そこから二、三歩分の廊下、

扉の閉じたクローゼット、ベッドと自分の背面には姿見、前にはテレビとお隣さんとつながっている壁…

でも、たしか、お隣は空き部屋だった気がした…

そこで、少し気負いしながら彼女はまた呟いてみた…

『三日後の私はどうしてるんだろ?』

『う…めいので…いが…る…』

聞こえた!

今度は確実に聞こえたのだという!!

それはやはり隣の部屋から聞こえくるようで、でも明確に聞き取れない…

そこで今度は、もう一度聞いてから壁に耳を押し当てた。

『三日後の私はどうしてるんだろ?』

『運命の出会いが起こる』

ハッキリと聞こえて彼女は飛び退いた。

次の日、大家を捕まえて隣を見に行くと案の定、家具も、人がいたであろう痕跡もない、ただの空き部屋だった。

しかし、大家さんいわく、三日後に男の人が引っ越してくるからそれまでは空き部屋だよ。

とのこと、

それから三日がたった。

本当に男の人がひとりで越してきたのだ!

背が高くて、整った顔に、こどものような無邪気な笑顔、

いろいろな意味でワクワクしていた彼女は、これは本当に運命の出会いがおきた!と舞い上がった。

その晩彼女はまた三日後のことを知りたくなってまた部屋で呟いてみた、

『三日後の私はどうしてるんだろ?』

でも返事はなかった…この間はできたのにな…と鏡と壁の間に立って呟いてみた。

『三日後の私はどうしてますか!?』

ちょっとお隣さんに聞こえるくらい強めに言葉にした、

耳をあてても何も聞こえない…

その時、壁に貼り付けた耳とは反対の耳に声が入ってきた。

『ここで俺と過ごしてるよ。』

その後、彼女は3日間にわたり、その男のオモチャとして監禁され、四日目の朝、彼女の古い友人が訪ねてきた事によって助け出された。

しかし、未だにその男は捕まっていないのだという。

一瞬、目の前を、あたかも自分で見たかのようにその子の捕まっていた姿がよぎる…

ボロボロの服だったものを体の所々に残したまま、体中に浅い切り傷が走っていた。

なんだ?今のは…??

他にも、学校で試した小学生が『あつい』という言葉を聞いた三日後に、調理実習で使っていた油を頭からかぶり大火傷をおったり。

大学生グループが試して、抜き打ちのテストをまぬがれたりと、

誰でもどこででもできてしまうので、噂は広がり、尾ひれだけではなく背びれまでついてこの都市伝説は今も存在してるという。

その本にはやり方もかいてあり、

それは、そういうことなのだ。

いつの間にか彼女は帰り支度をすませていた。

『それ、やる気でしょ?』

彼女は訪ねてくるので、

『うん!!』

と、無邪気な笑顔全開で答えた。

彼女は何も言わずに冷たく俺を睨むと部屋から出て行ってしまった。

俺の足元には、本に夢中になっていたからだろうか、いつのまにやら落としたプリクラの兄貴が恨めしそうに俺を見ていた…。

ごめん…と思いながらそのまま、兄貴の部屋でこの都市伝説を試してみたのは言うまでもない。

そして、聞こえた。

気がする。

なにやら『ズズッ』と何かを引きずるような音と、『エッ…グ…ヒッグ…』と言葉にならないようなしゃくるような声が聞こえた気がするのだ、思いのほか気味が悪くて、もう一度試そうという気にはなれなかったのでそのまま帰った。

それから丸々1日、彼女と連絡がとれなかった、今までこんなことはなかったから無駄に心配になってしまう。

そして、その次の日も音沙汰なし。

心配のあまり彼女の家まで見にいってみたが、部屋にいるのはほぼ確定しているのに彼女は一向に出てきてくれなった。

そして、あの日から三日目の夜、

彼女から電話がきた。

慌てて出ると、それ以上に、慌てた感じの声に驚かされたのだが、連絡がとれたことに少し安堵したのもつかの間、パニックにおちいる。

電話の相手は、彼女のもう一つの人格“S”からであった。

『Aか!?逃げろ!!私に会うな!!Nが暴走してる!!私も消されそうなんだ!お前を殺しに行くつも……A君、大好きだよ。今もう、○○駅ついたから行くね。』

そう一方的に言うと電話は切れた。

家から駅までは5分とかからない、

彼女に何があったんだ!?

この間買ったエロ本がばれたのかな!?

でもそんなことで殺しにくるか!?

彼女ならありえるけど…などとどうしようもない事を考えていると、

(とりあえず家を出ろ!!)

とケツを叩かれた気がした、そうだ家を出て、その後どうするかきめよう…。

玄関の扉をあけるとちょうどエレベーターから彼女が出てくるところだった、微笑みと手には携帯ではなく包丁を持って。

そして彼女はこちらに猛ダッシュで突っ込んでくる、慌てて扉をしめ、施錠をする。

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

『ねぇ、A君~鍵開けてよ~』

『落ち着いてよ彼女ちゃん!どうしたのさ!?』

『殺しにきたの~』

わかってはいたけど、血の気がひ引いてしまう。

『ねぇ、一緒に死んじゃおうよ~』

そんな軽いノリで死んでたまるか。

覗き穴から外の様子を見ようとした瞬間だった、

ガンッ!!

と、その小さな穴に包丁を突き立てられたら。

こちらにそれが届くわけもないのだが、目玉をひと突きにされた気がして、心臓が止まるかと思った。

驚きにおののき後退した拍子に玄関の段差に足を取られ、派手に転倒し気を失うように現実から目を背け眠った。

次に目覚めたときには、窓から差し込む朝日が少し部屋に入ってきていた。

何事もなかったかのような静かな部屋の中、鼻水をすすりながら俺は泣いた。

人生とはいえ無慈悲なもんだ。

彼女との思い出を思い返しながら、

2人の関係は終わったのだと確信した。

Concrete
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マッスル樽さん コメントありがとうございます!

ただいまです!そう言っていただけてうれしゅうございます!!
続きもそのうちあげますのでよかったらまた読んでやってくださいね!!

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欲求不満さん コメントありがとうございます!

物事に全て理由があるものです!ゆくゆくなぜそうなったのかもわかるかもしれません…(笑)

ありがとうございます!なるべくがんばります!!

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なぜそんな事に⁉︎

次回も楽しみです。ゆーっくり待ってます。

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