十一回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
それ以外は普通の人と何も変わりません。
あれは高校二年の秋頃のことだった。
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「プルルルルル、プルルルルル」
携帯電話の着信音で目が覚めた。眠い目をこすり、時計を見ると朝の七時を少し過ぎたくらいだった。
今日は日曜日で久しぶりに何も予定が無く、ゆっくり寝ていようと思っていたため、眠りを妨げる着信音がとても不快に感じた。
携帯電話を手に取り、誰からの電話か確認すると、ディスプレイには『杏里さん』の文字が見えた。杏里さんは僕のバイト先の社員である笹木さんの妹さんだ。僕は嫌な予感がしたため、電源ボタンを押して保留にし、そのまま携帯を遠くに投げて、二度寝をすることにした。
「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン」
着信音のベートーベンの『運命』が流れる。この着信音は『笹木さん』専用だ。
僕は慌てて遠くに投げた携帯電話を拾い、電話に出た。
「おー!出たか!今日の10時に動物園集合な!」
笹木さんの声に交じって、杏里さんの怒っている声が聞こえた。
「あの、ちょっと何言っているか分かんないんですけど」
「あ?今日は動物園に行くんだよ!お前どうせ暇だろ?とりあえず時間厳守だから遅れんなよ!」
「えっ?ちょっと!」
すでに電話は切れていた。僕は携帯を置き、一度大きなため息をついてから深呼吸した。
「行くしかないか」
僕は憂鬱な気分のまま準備を始めた。家を出て、10時少し前には動物園に到着した。
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「ちょっとー!」
杏里さんの声が聞こえた。振り返ると、笹木さんと杏里さんがこちらに近付いてくるのが見えた。杏里さんは可愛い長袖のシャツにミニスカートでデートっぽい(?)格好であった。笹木さんはというと、いつも通りのパンチパーマにいかついサングラス、上下白のセットアップに手にはセカンドバッグを持っていた。この人と一緒に動物園を回ると思うと、少し眩暈がした。
「龍悟くん!なんで私の電話には出ないのよぉ!」
杏里さんは怒ってほっぺたを膨らましている。正直ほっぺたを膨らまして怒るのは漫画だけだと思っていたのでかなり驚いた。
「罰として今日は動物モノマネしてもらうからねぇ!ガオーー!」
杏里さんのテンションの高さについていけず、とりあえずチケットを買って、中に入った。
2時間くらい園内を回り、休憩所で食事をすることになった。笹木さんは「今日は無理に誘って悪かったな」と言ってカレーライスを奢ってくれた。笹木さんの優しさにはいつも裏があるので、怖くてたまらなかった。警戒しながらカレーライスを食べていると、
「ねーねー!お兄ちゃんの怖い話聞かせてよ!」
杏里さんが急に笹木さんに『おねだり』した。動物園まで来て、怖い話をする人なんているわけないでしょ!と思ったが、
「しょうがねぇな!怖くねぇけど聞かせてやるか」
笹木さんはノリノリで話し出した。
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あれは笹木さんが25歳くらいの頃の話だ。
当時付き合っていた女性の『歩美さん』と旅行に行くことになり、笹木さんの家で二人で旅行雑誌を見ていた。笹木さん曰く、当時の彼女は『半端ねぇ上玉』だったらしい。
「ねぇ!これ見てよ!この旅館すごい安いよ!」
歩美さんが旅行雑誌を指差し、手招きしている。そのページを覗いてみると、確かに他の宿に比べるとかなり格安の値段設定だった。しかし、他の宿には宿の外観や食事内容等様々な写真が載っていたが、歩美さんが指差していた旅館は、何故かお風呂しか載っていなかったのだ。
「こんなに安くて大丈夫か?風呂しか載ってねぇじゃんよ」
「大丈夫だよ、旅行雑誌に載ってるくらいだし!予約いっぱいになる前に電話しちゃうね!」
歩美さんはさっそく携帯電話を取り出し、旅行雑誌に載っている電話番号に電話を掛けた。
電話を掛けて数分経つが、向こうはまったく電話に出る気配がなかった。
「あれぇ、おかしいなぁ」
歩美さんはがっかりした様子で、携帯電話をしまった。
「まぁ、まだ日にちはあるんだし、ゆっくり決めようや」
笹木さんはそう言って、歩美さんをベッドに呼び、二人の時間を楽しんだ。
「プルルルルル、プルルルルル…」
二人でまったりしている中、突然歩美さんの電話が鳴った。時間は23時を過ぎている。
「この番号誰だろぉ」
歩美さんの携帯電話に登録されていない番号から電話が掛かってきていた。
「あっ!さっき掛けた旅館からだ!」
そう言って歩美さんは電話に出た。
「はい、もしもし!」
その後歩美さんは無言になる。
「もしもし!悪戯ですか!」
歩美さんは不機嫌になり電話を切った。
「どうした?」
「んー、なんか変な電話だったの。何もしゃべらないし、何か『ガリガリガリ、ガリガリガリ』って変な音が聞こえるだけなの。」
「なんだそりゃ!気持ちわりぃな」
笹木さんがそう言った途端に、また歩美さんの電話が鳴った。
「プルルルル、プルルルル…」
「またさっきの番号…」
歩美さんは電話を手にして少し困った顔をして呟いた。
「とりあえず俺によこせ」
笹木さんはそう言って歩美さんから携帯電話を取り上げた。
「あー、もしもし?てめぇあんまり調子こいてんじゃねーぞ!」
笹木さんは電話に向かって怒鳴り声を上げた。
「あのー、すいません。先程お電話をいただいた旅館のものですが…」
受話器からは女性の声が聞こえてきた。笹木さんは慌てて歩美さんに電話を渡す。
歩美さんは丁寧に謝罪し、旅館の予約をした。電話を切ると、歩美さんは嬉しそうにニコニコしていた。
「予約とれたよぉ!楽しみだねぇ!」
歩美さんは無邪気に喜んでいたが、笹木さんはこの時、なんとなく胸騒ぎがしたらしい。
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旅行当日、笹木さんの車で目的地へ向かった。高速を下り、一般道を1時間くらい走ると旅館の看板が見えてきた。
旅館の駐車場に車を止め、車から降りた二人は旅館を見て少しがっかりした。予想していたよりも旅館の外観が、かなりボロボロであったのだ。純和風の旅館ではあったが、かなり劣化が進み、瓦の屋根はかけているところが数カ所あるし、木の壁は所々腐っている様に見えた。
「ガラガラガラガラ」
笹木さんは旅館の戸を開けた。中に入ると広い応接間となっていて、左側にフロントがある。旅館の中は薄気味悪いくらい静まり返っていた。
靴を脱いで玄関を上がり、
「誰かいませんかー」
と、歩美さんが奥まで聞こえるように叫んだ。しかし旅館の中は相変わらず、しんと静まり返っている。仕方がないので応接間のソファーに座って待つことにした。
旅館内を見渡すと、いたるところが劣化していて、柱には大きな傷が見えた。柱の傷は不自然で、何かに切り付けられたような跡が何か所も見られた。
「お客様大変申し訳ございません!」
急に女性の声が聞こえた。その声に笹木さんと歩美さんは一瞬体がビクッとなった。いつの間にか女将と思われる女性が二人のそばで正座していたのだ。
「本日は遠いところよりお越しいただき、まことにありがとうございます。女将の『下桐』と申します。」
女将は深々と頭を下げた。女将さんの胸には『下桐』と刺繍がされているのが見えた。
「さっそくですが、お部屋をご案内いたします。」
女将がそう言うと、フロントの奥から仲居さんが出てきて、二人の荷物を持ってくれて、そのまま女将が部屋へと案内してくれた。
部屋の前に着き、女将がゆっくりと部屋のドアを開けた。笹木さんには一瞬部屋の中がくすんで見えたそうだ。女将は部屋の中まで案内し、お茶を入れて部屋から出て行った。
部屋の中は思っていたより広く、二人で泊まるには十分すぎる広さであった。部屋の奥は障子が二枚並んでいた。
「障子を開けたらすごい景色だったりしてね!」
歩美さんは少し期待を込めて、障子を開けた。障子を開けた先には、一面雑木林が広がっているだけだった。
「まぁ仕方ないな、車で海でも行こうや!」
歩美さんに明るく話し掛けるも、歩美さんの反応は無い。
「ねぇ、あれ見て」
歩美さんは雑木林の中を指差した。
「さっきの女将さんがあんなところにいる」
「あ?んなわけねぇだろ!」
笹木さんは雑木林を隅々まで確認したが、さっきの女将はどこにも見当たらなかった。
「おいぃ、いねぇよ?」
「さっきまでいたの!こっちを見て笑ってたんだから!」
歩美さんは涙目になって訴えてきたため、とりあえず海に行くように説得した。
旅館の入り口まで行くと、フロントに女性が立っていた。
「あれ?女将さんは?」
「はい、私が女将の『下條』でございます。お部屋は気に入っていただけましたでしょうか?」
「あ?女将って二人いんのか?下桐ってやつはどうした?」
「はて、女将は私一人でございます。また下桐という者はこちらの旅館にはいません。仲居と間違われたのでございましょう」
女将はそう言って微笑んだ。笹木さんと歩美さんは顔を見合わせ、首を傾げた。さっき見た女将はいったい何だったのか。歩美さんは不安でいっぱいの表情をしていた。
笹木さんはそんな歩美さんの肩を抱き、
「大丈夫だ、心配すんな。俺がいるだろ?何があっても守ってやっから!」
歩美さんの表情は少し明るくなった。ただ、玄関を出るときに、玄関の上の方に御札が何枚も貼られていることは、歩美さんには言えなかったそうだ。その後二人は日が暮れるまで海で楽しんだ。
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旅館に戻ると、魚のいい匂いが漂ってきた。旅館に入ると女将の下條さんが出迎えてくれて、履物をそろえてくれた。
「本日は金目鯛の煮付けに真アジのお刺身等、新鮮な魚介類を用意してございます。」
女将は笑顔でそう言い、また今日は笹木さんと歩美さん以外にお客はいないと告げて、厨房へ入っていった。二人は食事の前にお風呂に入ることにした。
男湯と女湯は隣り合わせであった。浴場の入り口の前で、
「何かあったら、大声で叫ぶんだぞ!」
と、歩美さんに言うと、歩美さんは小さく頷き、それぞれ浴場へ入っていった。
浴場に関しては、旅行雑誌に載せるだけあって、綺麗で広かった。内風呂の奥に露天風呂が見えたため、すぐに露天風呂の方へ行き、湯船に浸かった。
露天風呂は正方形の桧の浴槽で、桧のいい香りが漂っている。肩まで浸かり、体の力もすっかり抜け、少しうとうとしてると足に何かが絡まった。
手ですくってみると、それは髪の毛だった。
「ったく、掃除ぐらいしろってんだ!」
そう呟いたと同時に大量の髪の毛が浴槽の奥から浮かび上がってきた。笹木さんはその髪の毛を掴んで一気に持ち上げる。
「おいおい」
笹木さんが持ち上げた髪の毛の先には、生首が引っ付いていたのだ。目は虚ろで、口からは大量の血を吐き出していた。血の臭いが鼻を刺す。
「あふへへ、あふへへ」
生首は何かを訴えていた。そして、生首は次から次へと浴槽の底から浮かび上がり、桧の浴槽は血を吐き出した生首だらけになっていた。
「あふへへ、あふへへ」
尚も生首は笹木さんに何かを訴えてくる。
「こりゃあいったい何なんだ…。何が言いたいんだこいつらは…」
笹木さんは生首の言葉をよく聞こうとしたが、矢張り理解できなかった。
生首は急に目を見開き、呻き声を上げだした。
「キャァァァァァァァ!!」
女湯から叫び声が聞こえた。
「歩美!」
笹木さんは急いで浴槽から出て、バスタオルを腰に巻き、女湯へ向かった。
浴場から歩美さんが泣きながら出てきて、笹木さんに抱きついた。歩美さんは裸のままで泣きじゃくっている。とりあえず笹木さんは自分のバスタオルを歩美さんに渡し、ここで待ってるように伝えて女湯へ入っていった。
浴場に入ると明らかに不吉なオーラが漂っている。そして血の生臭さが充満していた。
「ガリガリガリガリ」
露天風呂の方から引っかくような音が聞こえてきた。警戒しながらゆっくりと露天風呂の方へ近付いてみる。
桧の浴槽の裏に何やら人影が見えた。
「誰かいるのか?」
浴槽の裏から頭部が少し見え、浴槽の縁にそいつの両手が乗っている。
「ガリガリガリガリ」
肌は青白く、干からびたような手で、そいつは浴槽の縁を引っ掻いていた。そして、徐々に頭が上がってくる。
「お前…、下桐だな」
浴槽の裏から出てきたのは、旅館に着いたときに会った女将だった。だが、一つ異様な所があった。舌が長い、いや長すぎるのだ。下桐の舌は地面に付くくらい伸びていた。そして、下桐の体のまわりにはどす黒いオーラが溢れているのだ。
笹木さんは下桐の異様な姿に言葉を失った。
「ジュルジュルジュルジュル」
下桐は一気に長い舌を口の中にしまい、顔をぐっと前に突き出し笹木さんの体を舐めるように見てきた。
「いい男ねぇ」
そう言ってニタニタ笑い、雑木林の中に凄い速さで走って消えていった。
とりあえず、歩美さんの服を持って浴場から出た。震える歩美さんの体をさすり、服を着させた。
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食事処に行くと、仲居さんが入り口に立っていた。中に入り、無言で食事を済ませてから女将を呼んだ。
「はい、如何いたしましたでしょうか?」
女将は笑顔で尋ねてきた。
「女将よぉ、あんた何か隠してねぇか?」
笹木さんは女将に詰め寄り、先程の出来事を女将に話した。女将の表情が険しくなるのが分かった。
「何かの見間違いでしょう。今までこの旅館ではその様なことは一切ございません…」
そう言ってどこかへ行ってしまった。
笹木さん達が部屋へ戻ると、歩美さんは崩れるように座り込んでしまった。笹木さんが優しく頭を撫でると、歩美さんは笹木さんに抱きついた。
「怖い」
歩美さんは酷く震えていた。笹木さんはそのまま歩美さんを布団に寝かせて、歩美さんの震えが吹き飛ぶくらい、激しく交わった。
歩美さんは隣で寝息を立ててぐっすり眠っている。笹木さんはその姿を見て安心し、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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「カタカタカタ、カタカタカタ」
奇妙な音で目が覚めた。隣を見ると歩美さんはまだ夢の中だ。歩美さんの寝顔を見て、少しニヤケながら音のする方を見た。
「カタカタカタ、カタカタカタ」
障子の様子がおかしい。障子の木枠の中の和紙全体が目玉で覆い尽くされているのだ。何十個、いや何百個もの目玉が瞬きを激しく繰り返し、その振動で障子がカタカタと揺れているのだ。
笹木さんはゆっくりと障子に近付いた。障子に触れようと、手を伸ばす。
すると目玉の瞬きは止まり、一斉に真っ赤な涙を垂れ流した。障子は真っ赤に染まっていく。
「キィィィィィィ」
入り口のドアが開くような音がしたため、ドアの方に視線を移した。
「キィィィィィィ」
ドアの音なんかではない。下桐が歩美さんの枕元に座っており、奇声を上げているのだ。下桐は笹木さんと目が合うと、嬉しそうにニタニタ笑い出した。
笹木さんは下桐に近付こうとするが、体が思うように動かなかった。いつの間にか体中に長い髪の毛が巻き付き、身動きがとれなくなっていたのだ。天井を見ると、髪の毛で天井が埋め尽くされていた。
「そこで待っててねぇ」
下桐はそう言うと、歩美さんに馬乗りになった。下桐の手には黒く大きなハサミが握られている。
笹木さんの目の前には、お風呂で見た生首が天井から何体も垂れ下がってきた。
「あふへへ、あふへへ」
一斉に笹木さんに何かを訴え出す。
「だからなんなんだおめーら!」
笹木さんは生首を睨みつける。
「そいつらは『舌』がないのよぉ。あたしが切って喰ったからねぇ。あなたに『助けて』って言ってるんじゃない?助けを求めてもしょうがないのにねぇ」
下桐はそう言い、だらんと舌を地面まで垂らした。下桐は歩美さんの口に指を突っ込み、舌を引っ張り出した。さらに舌を強く引っ張り上げ、歩美さんの頭は少し持ち上がってしまっていた。歩美さんは金縛りにあっているのか、身動き一つしなかったが、目は笹木さんの方をジッと見つめていた。
笹木さんの怒りは頂点まで達した。
「俺の女に触るんじゃねぇ」
笹木さんは体中に絡まった髪の毛を無理やり引きちぎり、下桐に向かって走った。そしてそのまま下桐の顔面に全力で拳をめり込ませた。
「ひぎぃ」
下桐は殴られた衝撃で、部屋の入り口のドアまで飛んだ。顔面の右側は拳の形に陥没している。それでも下桐は笑っていた。自分の舌で顔面の陥没した部分を舐め回す。すると陥没した顔はみるみる元通りになっていったのだ。
「ジャキジャキジャキ」
下桐はハサミを笹木さんに向けて、顔を傾けている。
「欲しいなぁ、欲しいなぁ」
下桐は不気味に呟く。その時外から歌が聞こえてきた。聞いたことはない歌だが、頭の中に静かに染み込んでいく様な、透き通った綺麗な歌声だ。その綺麗な歌声は段々と大きくなり、その声と共に部屋全体に真っ黒なオーラが漂ってきた。
笹木さんは振り返ろうとするが、体が全く動かなかった。そして酷い頭痛に襲われた。
下桐は物凄く険しい表情になり、舌打ちをした。そして笹木さんの横を凄い速さで通り過ぎ、雑木林へ入っていった。
下桐が消えると歌が止まり、体が軽くなった。とっさに振り返るが、そこにはもう何もいなかった。
窓から雑木林を見ると、奥の方で真っ赤な光が二つ見え、すぐに消えていった。
歩美さんの方を見ると、体を起こして震えていた。笹木さんはそっと抱きしめ、そのまま二人で眠りに落ちていった。
次の日の朝、二人は無言で旅館を後にした。車に乗り込み、サイドミラーを見たとき、後ろの方に紫の着物を着た女性が見えたという。笹木さんは気にせずそのまま発進し、家に帰ったとのこと。
歩美さんとは、旅行の後すぐに別れてしまったらしい。
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笹木さんの話が終わると、何故か杏里さんがドヤ顔をしていた。
「ねっ!うちのお兄ちゃんの話は凄く怖いでしょ!」
何が『ねっ!』なのか分からなかったが、とりあえず頷いた。
「そぉいやぁ、最後に見た紫の着物の女はおめぇに似てたなぁ」
「僕にですか??」
「あぁ、髪はおめぇみたいに金髪っぽかったし、肌はやけに白かったなぁ」
笹木さんはそう言って、僕の目を指差した。
「確か、こんな『赤い目』をしてたなぁ」
杏里さんまで僕の目を覗き込んできた。いつの間にか杏里さんの手にはソフトクリームを握られている。
「そんな女性がいたら会ってみたいですね」
この時僕は、まさかその女性に本当に会うことになるなんて想像もしていなかった。
「笹木さんって、怖いものはないんですか?」
僕はふいに聞いてみた。
「んー、怖いもんねぇ…」
笹木さんは顎を手でさすりながら考え出した。そして、僕の目を真っ直ぐ見てきた。
「ぞうさん」
笹木さんの目は本気だ。「パオーン、パオーン」と杏里さんが鳴き始めた。
アイスクリームが溶けて、杏里さんの指を伝って地面に落ちるのを、僕はただただ見つめることしか出来なかった。
作者龍悟
今回は笹木さんの話を投稿させていただきました。
下桐(舌切り)の話は続きますが、話の流れの都合上、下桐に関しての投稿は少し先になってしまいます。ご容赦ください。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。