「怖いよう…怖いよう…」
『佐々木』が俺の服の裾を掴み震える声でボソッと呟く。
闇を照らす月明かりは雲の所為で無く、携帯電話のフラッシュライトの明かりだけが俺たちの唯一の頼りとなっている…
昨日降った雨の所為かジメジメした空気が漂い廃屋の部屋の中には、カビの湿気ったような嫌な臭いがしていた。
「まだ来たばかりじゃないかよ…情けない声出すな…俺まで鳥肌が立ってきたじゃねえか。」
しかし、罰ゲームとはいえ俺はワクワクが隠しきれないでいた…
昔からこういった遊びが大好きだったからだ。
なぜこの状況におかれているかと言うと…
高校時代の友人と思い出作りにドライブに皆で出掛けようと言う話になった。
俺、佐々木、多野尻、美羽の四人でとある峠道を走行していた時に偶然、廃屋を発見したのだ…
「コレは…ぐへへ…いいものを見つけたぜぃ…」と、こちらに振り返り、悪戯っ子のように言い出したのは、助手席に座っていた美羽だった。
すると、運転をしていた多野尻が悪ノリでふざけた提案を言いだす。
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『ジャンケンで負けた者が一人で中に入り、写真撮影をしてくる』
この時、その提案を断固拒絶の声明を発したのは佐々木だ…
奴とは小学生の頃からの馴染みで、性格をそれなりに熟知していた。
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……………………………………
昔、学校の行事の一環でキャンプに出かけた時だ、夜中寝袋を寄せ合い、あろう事か怖い話を『根本』というクラスメイトのお調子者がしだしたのだ…
その話は驚くほど怖く、皆で震え上がったのを覚えている…
その時も奴は俺の手を握りしめながら顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
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…………………………………
「絶っっっ対!俺は嫌だからな!お前らやりたきゃ勝手にやれよ!」
この言葉で多野尻は廃屋の直ぐ前あたりに車を止めると…後部座席に振り返り、眉間に気持ち悪いシワをよせながら…
「ノリ悪ぃんだよ…意気地なしもここまで来ると糞だわ…」
などと言いだした。
だいたい口の悪い男、言う事がいちいち癪(しゃく)に障る
これにはさすがの佐々木もキレる。
「なんでそうなるんだよ…テメェ喧嘩売ってんのか?コラ…」
険悪なムード…
空気を変えようと俺は何とか佐々木をなだめる…
「まぁまぁ…ジャンケンに負けなきゃいいんだ…な?
もしお前が負けたら俺もついてってやるから…な?」
(俺のこの発言にに佐々木の表情が緩む…)
すると、多野尻が、
「それじゃ、罰ゲームにならn」
「それじゃ、勝負!ジャ〜ンケ〜ン!」
空気の全く読めない多野尻が更に険悪なムードに拍車をかける前に俺は急いでジャンケンコールをした。
「ポン!」佐々木以外の三人で一斉に掛け声を上げる。
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俺、グー
佐々木、チョキ(しかもちょっと後だし)
多野尻、グー
美羽、グー
……佐々木の負け
「うわぁ…」と泣きそうな顔で自分の出したこの状況には不釣り合いのピースサインを恨めしそうに眺めた後、三人を睨みつける佐々木…
この馬鹿…四人でジャンケンしたら、まず…アイコとかになるだろ普通。
一発目で負けるって…
それに最初出すのは、男は黙ってグーだろ?チョキって…
いや、ピースて…平和主義者かこいつ…
アホだ…多野尻の言うとおりだ…糞だわ…
俺も行く羽目になったじゃねえか…ったく(まあ…いいけど)
などと考えているうち、佐々木の顔が徐々に今置かれている状況を飲み込んだのか青ざめガクッと頭わ落とす…
「おい…?だいじょぶか?」
美羽が心配そうに佐々木の顔を覗きこむ…
(泣いていたと後で聞いた)
………
しかし、言葉なし。
「仕方ない…へへっ…ついて行ってやるかっ!早く行こうぜぃ!レッツGO!」
俺はまるで子供のようにはしゃぎながら、廃屋へ向かう…それが佐々木には癪(しゃく)だったのか『殺すぞ…』といった目で睨まれた…
(しかし、これは不法侵入罪という立派な犯罪であるから、けして真似しないで頂きたい。)
………………
草が生い茂り、足でそれを除けながら玄関先までたどり着く。多野尻の車からは玄関は見えない。
田舎にはよくありそうな創り…
入口は引き戸で格子にガラスがはまっているものだ…ほとんどが割れ、格子も曲がっていたり、外れているものも見受けられた
扉には鍵らしきものは掛かっておらず、というか鍵が壊れているのか難なく…
『ガララ…』
と音を立て以外にもスムーズに開く
後ろを振り向くと、佐々木は下を向いたまま動かない…
「早く来いよ!ぷははっ…おもしれえじゃん!それに多分、何もないって!」
それでも動かない佐々木をほっとき、さっさと中に入る…
『ギシ…』
埃まみれなので、靴のまま上がる
…
腐ってる場所が無いか下を注意しながら歩いていると、
shake
『クンッ』
と服の袖の裾を佐々木が掴むのが分かった…
仕方なくついてきたようだ…
ブツブツ何やら唱えながら、がっちり掴んでいるのは分かるが、何しろ真っ暗で携帯のフラッシュライトだけが頼り…足元を照らすので精一杯だ…
「おい…そんな引っ張んな…」
「怖いよう…怖いよう…」
佐々木が情けなく、女のような声で呟く…
程なくすると先ほどまで雲に隠れていた月が出てきたのか部屋がほんの少し明るくなって辺りが見えるようになったので、携帯の充電を考慮しライトを消した。
青い明かりが部屋を照らすと部屋の片隅に姿見の大きな鏡があるのがわかった…
ゆっくりと、散乱する家具などを跨ぎながら鏡の前に立つ…
以外にも他の部屋にある家具と比べ綺麗で割れているところも見られなかった…
一畳程もあろうか本当に大きい鏡だった。
俺の影と後ろに隠れるように佐々木の頭が映る…
やはり、この環境、この状況で見る鏡っていうのは気味が悪い…
すると、佐々木が俺の影から顔を出す…
蒼白い顔…
この馬鹿…なんて顔色してやがる…
…………?
何でこいつの顔だけ鏡に映るんだ?
鏡に映る俺の顔は月明かりの所為で逆光になりほとんど映らない影だけなのに、佐々木の顔はそれなりに見えるくらいに映る。
少し気味が悪かったがもしかしたら反射の関係かもしれない…
『ピリリ…ピリリ…』
shake
携帯が急に鳴ったため、ビクっとなる。
画面表示に『美羽』と出ている。
『ピッ』
「ホイホーイ?何?」
『今、お前…廃屋ん中?』
「そうだよ?なんで?」
『だって、佐々木の馬鹿…一人で戻ってきやがってさ…お前、一人だろ?』
「は?ハハハ…ビビらせようとしてんだろ?多野尻の差し金かね?ん?佐々木なら俺と一緒に居るよ…」
『え……?お…おい…やべぇよそれ…早く出て来いよ…ズズズ__________プッ』
変な音とともに切れた。
何が言いたかったのかよくわからず、携帯のフラッシュライトを鏡に照らす………………
佐々木が鏡を睨みつけている…………
やはりここにこうして俺と一緒に居るじゃないか…
記憶が何と無く曖昧だが…
確かにこの廃屋に入った時に俺の後ろに佐々木は下を向いたままついて…いや、
その時は佐々木の顔は確認してないが、確かについてきていた。
電話では佐々木は車に戻ったとかなんとか言っていた…
「おい…佐々木ぃ…なんか美羽が心配してっから早めに写真撮って出ようぜ…」
反応がない…鏡を睨み続けている。
「おい!?」
「うん…」
ようやく返事をしたので、取り敢えず鏡に携帯カメラを向けシャッターをきり、出口に向かった…
以前、佐々木は俺の服の裾を掴んだまま離そうとはしなかった…
部屋を出て左側が玄関、右側が廊下があり奥に何部屋かあるようだ。
この家のドアにはすべて磨りガラスがはまっていて、月明かりが差し込んだ事で何部屋あるのかが分かった…
部屋を出て玄関に行こうと歩くと佐々木が急に俺の腕を掴み強く引っ張った…
「そっちじゃ…無い」
佐々木の声とは思えない低くかすれた声…
手は異常な程冷たく、人の手とは思えない程骨ばっている…
この時、俺はようやくコレが佐々木では無い事に気がついた。
「大変なの…来て…」
嫌だ…
「怖がらなくていい…来て…」
嫌だ…離せ…
「お願い…」
嫌なものは嫌なんだ…離せ…
身体はいう事を聞かないし、息が殆ど出来ず、喋ることすら出来ない…
そいつは無理矢理 俺を奥の部屋に引っ張り込むと部屋の真ん中辺りに指をさした…
宙に浮いた人影が何と無く見える…
「明かりを…」
嫌だった…なのに俺は携帯のフラッシュライトをその場所に何故か向けていた…
天井の梁にロープが結び付けられまるで創りもののように人がぶら下がっている…
だいぶ長く吊られていたのか、首が細く長くなっている…
この時、一番俺を苦しめたのはその部屋の臭いだ…
吐きそうなほど途轍もない腐敗臭と糞尿の臭いが部屋を包んでいる
『ギシシ…ミシ…』
死体が動くはずが無い…
しかし、その身体が少し動いたような…
と、次の瞬間…
shake
『ビィチッ!!……ゴドェッッ!』
と、その自殺者の伸び切った首が千切れ頭を残し胴だけが、床に落る…
冷静な状態でいられる訳がなかった…
だが、叫びたくても声が出ないのだ…
死体の顔をみた……
その顔をみてある事を思い出していた。
俺の影から顔を覗かせ鏡に映っていたのは…
今、目の前で首をくくって死んでいる酷く蒼白い顔をしているこの女だったんだ…
ガキの頃から仲良しの顔を見間違うなんてどうかしている…しかも女だし
そんな事を考えていると。
「見つけてくれて…ありがと…」
そいつがゆっくりと喋り掴んでいた手を離した…
フッと身体に自由を取り戻した俺は
「うわああああああ!!!!!」
と叫びながら、我も忘れ、体を彼方此方にぶつけても気にせず、この家から外に飛び出した…ひたすら走り美羽の車の元へ着くと、その場に崩れた…
皆が驚き車から降りてきて俺を車に乗せてくれた…
「何があった?」「大丈夫か?」
などと声をかけられだが、見てきた事を上手く説明出来ず、兎に角警察に向かってくれとだけ美羽に告げ、顔を伏せたまま動けずにいたのを覚えている
警察に着くと、冷静さを少しだけ取り戻し、警官に詳しく事情を説明した…
不法侵入罪はもちろん適応され、俺は前科持ちだ…
死体は自殺の線でかたずけられたようだ…
後に…思い出して携帯の写真を皆で見てみた…
………………………
鏡に情けない顔で映る俺と、俺の裾を掴んでいた女
その他に五人ほどの何者かが写り込んでいた…
皆、あの家で亡くなったものなのだろうか…知る術は無い。
最近はもう、あの場所には行っていないが、取り壊されたという話を後で聞いた。
作者退会会員
上手く書けなかったのですが、せっかくここまで書いたので載せました。駄文失礼しました