冬ってのは、夜が来るのが早くて好きだ。
それが例え、人肌恋しいクリスマスが近付いてこようと、今年は乗り越えられそうだ。
そう、俺はきっとその日も、あの子との、夢を見るのだから。
これは兄貴が死んでしまってからの、俺達4人の話し。
あの子との、夢が始まったのは、
いつものように失恋ソングを爆音で聞きながら、“自暴自棄号”あらため、深夜便トラックを運転していた夜のことだった。
深夜2時、○○県の○○総合病院に着く。
全国のどこにでもある、綺麗で大きくて、デパートのような総合病院だ。
一晩の内に、仕事でまわる4つの病院の内の最後の病院だ。
その日も、裏口へと回り配達用の荷物を用意していると、暗がりから人が走ってくるのに気付いて少しだけ身構える。
その人は病院の巡回をおこなっている警備員さんで、急患が入ってくるからトラックをどかしてくれと頼まれ、慌てて裏口、兼、緊急用の出入り口をあけたのだった。
専門用語を飛び交わせながら、病院内から出てくる看護士が、サイレンという名の不安を撒き散らす救急車を慌ただしく出迎える。
(事故だろうか…?)
運び込まれる車輪付きのベッドが横を通り過ぎるとき、不謹慎にも覗き込んだ。
好奇心は猫を殺すが、野次馬までは殺せないだろう。
『邪魔です、どいてください!』
と、看護士に押し退けられた時、ベッドに横たわる女の子と目があった。
(あ、可愛い…)
20~3、4歳くらいの子だっただろうか。
あっという間に通りすぎた一瞬の出来事。
そして仕事へと戻り、荷物を病院内へと運び込み俺も入っていった。
手術室横の洗濯部屋のようなところで、汚れた白衣やら、シーツやらを回収するのだが、やっぱり、今日はさっきの女の子の事でドタバタしているようで、ナース達とエレベーターで乗り合わせた。
『ねー、さっきのUちゃんて、この間退院した子だよね?』
小太りのナースは、カルテだかなんかの資料を片手にエレベーターの回数表示を眺めたまま隣にいる背の高いナースに声をかけていた。
『なんだか、容態が悪化したらしいよ、先生が危ない状態だって言っていたしね…』
おい、おい、俺も乗ってますよ~と思ってみたりもしたが、彼女たちにとって配達業者の俺はどうでもいい存在なのであろう。
そして、その日の仕事を終え。
家へと帰り着いたのは、深夜3時半。
活動をやめ、静かな眠りへと落ちているであろう、隣人達を片っ端から、たたき起こしたとして、逃げきれるのであろうか…それはゾンビ映画さながらの追いかけっこを堪能できるはずだ…。
よし、今度試してみよう!
妄想とも企みとも言える、楽しげな計画をベッドで横になりながら描いているうちに、眠りに落ちたのだ。
俺は走っていた…
ひたすらつづくマンションの廊下を…
全てのインターホンを鳴らしながら!!
鳴らすと同時にドアは開かれ、中からはゾンビが出てきて追いかけてくる!!
1つ鳴らせば1人増える~♪
2つ鳴らせば2人に増える~♪
謎な歌を口ずさみながら。
どこまでもどこまでも続く、廊下をひたすら走り続け、鳴らし続け、増え続け、そして思い出す。
(あ、俺、心臓に負荷かけちゃダメなんだ…)
次の瞬間、強烈な痛みが胸に走り、前のめりに崩れ、勢いにまかせてゴロゴロと転がった。
『んんんぁああ…』
うめき声のような悲痛な声がもれる。
でも、逃げなくては!
ゾンビ達はもうすぐそこまで来ている!!
…やばい…終わった…
そう思った瞬間、倒れていた俺の真横のドアが開かれ、
『こっちよ!!』
と、見知らぬ女の子に部屋の中へと引きずり込まれた。
『ハァハァ…たす…かったよ…ありがとう…』
礼を言いながら、俺はドアスコープを覗き込む…
その瞬間は一瞬でフラッシュバックした。
ドアスコープめがけてゆっくりと向かってくる包丁。
刺さるわけがないのに目を一突きにされるような感覚。
そして足がもつれ、そのまま後ろへと倒れていき…
ベッドの骨組みに頭を強打して目が覚めたのであった。
作者Incubus
トラブルメーカーシリーズ~セカンドシーズン~
トラブルメーカーシリーズがいわゆるセカンドシーズン突入です!!
一回り歳の離れた兄貴は死んでしまったのに、Aの中にその意思は生き残った。
彼女のNと、彼女を守るもう1人の人格S…
4人の関係はよりいっそうカオス化していくばかり…
トラブルを巻き起こしながら彼らはどこへたどりつくのでしょうか…
ホラー×恋愛
異色のストーリーをお楽しみください!
ノミネートしていただいた
『くるって』
をふくむファーストシーズンは『トラブルメーカーシリーズ』で探すか、筆者のプロフィールから投稿した話を読んでいただけます!
よかったらそちらも読んでいただけたら、セカンドシーズンをもっと楽しんでいただけると思います!
それでは今後もゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。