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夢見る君は夢にいる(後編)

中編5
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夢見る君は夢にいる(後編)

ボォ~っと寝ぼけた頭で、ひとつの事に気がついた。

さっきの子、昨日も夢で助けてくれた子だ…よ…な??

顔を思い出そうとしてみても、おぼろげで、あやふやで、顔のイメージが定まる事なく消えていく。

そのせいだろうか、よりいっそうその子への興味がわいてくる。

誰だったんだ?

知り合いだっただろうか??

芸能人ではないし…どこかであっただろうか?

可愛かったよな…?

なぜかその点に関しては自信があったのだ。

それが全ての原動力になる。

兄貴は一時期、明晰夢にはまっていた。

明晰夢というのは夢の中で夢を見ていることに気がつき、その夢をコントロールできる夢の事なのだが…

ちゃんと兄貴が得意そうに、

『明晰夢ってのがあってな…』と教えてくれているときにしっかりと学んでおけばよかった。

『なぁ、教えてくれよ兄貴…』

胸に手をおいて目を閉じた。

すると本棚のビジョンが、脳裏に浮かんだ。

そうだ!ここは兄貴の部屋で、兄貴の荷物はほぼそのままになっている。

本の虫だった兄貴の知識のほとんどはそこにあるはずだ。

スースーと小さな寝息をたてるファラオの眠るベッドに背をもたれかけ、本棚から取り出した一冊の本に目を通し、ただひたすらに文字の羅列された海を泳いだ。

難しく書かれていても基本のルールはそんなに難しいものではない。

1、夢だということに気がつくこと。

2、起きないようにするための行動を決めておくこと。

3、夢は自分の指揮下に置いておくこと。

後は想像力の許すがままに好き勝手にできるのだ。

その日からトレーニングを早速始めた。

朝昼晩、暇を見つけては、仕事の合間に、眠りについた。

自然とその子に会える回数は増え、悪夢で目を覚ますことは少なくなっていった。

それに比例して疲れのとれない日々が増えていった。

会う人、みんなに『やつれた』だの『ちゃんと寝ているのか?』と心配されることも多くなったが、きっと寝ている間も楽しんでいるから休まっていないのだと、特に気にもしていなかった。

本に書いてあった夢だということの確認は、わかりやすく操作しやすいものにした。

常にスイッチを探すのだ、なんのスイッチでも可能なのだが照明のスイッチがやりやすかった。

見つけたら手でON/OFFを繰り返す…

ある程度したら、手をはなし、ON/OFFをイメージする。

夢だとそれが面白いように、触れていないスイッチが入ったり、消えたりするのだ。

そして目覚めないための行動は、目を閉じることにした。

いつだって夢は曖昧で突拍子もない。

空を飛んでいたのに、急にその高さに怖じ気づき、飛べなくなり、落ち始める。

そして叩きつけられる恐怖心から目覚めてしまう。

そうならない為に、目を閉じ新たな想像をするのだ、そう夢の上塗りをするのだ。

これができるようになった頃には夢は自分の指揮下にあるも同然。

その知らない子とは、いろいろな夢で遊び尽くした。

2人で世界を救ったり、コロシアムで幾千もの兵士をなぎ倒して、全ての勝利をその子に捧げたり、両家の不仲に挟まれ共に命を落としたり…

スローモーションの土砂降り雨の中、初めてキスをした時には、もう目覚めたくないと切に思った。

世間はクリスマスだと騒ぎ立て、孤独な人間を追いやるが、それも今の俺にとっては、どうでもいいことに過ぎなかった…

トラックで走り慣れた4車線の大きな道路に、寝そべっていた。

今の俺にはスイッチを探す必要すらないのだ…ON/OFF…ON/OFF…

世界は朝になり、夜になり、明るくなり…暗くなり…

(うん、夢の中だ…でも、いつ寝たんだっけ…?)

という疑問が小さく浮かんで、すぐに、

(まぁ、いいや。)

と、消えた。

そして、視界の遠くに最後の配達先になっている病院を見つける。

誰もいない静かすぎる世界に少し不安になり、目を閉じ深呼吸をひとつ。

目を開くと、目の前には、先ほどまで遠くに見えていた病院がある。

病院の中はナースやらドクターやらが慌ただしく走り回っていて、少しだけ安心をした。

そして、

(あれ?あの子がいない…)

と、いうことにも気がつく。

いつもならすぐに出てきて、いろいろなことを2人でしているのになと、考えつつ病院内を歩き回ってみた。

エレベーターに乗ると、以前乗り合わせたナース達が入ってくる。

小太りなナースはエレベーターの階数表示を見ながら言う。

『Uちゃん頑張ってたのにね…』

背の高いナースは答える、

『仕方ないのよ、先生も最善を尽くしていたし…』

2人は沈黙し、エレベーターは動き出す。

チーンと、到着を知らせる音が鳴り、2人は無表情のままこちらへと振り返り、

ジーっと俺を凝視する。

とっさにビクッと後ろへたじろいでしまう。

すると背後にあったエレベーター備え付けの鏡の中から声がする。

『こっちよ!!』

振り向くと、そこにはいつも夢で会う子がいた。

2人で鏡の中へと逃げ込み走った。

病院の中は顔に白い布をかけられベッドに横たわる患者だらけだ。

その子は泣きながら走る、俺は『どうしたの!?』と聞きながら、その子に手を引かれ走っている。

『もう、ダメなの!!あなたの命を借りながら頑張ったけど、ダメだったの!!』

『なにいってるの!?何がダメなの!?』

『アナタはダメなの!戻って!!』

何を言っているのか理解できなかったが、なにかイヤなことが起きる事は、手に取るようにわかった…

そして俺は目を閉じた…

その瞬間『ダメ!!起きて!!!』と胸を物凄い力で叩かれた気がした…

それは、まるで心臓を動かすために電気ショックをされたような…そんな感覚…

薄れた意識の中、声がいくつも耳に入る。

『危ないから離れてください!!』

(ごめんなさい…ありがとう…)

『A君!!やだ!!A君!!!』

(本当に楽しかった…ありがとう…アナタは目を覚まして…)

そして、目を覚ました時、俺は病院のベッドで、また、いろんな機材をつけられ寝ていた。

『Aさん、お目覚めはいかがですか?』

医者がたずね、受け答えをする。

どうやら、トラックの運転中に気を失うように眠ってしまい、信号待ちで止まっていた前方のトラックに突っ込んで、そのまま生死の境をさ迷っていたらしい。

俺は医者に訪ねる…

『この病院にUちゃんという子はいますか?』

医者は少しうつむき、

『知り合いだったのか…残念ながら彼女は、数時間前に亡くなってしまった。ちょうど君がここに運び込まれたころだよ…残念だね…』

と肩を落とし部屋を出ていった。

そうか…やっぱり、あの時の子だったのか…

どうしようもなくやるせない気持ちになり、自分の携帯を手にとり、なにも考えたくなくて、ただ眺めていた…

そこで見つけた彼女ちゃんへの発信履歴が通話履歴になっていたことに気がついたのは、病院を退院した頃の話しなので、それはまたいずれ、

書くとしよう。

Concrete
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マッスル樽さん コメントありがとうございます!!
楽しんでもらえて何よりでございます!!
今年もお願いします!!

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ローザさん コメントありがとうございますヽ(^o^)丿!!
そして僕も兄貴が好きです(;_;)ウゥ
兄貴は消えていないので今後もお楽しみいただければと思います(^_-)

返信

面白かったです(*^^*)
私はやはり兄貴が好きだ(´;ω;`)ウッ…

返信